月刊総合雑誌2016年4月号拾い読み (記・2016年3月20日)

 東日本大震災から5年という区切りにあたって、『中央公論』は「被災地が映し出す日本の歪み」を特集しています。
 巻頭は、東日本大震災復興構想会議の議長代理を務めた御厨貴・東京大学名誉教授と元岩手県知事・総務大臣の増田寛也・日本創成会議座長による対談「人口減少を直視した復興を」です。御厨は、地方はとにかく金が必要だったことを認識していなかったと反省しています。また、どの復興プランも人口減少を想定していない点を問題にしています。増田は、復興庁ができたのが震災の翌年2月など、ことごとく対応が遅かったうえ、さらに、復興庁は復興の司令塔の役割を果たしていない、と難じています。
 村井嘉浩・宮城県知事は「被災地域 3県知事、34市町村長アンケート」にこたえ、「真の地方創生」実現のためにも、「国から地方に抜本的に税財源や権限の移譲を進め、東京への一極集中の根幹にある中央集権体制の是正に向けて、究極の地方分権の姿としての『地方分権型道州制』を導入する必要がある」と力説しています。
 島田明夫・東北大学教授「被災地が暗示する10年後の日本の姿」は、復興地の現況から、雇用増をはかり、ショッピングセンターや教育施設など、生活の利便性を確保しないと人口増加につながらないと予見しています。
 岡野貞彦・経済同友会常務理事「復興に立ちはだかる『原形復旧』の壁」によりますと、現在の法制度では、新たな状況に応じての新製品を導入できないのです。むしろ「機能復旧」をはかることができるようにすべきと主張しています。
 小泉進次郎・衆議院議員・自民党農林部会長×林修・東進ハイスクール・東進衛星予備校現代文講師×南郷市兵・福島県立ふたば未来学園高校副校長「未来へ歩き始めた福島の子どもたち」は、復興にかける各自の熱い思いを語り合っています。ふたば未来学園は、福島県内初の中高一貫校で、プロの予備校講師の助言をも活かし、「前例のない環境には前例のない教育」を求めています。

 『文藝春秋』で、常井健一・ノンフィクションライター「小泉進次郎は被災地を幸せにしたか」が、どの国会議員よりも被災地に通い、避難住民に受け入れられ、将来の「総理にしたい人」のトップクラスに躍り出ることになった小泉進次郎の現地での足跡を追っています。「自己流にこだわりながら、政治利用と紙一重のところで悪戦苦闘していた」と評価していますが、「彼の成長を待つほど人々に余力は残されていなかった」とのことです。
 常井の論考は「総力特集 東日本大震災 日本人の底力」の一環です。巻頭は川島裕・前侍従長「天皇皇后両陛下 五年間の祈り」で、盛り沢山です。「東北三県『復興』の現場から」もあり、そのなかで、戸羽太・陸前高田市長「自治体にもっと権限を」が、「細々とした手続き」が復興を妨げている現状を嘆いています。上の村井の問題意識と通じるものがあります。

 津上俊哉・現代中国研究家「通貨金融危機のドミノ」『Voice』は、「(世界経済)悪化の元凶と目されがちな中国の経済情勢」の分析です。「問題には目下のところ解がなく、元安投機が終熄してくれるのを祈るしかない」、「中国が世界経済に大きな影響を及ぼす時代になったのに、世界にはいまだそういう時代をガバナンスする新しい国際秩序の準備がない」状況で、きわめて危ういのです。
 同じ『Voice』の片岡剛士・三菱UFJリサーチ&コンサルティング主任研究員「日本と世界へのダメージを試算する」は、「中国経済の成長率鈍化が輸出入を通じて各国経済に与える波及効果は、中国の実質GDP成長率が二〇二〇年に一%まで低下するというシナリオを想定しても大きなものではない」のですが、「懸念すべきはデフレ、株安、人民元レートの対ドルでの急落といったマネーを通じた混乱であり、これが長期化する可能性がいま高まっている」としています。
 武者陵司・武者リサーチ代表「史上最大の過剰投資の清算が始まった」『Voice』は、今回の一連の市場不安は中国経済の失速に端を発し、「金融波乱は人類の歴史上最大の過剰投資を行なった中国において、長く続く清算過程が始まったことの狼煙というほかない」と断じています。武者によりますと、「先進国中央銀行の最大の任務はデフレ回避」であり、マイナス金利を導入し、「中国は通貨を守るため資本規制を使うべきだ」と提言した黒田東彦・日銀総裁を評価しています。

 ウィル・ハットン・オックスフォード大学ハートフォードカレッジ学長「ポスト習近平が鍵を握る」『文藝春秋』は、中国経済の悪化を難じ、「共産党は、世界で最も大きな矛盾をはらんだ組織です。反腐敗闘争をしている彼ら自身、腐敗にまみれているのですから」と指摘し、「この先五年のうちに共産党政権に大事が起きるのではないか、と予測しています」とまで明言しています。
 一方、総合商社2015年度連結決算見通しで業界一位となる見込みの伊藤忠商事は、昨年1月、中国の国有企業CITIC(中国中信)グループとの戦略的資本・業務提携を発表しました。岡藤正広・伊藤忠商事社長は「伊藤忠は中国に活路を見出す」『文藝春秋』で、「(CITICは)いわば中国経済の心臓のようなもの。 CITICが潰れるときは中国が潰れるとき」とまで言い切り、CITICを「リードしてくれる強力なパートナー」として高く評価しています。岡藤は、「中国はまだまだこれから大いに成長する市場だと思います」と楽観的です。

 矢嶋康次・エコノミスト「マイナス金利は私たちに何をもたらすのか」『中央公論』は、「マイナス金利導入で短期的に期待されていた円安・株高はこれまで実現していない」ので、「副作用が強くでてしまっている」と分析しています。今回導入されたのは、「あくまで銀行が日銀に預けている預金に適用されるもので、一般の預金者への適用ではない」のですが、銀行収益が悪化しますと、口座手数料や支払い手数料などのアップを打ち出す銀行が生じ、一般の預金者にとって実質マイナス金利となることもありうるとのことです。
 マイナス金利政策を真っ向から否定するのは、水野和夫・日本大学教授「黒田バズーカは誤爆した」『文藝春秋』です。これまでの黒田・日銀総裁による金融緩和などは、円安・株高をもたらしましたが、景気が良くなったとの実感はなく、かつ2%のインフレ目標は達成できていません。そのうえでのマイナス金利政策導入は、「従来の量的・質的緩和に限界が見えてきた」ことを露わにしたと水野は言うのです。「もはやゼロ成長で十分」で、「経済成長を目標に掲げるからこそ、さまざまな歪みが生じる」とのことです。富裕層・高額所得者への課税を強化し、企業の内部留保には高率の法人税をかけ、所得の再分配、格差の解消を図り、財政再建をも果たすべきと展開しています。

 「人口知能」(Artificial Intelligence、略してAI)ブームが到来しているとのことで、『中央公論』が「人口知能は仕事を奪うのか」をも特集しています。
 寺田知太・野村総合研究所上級研究員「なくなる仕事100 なくならない仕事100」によりますと、日本で働いている人の49%の仕事は、10〜20年後にはAIに代替されます。ホワイトカラーの仕事はもとより、会計士、弁理士なども代替される可能性があります。代替されにくい職業には三つの特徴があります。高い創造性、コミュニケーション力を必要とし、データの分析や秩序的・体系的な操作が求められない「非定型」的な仕事です。ただし、「到来する人口減社会において、AIで労働力不足を補うことができるようになる」と考えるべきとのことです。
 松尾豊・東京大学大学院工学系研究科特任准教授「言語の壁がなくなったときあなたは世界で闘えるか」は、自動翻訳も夢ではないので、日本語の壁で守られていたブランドは通用しなくなりますが、一方で、世界中で日本語が通用するようになると説いています。「ハイレベルな工業製品と人口知能を組みあわせることで、世界で勝負することができるはず」とのことです。
 福田佳之・東レ経営研究所産業経済調査部門シニアエコノミスト「クルマの自動運転の実現は目前だ」によりますと、市街地で運転者がいない自動車が走り始めるのは、2030年頃になりそうです。

 岸見一郎・哲学者「老親介護と『嫌われる勇気』」『Voice』は、「介護は必ずしも苦痛ばかりではなく、新しい親子関係を築くチャンス」であり、「何ら見返りを求めてはいけない」と説いています。

 (文中・敬称略、肩書・雑誌掲載時)

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