月刊総合雑誌2015年11月号拾い読み (記・2015年10月20日)

 『Voice』 は「韓国大変!」を総力特集として編んでいます。
 巻頭は、室谷克実・評論家「『金持ちは無罪』の国」で、韓国の10大財閥の総帥のうち7人が懲役刑の判決を受けたが執行猶予付きで例外なしに赦免を受けていると記しています。「有銭無罪」、つまり“金持ちは無罪”とのことです。今年の法の記念日に、黄教安法相が「法曹人が率先垂範して法を守る姿を見せることが法治主義確立のカギだ」と述べたことをもって、室谷は、韓国はいまだ法治主義の国ではないと法相が認めたと断じています。なお、ほどなく黄法相は首相に抜擢された、とのことです。
 シンシアリー・韓国人ブロガー「中国が撒いた『反日』の餌」には、中国・北京郊外の「中国人民抗日戦争記念館」の展示のうち、北朝鮮関連は大幅に減り、韓国関連が大幅に増えたとあります。彼によれば、中国は、「韓国という国家のアイデンティティーそのものに反日(抗日)が関わっていること」を知っていて、「反日を、韓国を日米から離間させるための餌として利用している」のです。 辺真一・『コリア・レポート』編集長「訪米で岐路に立たされる二股外交」によりますと、「経済を中国に、安保を米国に依存する韓国からすれば、中国はパトロンで、米国が用心棒のような存在」なのです。「オバマ大統領の顔を立てれば、習主席が機嫌を損なうことになり、朴大統領の二股外交は大きな試練に立たされるだろう」と予見しています。
 三橋貴明・経済評論家「笑うしかない『属国への道』」は、「韓国は世界的な外需縮小(とくに、中国の需要)と、国内経済のデフレ化」の二重の枷を嵌められていると分析しています。米国の警告を振り切る形で、朴大統領は北京での軍事パレードに臨席しました。「結局のところ、韓国は国家として『中国の属国への道』を選択したことになる」と難じています。さらに、「中国は韓国の経済成長率を引き下げる政策を次々に打ってくるにもかかわらず、大統領は媚びを売り続ける。属国というのは、こういうものなのだなあ、とつくづく感心した次第である」とまで言っています。
 「中国という長いものに巻かれる韓国が、米国と日本との関係を再調整する過程に入りつつあることを米国は見抜いている。東アジア動乱の時代がやって来た」と、武貞秀士・拓殖大学大学院特任教授「中朝韓の危ない未来」は危惧しています。また、「韓米中の政策協調、米韓同盟強化、中韓経済連携」が順調に進んでいると楽観視している韓国は、慰安婦・教科書・靖国参拝問題で日本に譲歩する可能性は少ないとも指摘しています。中韓、米韓関係を使い分けて、韓国は北朝鮮包囲外交を進め、一方、自信を深めている北朝鮮は、弾道ミサイル実験準備・核開発を続け、経済再建との並進路線を続けるようです。武貞は、「朝鮮半島は、自尊心、自負心の外交をするところなのである」、「東アジアはやはり誤算、誤認による軍事衝突があることが判明した」と展開しています。まさしく「東アジア動乱の時代がやって来た」かのようです。
 『文藝春秋』の小武定彦・ジャーナリスト「朴槿恵vs.金正恩 危険な神経戦」は、8月の北朝鮮と韓国の軍事的緊張が対話により沈静化した背景を描いています。北朝鮮側の社会・思想基盤は弱体化し、人々の心は金正恩から離れ続けているそうです。権力の座を維持するためにも、金正恩は、外交に力を入れざるを得なくなります。朴大統領が最も関心を寄せているのは統一問題で、「北朝鮮に軍事的にも経済的にも大きな影響力を持つ中国に接近しなければいけない」と思い定めているのですが、「韓国が中国に接近すればするほど、中国の北朝鮮に対する影響力は低下していく」という構図にあるようです。韓国政府は、日本と問題解決に合意すると、元慰安婦やその支持者に批判されかねないので、「国を代表して相手国と交渉するという外交官の立場を放棄しているに等しい」ので、「日韓首脳会談が実現しても、大きな進展は望めまい」と小武は悲観的です。
 力によって現状を変えようとする「新民族主義」に備えなくてならないと説く宮家邦彦・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹「安倍外交が対峙する『日本の敵』」『文藝春秋』は、韓国に関しては、日中間のバッファ(緩衝)なので、関係悪化は国益に資さないので、「好むと好まざるとにかかわらず良好な関係を築くしかない」と述べています。
 加藤隆則・ジャーナリスト「江沢民は習近平に白旗を上げた」『文藝春秋』によりますと、9月3日の中国・北京の抗日戦争勝利七十周年の軍事パレードの主眼は、最新兵器だけでなく、習国家主席の権威を示すことにあったのです。主席は足場を固めましたが、減速が危ぶまれる経済対策、産業の高度化への経済改革・金融の自由化、国際化など難題が山積しています。「相互依存関係を踏まえた協調姿勢が問われる」、「軍事パレードでは何も解決できない」と、加藤は言います。
 中国経済は4年ほど前から悪化傾向にあったと、坂根正弘・コマツ相談役「バブル崩壊 中国経済の反転は近い」『文藝春秋』は説き起こしています。ただし、悲観的になる必要はありません。成長率5%でも台湾一国に相当するGDPなのです。「反腐敗運動」の余波で遅れている工事が着工に結びつけば、一気に良い方向へと動き始めるかもしれないのです。
 「戦後最大規模の欧州への難民大移動」が生じています。その数は8月末の段階で50万人超、年内には百万人の難民申請がなされそうです。宮下洋一・ジャーナリスト「難民百万人 ヨーロッパの憂鬱」『文藝春秋』が、ブタペストからミュンヘンと現地ルポをしています。メルケル首相のドイツは頑張っていますが、欧州各国は高失業率に悩み、かつ国内のイスラム問題に直面したり、それぞれ不安や恐怖を抱いていますので、簡単には全面的解決とはいきそうもありません。
 EU加盟国は、12万の難民を9月22日に加盟国に割り当てることを決めました。ドイツなどが反対国を多数決で押し切ったのですが、EU内部の亀裂を浮き彫りにし、EUの連帯も激しく揺さぶられていると、熊谷徹・在独ジャーナリスト「ドイツ難民危機の衝撃波」『中央公論』は懸念しています。熊谷によりますと、2014年、日本で亡命を申請した外国人は5000人で、このうち難民と認定されたのは11人です。日本は多数の難民を受け入れる準備がないのならば、せめてシリア内戦の終結のための外交努力を強めるべきと、熊谷は提言しています。
 『中央公論』は、「禅で克つ」を特集しています。
 藤田一照・曹洞宗国際センター所長は、「坐禅は仏教の実物。仏教の教義は、みんな坐禅の脚注、フットノートで、坐禅は本文みたいなもの」と、伊藤比呂美・詩人との対談(「仏教を『する』こと。それが坐禅です」)で簡潔に説いています。また、「坐禅こそ純粋な出家」とのことです。
 御厨貴・東京大学名誉教授×平井正修・臨済宗全生庵住職「なぜ政治家は坐禅を組むのか」では、政治家が禅に魅了される背景・必要性を語り合っています。東京・谷中の全生庵には、かつて中曽根元首相が通いつめ、昨今は安部首相が訪れて、坐禅に取り組んでいます。「ふっと我に返れるような時間を自分自身で作れるという『能力』」が政治家にとって必要で、「そうした時間が、どんなことがあっても、自分を自分でコントロールできる力を作る」のだ、と平井は説いています。それらを坐禅によって得ることができるようです。
 石井清純・駒澤大学教授「永平寺での修行を望んだスティーブ・ジョブズ」は、アップルの創業者がなぜ禅に傾倒したかを詳述しています。ジョブズが好きだった言葉は、「The journey is the reward(旅路こそが報酬だ)」です。「成果主義ではなく、行為の過程それぞれに『成果』がある」ということです。
 「日本再興の鍵は教育にあり」を『文藝春秋』は大特集として編んでいます。
 森健・ジャーナリスト「安倍政権『大学改革』に成算はあるか」は、第2次安倍政権下、急ピッチで進められている大学改革、とくに「高大接続改革」「国立大学の文系学部の廃止問題」を問題視しています。「高大接続改革」では、入学選抜に公平性が担保できるかの問題が残ります。また、「文系学部の廃止」ではなく、「教員養成系の見直し」だと、文科相が否定しましたが、学部の改組改編という形で地殻変動が続いています。森は、過去の検証もせず進めようとする教育改革は拙速すぎる、と警鐘を鳴らしているのです。

 (文中・敬称略、肩書・雑誌掲載時)

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