月刊総合雑誌2016年5月号 拾い読み (記・2016年4月20 日)

 『文藝春秋』が田中角栄に関する2 篇を掲載しています。
 巻頭座談会が「日本には田中角栄が必要だ」で、鳩山邦夫・元秘書・衆議院議
員、朝賀昭・元秘書、増山榮太郎・元番記者、(司会)御厨貴・東京大学名誉教授
によるものです。昨年末に23 回忌、今年はロッキード事件から40 年を迎え、「角
栄ブーム」が訪れていると、御厨は言います。鳩山によりますと、角栄は「『人間
学』の天才」です。朝賀は、新潟の豪雪地帯の「克雪」を原点にし、「政治の中の
総合病院」を標榜し、「キング・オブ・ステイツマン」だったとまで賞賛していま
す。増山にとりましては、「日本国民が憧れる人間像が凝縮されている」のです。
 『天才』(幻冬舎)で角栄を描いた石原慎太郎・作家は「角さんと飲んだビール」
を寄せ、「ロッキード事件はアメリカの策略だった」と断じ、「(角栄総理時の)参
院選で投入された金は、およそ三百億円」で、「(角栄にしてみれば、ロッキード
事件で問われた)五億円は『はした金』にすぎない」とし、「卓越した文明史勘を
持っていた」と絶賛しています。
 一方、屋山太郎・政治評論家「田中角栄の増長と妄想」『Voice』は、「田中氏は
悪徳の衣を着た大政治家ではある。人間、最後は悪徳の衣を脱ぐものだ。その瞬
間に人の見方は評価に変わるものだが、田中氏は最後まで悪徳の衣を脱いだこと
はなかった」と酷評し、「公共事業を声高に叫び、それを元にこしらえたカネで子
分を増やし、権力に近付いた田中角栄の時代は完全に終わるべくして終わったの
である。念を押すが、田中政治はバブル景気と中選挙区制度が生んだあだ花にす
ぎない」と斬って捨てています。

 「ニッポンの実力」を『中央公論』が特集しています。
 北岡伸一・東京大学名誉教授「鎖国思考が招く国力の低下」は、護憲派を「鎖
国左派」、伝統に固執する人を「鎖国右派」と位置づけ、日本人の「鎖国思考」が
強まっていると危惧しています。
 現在世界27 位の日本の国際競争力(International Institute of Management
Development 作成)について、酒井博司・三菱総合研究所政策・経済研究センタ
ー主席研究員「かつて1 位だった国際競争力が低下した理由」が取り組んでいま
す。国際競争力とは「企業が発展できる環境の整備度合い」の高さと言えそうで
す。税制改革、規制改革、雇用改革が必要であり、かつ科学力を活かす「オープ
ン・イノベーション」の推進を推奨しています。
 労働生産性は21 位ですが、木内康裕・日本生産性本部生産性研究センター上
席研究員は、「AI やロボットでサービス産業の効率化を」で、米国の5 割程度し
かないサービス産業の労働生産性の向上をうったえています。
 日本への観光客数は伸びていますが、世界で22 位、観光客が日本で費やした
金額はGDP 比でみれば126 位となってしまうと、デービッド・アトキンソン・
小西美術工藝社社長「『おもてなし』で客は呼べない」と憂慮しています。「おも
てなし」は旅行先を決める決定要因ではないとのことです。自動車業界が行って
いるような徹底したマーケット調査に倣うべきなのです。
 英エコノミスト誌の調査部門が公表した『民主主義指標2015―不安の時代の民
主主義』において日本は23 位で、待鳥聡史・京都大学大学院教授「日本の民主
主義の何が映し出されたのか」は、「女性を含むマイノリティに十分な意見表出や
利益代表の機会を与えていない」との指摘は、否定し難いと述べています。
 馬奈木俊介・九州大学主幹教授ほか「『人的資本』の充実が日本の優位性を支え
る」によりますと、2012 年の国連持続可能な開発会議で新国富指標が提示され、
日本は米国に次いで2 位です。新国富指標は三つの資本群―人工資本(生産手段の
ストック)、人的資本、自然資本により構成されるものです。日本は「世界的に人
工・人的資本の強みをいかして持続可能な発展をしている」とのことです。新国
富指標を活用しますと、地方創生への指針の提供や途上国の持続可能性向上への
貢献までも期待できそうです。
 伊藤元重・学習院大学教授「新陳代謝で生産性をあげろ!」は、日本でのイノ
ベーションが、「改良型」に偏っていて、米国でのようなまったく新しいものに置
き換えてしまう「破壊型」に転換できていないことを問題視しています。デフレ
脱却を実感しなければ、挑戦する動きは期待できません。その意味で、伊藤は、
アベノミクスを重要視しています。
 特集に付せられている「日本の意外な“実力”アラカルト」によりますと、携
帯電話普及率世界73 位、政府債務残高対GNP 比1 位、個人金融資産2 位、国際
特許出願件数2 位、医療費3 位、映画市場規模3 位です。政府の債務残高が酷く
ても、消費税率が低いことや外国にではなく国民への借金ですし、大きな個人金
融資産があることから、ギリシャのようには危機に陥らないのです。

 『Voice』は「アベノミクスは死んだか」を特集しています。
 本田悦朗・内閣官房参与「消費税増税は凍結すべし」は、アベノミクスは、デ
フレ脱却のための唯一の道であり、かつ短期決戦であり、脱却に長時間を要して
は国民の信頼が薄れてしまうと恐れています。「求められるのは金融政策と財政政
策を両輪とする強力なマクロ経済政策である。デフレからの完全脱却を果たし、
二%程度のインフレ率が安定して持続するようになるまで、消費税率を断じて引
き上げてはならない」と力説しています。
 若田部昌澄・早稲田大学教授「緊縮では財政再建ができない」は、「アベノミク
スは失敗したのだろうか。答えはノーだ。アベノミクスはまだ失敗していない。
ただ、このまま消費税増税を予定どおり実施すれば失敗するだろう」と記してい
ます。そのうえで、「ここまで消費が冷え込んでしまった以上、原点への回帰だけ
では回復に繋がらないだろう。パワーアップ、強化が必要だ」と主張しています。

 黒田東彦・日本銀行総裁「『マイナス金利付き量的・質的金融緩和』への疑問に
答える」『中央公論』は、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」は、「金融機関
収益に影響する面がある一方で、家計や企業に緩和のメリットがあり、デフレか
らの完全な脱却を実現するための政策です」と述べ、「日本銀行は、この政策のも
とで、二%の『物価安定の目標』の早期実現を図ります。デフレに戻ることはあ
りません。必ず、二%の物価安定を実現します」と“疑問”に答えています。
 黒田の論考に続いて、熊谷亮丸・大和総研執行役員チーフエコノミスト「欧州
でも為替安による輸出増、株価押し上げ効果があった」の黒田への賛成論、熊野
英生・第一生命経済研究所首席エコノミスト「不動産に資金が流れ、設備投資に
流れにくくなる」の懐疑論が掲載されています。

 高橋篤史・ジャーナリスト「野党結集に潜り込む共産党の打算」『文藝春秋』は、
「このところ、共産党の勢いが止まらない」ことから、同党の今後を読み解こう
としています。「全選挙区に自前候補を立てることを党是」としてきた共産党が、
「ここにきて自前候補取り下げのカードを切り、野党共闘の主導権を握った」の
です。しかし、その背景には、党機関紙の部数減や党員の高齢化などによる党財
政の逼迫があると、高橋は分析しています。

 『Voice』は、「危ない!韓国」をも総力特集として編んでいます。
 室谷克実・評論家「『ヘル・コリア』の恐怖」は、「米国からも中国からも信頼
されていない」と韓国に厳しいものがあります。現況は、「輸出もダメ、内需振興
もダメ」で、外資の逃避が本格化する惧れさえあるようです。
 李英和・関西大学教授「『反中国の怪物』になった金正恩」は、「北朝鮮が『新
たに北京を核弾頭の照準に加えた』と明言する日はそう遠くない」と予測し、「日
本が韓国主導による朝鮮半島の早期統一を強力に支持し、日韓両国が北朝鮮問題
で緊密な協力関係を築き固めることが重要である」と提言しています。
 日本の朝鮮統治時代に韓国人と結婚した日本人女性が、高齢化し、かつ差別と
困窮の生活を強いられてきた実態を、拳骨拓史・作家「在韓日本人妻を救え」が、
報告しています。

 阿川尚之・慶應義塾大学教授×加藤良三・元在米特命全権大使×白石隆・政策
研究大学院大学学長「中国の軍事力増大にどう立ち向かうか」『中央公論』が、日
米同盟の一層の強化の必要を唱えていました。

 (文中・敬称略、肩書・雑誌掲載 時)