月刊総合雑誌2016年6月号
拾い読み (記・2016年5月20
日)
高英起・デイリーNKジャパン編集長「金正恩と北朝鮮10の謎」『文藝春秋』は、北朝鮮は、何ゆえに労働党大会を開催
するのかなどの謎を検討し、国際社会・日本がいかに対峙すべきかを論考しています。確実に言えることは、「王朝のような
極めて独裁的な体制を目指している」ことだそうです。「暴君が率いる国家」を容認するのか、平和と安定のためなんらかの
アクションを起こすべきなのかの難題を国際社会は突きつけられている、とのことです。
『Voice』の総力特集は「日米韓同盟の落とし穴」です。
そのなかに、長谷川慶太郎・国際エコノミスト「金王朝崩壊のカウントダウン」があります。「次の労働党大会で中国が据え
たトップが承認されれば、三代にわたる北朝鮮の金王朝が崩壊し、中国による傀儡・北朝鮮が誕生するカウントダウンが始ま
る」とまで言い切っています。
韓国の政情を憂えているのが、池東旭・ジャーナリスト「レームダック化する朴大統領」です。ねじれ国会により、北への
対処が円滑・的確とはいかないのではと危惧しています。
中西輝政・京都大学名誉教授「世界に介入しないアメリカ」は、トランプ大統領候補の「孤立主義」はアメリカの民主主義
の理念と合致しているとし、アメリカの対外政策の変遷を歴史的に分析しています。「孤立主義
(isolationism)」ではなく、「対外不介入主義(non-interventionism)」と呼ぶべき
で、それは本来の建国の理念なのです。ただし、「(アメリカは)『介入』と『不介入』とのあいだを絶えず振り子のように
揺れ、そのたびに世論を巻き込んで国家の進路を大きく変えてきた」のです。また、アメリカは「世論の強い国」ですから、
「つねに民意の揺れ幅が大きすぎるがゆえに政治・外交上の振る舞いが一八〇度変わってしまい、そのたびに外部からアメリ
カを見る者を幻惑させることになる」のです。
アメリカの人々の不満のうち、高額な収入を得ている政治家が既得権益維持のため勝手な政治を続けているとの不満が積も
り積もって、トランプ旋風になったと、日高義樹・ハドソン研究所首席研究員「日本は孤立し、独立する」は指摘します。不
満の矛先は、大企業が君臨する経済体制、自由貿易にも向けられています。「日本は政治的にも軍事的にも孤立しつつある」
のです。それは「アメリカが戦略を変えて、日本を防衛し保護するのをやめようとしている」からなのです。
近藤大介・『週刊現代』編集次長、「現代ビジネス」コラムニスト「パックス・チャイナの欺瞞」は、中国の習近平主席は
古代東アジアの「冊封体制」の再構築を企図しているとし、それを「パックス・チャイナ」と名付けたい、と展開していま
す。「海の万里の長城」計画が始まり、「その第一弾が、南シナ海の埋め立て」なのです。「伊勢志摩サミットで、日本はア
メリカと協力して『毅然とした声明』を出せるのか。東アジア全体が、安倍晋三政権の『外交手腕』に注目している」が、近
藤の結語です。
岸田文雄・外務大臣が「オバマ広島訪問に期待する」を『文藝春秋』に寄せ、三年四ヵ月の外相在任期間を振り返り、かつ
日本外交の現況を紹介しています。「サミットを、日本の確かな存在感を示す好機にしたい」と意気込んでいます。
中国経済の分析に、郭四志・帝京大学教授「急減速する中国経済を習近平は立て直せるのか」『中央公論』が取り組んでい
ます。中央政府と地方政府の関係、各既得権益集団間の関係、国有企業の生産性・効率化に問題があります。「市場経済・競
争原理に基づいて解決できるか」に目を配るべきだそうです。
保阪正康・昭和史研究家×佐藤優・作家、元外務省主任分析官×片山杜秀・政治学者、慶應義塾大学教授「独裁者が世界を
徘徊している」『文藝春秋』は、プーチン大統領、習近平主席、トランプ候補などを「独裁者」と位置づけ、世界の現状を憂
慮しています。片山によりますと、トランプ現象の原因は、「議会制の機能不全と一般国民の許容範囲を超えた貧富の格差」
です。佐藤は、「白人が支配するアメリカを回復しようとするトランプの主張は、差別意識の現われ」と見ています。保阪
は、「インターネットは、人々を極端な意見に誘導しやすい装置」なので、インターネットが「独裁者を生むために一役買
う」のではと気にしています。
パナマ文書に関する報道は、非営利組織・国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)と提携する報道機関が担っています。ICIJの一員の奥山俊宏・朝日新聞編集委員が
「私が見たパナマ文書の破壊力」『文藝春秋』で、「内部告発」、その後の展開を詳述しています。アメリカの陰謀論などが
ありますが、奥山は、ICIJはアメリカ政府から独立していると力説しています。
丸谷元人・ジャーナリスト「『パナマ文書』で始まる金融覇権戦争」『Voice』
は、「事実上の世界最大のタックスヘイブンは米国自身である」とし、ジョージ・ソロスや米情報機関の共同作戦ではないか
と疑っています。「世界中の富を自国に還流させ、それを一元管理することで『世界最強の金融覇権帝国』をつくり上げ」、
米国による世界支配権の再確立が「真の目的」ではないか、と言うのです。
矢嶋康次・エコノミスト「タックスヘイブン問題『パナマ文書』の衝撃」『中央公論』は、「脱税は違法だが、節税は賢
い。言葉ではそんな整理が可能だが、実務においてはその線引きは難しい。両者のいたちごっこが世界を舞台にこれからも続
くことになるだろう」と予見しています。
「東芝、シャープは他人事ではない」と、『中央公論』は「失敗の研究」を特集しています。
巻頭は、入山章栄・早稲田大学准教授「日本企業が失敗を活かせないのはなぜか」です。まず、「サーチ理論」の重要性を
強調しています。失敗すると、今までとは違った世界を見ようとし、学習するのです。これが「サーチ」であり、これを怠る
と失敗するのです。「失敗を奨励し、『どれだけ挑戦したか』で評価する」ことも大事です。日本企業は、「技術力のある強
い現場が良い製品・サービスを作って磨き込む」のは得意です。しかし、低価格戦略・差別化戦略やスピードある技術革新の
競争は得意ではないのです。また、サラリーマン社長の任期にあわせたような「中期経営計画」では、長期的なイノベーショ
ンが枯渇してしまいます。リーダーには、ビジョン型と管理型がいます。「不確実性が高いときほど、カリスマ的なビジョン
を持つリーダーが有効」なようです。
勝栄二郎・元財務次官、インターネットイニシアティブ代表取締役社長×橋本五郎・読売新聞特別編集委員「責任を問えな
い日本の構造」では、勝の「組織は自己改革しながら成長していくもので、失敗はその一つのきっかけだと思うんですね」と
の言に、橋本は「『失敗から学ぶ』というのも、受け取るほうに一定の許容力があってこそでしょう」と応じています。橋本
によりますと、その許容力の幅が社会の「勁さ」です。
旧日本軍敗退の原因を組織論から分析した『失敗の本質』(中公文庫)を、新浪剛史・サントリーホールディングス社長は
推奨しています(「名著『失敗の本質』のどこがビジネスに役立つのか」)。「過去から学ばないのが日本の問題点」、
「〈長期的な展望を欠いた短期志向の戦略展開〉だった旧軍」、「(旧軍は)成功体験をきちんと分析すべきだった」などと
述べています。「違う価値観をおもしろいと思う」ことも必要です。海外進出して成功しているのは、「自分たちの価値観を
持ち」、「両方をうまくブレンディングして、長期的視野でやっている」企業だそうです。現在は、「『失敗の本質』に学ん
で、中長期的にどっしり構えてものづくりをやろうという日本企業にとってはチャンスかもしれません」とのことです。
『文藝春秋』は、「経営受難の時代を生き抜く」を特集しています。現役企業トップ52人による「大アンケート」、
「トップが選ぶ『注目社長』72人」があります。サラリーマン社長では岡藤正広・伊藤忠商事社長、プロ経営者・外部出身
では松本晃・カルビー会長、創業者では孫正義・ソフトバンクグループ社長、跡継ぎ・同族経営では高原豪久・ユニ・チャー
ム社長、ベンチャーでは南場智子・ディー・エヌ・エー会長、瀬戸健・健康コーポレーション社長が票を集めています。
佐々木正・シャープ元副社長「シャープ『伝説の技術者』の遺言」は、日本の電機大手は、「1をn倍にすることしか考え
られず、ゼロから1を生み出すことを忘れてしまった」と難じています。
(文中・敬称略、肩書・雑誌掲載
時)
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