月刊総合雑誌2015年10月号拾い読み (記・2015年9月20日)

 8月14日、安倍談話が発表されました。その後、もっとも早く店頭に並んだ月刊総合雑誌10月号は『WiLL』で、巻頭は渡部昇一・上智大学名誉教授「『安倍談話』は百点満点だ!」でした。「私は非常に高く評価する。いまできる範囲の総理談話では最大限の内容になった、との感銘を深くするとともに、戦後を克服し、これまでの総理談話を形式的には引き継ぎつつも大きく乗り越える内容になった」と渡部は絶賛していました。「(中韓)両国からの反発は思ったほどには強くない。『強く反発することができない』内容だったからであろう」とし、「総理談話について『お詫び』『植民地支配』『侵略』『慰安婦』などというキーワードにこだわり、談話の意義を見失っている朝日新聞などのマスコミは大敗した。これらの文言を盛り込みながら、村山談話はおろか、東京裁判史観をも乗り越えた安倍総理の、そして日本の大勝利である」と展開しています。
 21世紀構想懇談会の一員だった山内昌之・明治大学特任教授は、『中央公論』での佐藤優・作家・元外務省主任分析官との対談「安倍外交の陥穽」で、「海外の評価も、ある意味、想像以上に高かった」、「中国、韓国でさえいつもほど反日、反安倍に迫力がない」とし、佐藤は、「これほどアカデミズムの成果と政治家の主張が重なった談話の類はありません」と評価しています。山内の結語は、「安倍政権には、『本音は違うのだろう』などという疑念を払拭する、グローバルな積極的平和外交を望みたいと思います」です。
 『文藝春秋』の徳岡孝夫・ジャーナリスト「戦後談話はもう勘弁してくれ」は、「戦争が終わって七十年も経てば、それはもはや歴史であって、現実ではありません。歴史になってしまえば、あとはもう歴史家の好きなように組み立てられる。現実に向き合う政治家の仕事ではないのです」とし、だから、総理談話は「今回限りでもう勘弁してほしい」とのことです。

 「大特集」と銘打って、「日本よ、中国を超克せよ」を『文藝春秋』が編んでいます。
 フランスの歴史人口学者のエマニュエル・トッドは、「幻想の大国を恐れるな」で、「現実の中国」は人口、経済に問題を抱えていて、苦悩しているのであり、多くは「幻想の中国」だけを見つめていると問題提起しています。トッドが日本に求めるのは、「中国を過度に恐れたりヒステリーやパニックに陥ったりすることなく、合理的で理性的でプラグマティックな態度で」臨むことであり、「自分をうまくコントロールする力」です。
 船橋洋一・ジャーナリスト×デイヴィッド・ピリング・「フィナンシャル・タイムズ」アジア編集長「バブル崩壊とAIIBの吉凶」は、アジアインフラ投資銀行(AIIB) に、中国は自国にとり重要なプロジェクトを担わせることはないとします。ピリングは、中国経済は過去十年で最悪の状況にありますが、かといって「政府に対する不満も、地域の共産党幹部の汚職どまり」で、「国民の関心は日々の生活の質をいかに高めるかにある」と言います。また、歴史認識や領土問題で中国の日本批判は続きますが、「従来の行きすぎた反日姿勢を改めようとしている節がうかがえます」とも分析しています。
 城山英巳・時事通信社北京特派員「天津大爆発 癒着と政治闘争の果て」は、「『安全』より『利益』が、『人命』より『政治』が優先される中国の現実」を難じています。危険品を保管していた業者は、政治との癒着で許可を得ていたかのようです。

 『中央公論』は「習近平の実力」を、『Voice』は「どん底の中国経済」を特集しています。天津の爆発については、『中央公論』には遠藤誉・東京福祉大学国際交流センター長「天津爆発事故が揺さぶる習政権の足元」があり、『Voice』には福島香織・ジャーナリスト「天津爆発をめぐる政治の暗闘」があります。

 『中央公論』の特集の巻頭は、白石隆・政策研究大学院大学学長×川島真・東京大学教授「習近平は真に強いリーダーか」です。二人は、中国政治では保守派が力を強め、習が短期間で軍隊を掌握したと認識しています。ただ、川島によれば、中央と地方の緊張関係が激しくなり、習の決定を地方に下ろして実行させるシステムが十分に機能していない、のです。
 津上俊哉・津上工作室代表「ピンチに喘ぐ中国経済の実態」によれば、「中国経済は投資バブル終焉後のポストバブル期にある」のです。「財政出動で景気を下支えせざるを得ない」のですが、それにも「節度」が必要なので、大型の景気対策は求められないのです。人民元の切下げは、IMF(国際通貨基金)の市場実勢に基づいたレートにすべきとの宿題に応えたもので、輸出産業を支援するためでないとのことです。ただし、「いまのレートを維持することは、中国経済にとって既に荷が重くなっている」可能性があるので、「秩序だった元安を認めるような国際コンセンサス」が求められているようです。なお、「今すぐ中国経済が崩壊することはないが、ピンチに喘ぐその姿は、AIIB設立にみられたように国際社会でジリジリと影響力を増すような中国のイメージとは対照的だ」とのことです。
 津上は、『Voice』 の特集にも、「グローバル・リスクに備えよ」を寄せ、次のように述べています。「中国の不景気は長引く」のは確実ですが、「中国経済崩壊間近!?」式の過剰反応はしてはなりません。ただ、万一のリスクに備える必要はあります。ことが生じれば、「チャイナ・リスク」どころか、「グローバル・リスク」となるのです。「中国経済はそう簡単に『崩壊』しないが、われわれは日本丸の艦橋から中国大陸の『混乱』の様子を双眼鏡で観察しているだけでは済まない。縁起でもないが、そのときは日本丸自体も津波に襲われることに備える姿勢が必要になると思う」と、津上は結んでいます。

 『中央公論』の特集に戻ります。
 小原凡司・東京財団研究員・政策プロデューサー「胡錦濤と結び、解放軍を掌握した力業」は、「二〇一二年以降に行われた人民解放軍の人事から、習近平が確実に軍を掌握しつつあることが明らかになった」と述べています。共青団を支持母体とする胡錦濤と太子党の習は、本来、政敵であってもおかしくないのですが、共通の敵である江沢民派の排除では「タッグを組んだ」のです。 ボニー・グレーザー・戦略国際問題研究所上級研究員「対米認識の変化がもたらした中国の南シナ海進出」は、「二〇〇九年以降は多くの中国人が、米国は衰退し、パワー・バランスは中国優位に傾いていくと信じるようになった」ので、「中国に南シナ海での振る舞いを変えさせる」ことになったと分析しています。日本のプレゼンスと関与を期待しています。
 呉軍華・日本総合研究所理事(ワシントン駐在)「『不信邪』という猪突猛進の果てに」は、習を「相当な能力や手腕の持ち主である」、「現時点では、純政治的な不安要因はほとんど見当たらない」としています。「『不信邪』のメンタリティが習政権の政策に大きく影響している」のです。「不信邪」とは、「良く言えば『我が道を行く』。悪く言えば『唯我独尊』」とのこと。呉は、日本に長期的な国家戦略を求めています。「中国が好きか嫌いかではなくて、中国経済が破綻した場合の混乱を回避するために、中国をソフトランディングに誘導するにはどうしたらいいかを考える必要がある」のです。

 石破茂・地方創生担当大臣×門川大作・京都市長「地方創生は首長次第」『Voice』 は、いかに国家を立て直すかの問題意識をもって、文化庁の京都移転計画を含め、「地方創生」を論じています。首長は4年の任期が保障されている大統領に近い存在です。「自治体に本気度と覚悟が問われている」のです。
 『文藝春秋』には、増田寛也・日本創成会議座長×冨山和彦・経営共創基盤代表取締役CEO×藻谷浩介・日本総研主席研究員「『地方消滅』回避の処方箋」があります。人口減少により、地方だけでなく、東京も消滅の危機にあります。所得格差でなく、コスト差を考慮すれば、地方での生活が有利となります。最低賃金を上げ、若者に地方で職を与え、地方経済を活性化させるべきとのことです。

 野田佳彦・衆議院議員×津賀一宏・パナソニック社長「課題先進国・日本の未来」『Voice』 は少子高齢化社会、エネルギー問題などへの対応策を主に論じています。野田は消費税の必要性を強調しています。

 (文中・敬称略、肩書・雑誌掲載時)

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