月刊総合雑誌2016年7月号
拾い読み (記・2016年6月20
日)
『文藝春秋』の巻頭は、座談会「舛添知事は日本の恥だ」(片山善博・前鳥取県知事・元総務相・慶應義塾大学教授×増田寛
也・前岩手県知事・元総務相・東京大学大学院客員教授×上脇博之・神戸学院大学教授)で、タイトルから想像されるように、二
人の知事経験者も自らの体験を踏まえつつ、舛添都知事を厳しく批判し、辞任すべきと説いていました。
オバマ大統領の広島訪問(5月27日)に関連する論考が数多くありました。
まず、久保文明・政治学者「オバマ大統領広島訪問に想う」『中央公論』が、「政治的リスクを冒して広島訪問に踏み切っ
た大統領の決断には敬意を表したい」とし、「日米は同盟国となって久しく、すでに国レベルではかなりの程度和解すること
に成功している。今次の訪問は、それをさらに強化するであろう」と評価しています。
同じ『中央公論』の中西寛・京都大学教授「プラハから広島へ―『核なき世界』は近づいたのか」は、「現職大統領の広島
訪問は勇気ある行為であり、演説の内容のみならず演説後に被爆者の代表の肩を抱き、言葉を交わした姿は、『核なき世界』
の理想の追求を政権のレガシー(遺産)として印象づけることに効果があった」と記しつつも、「核なき世界」に近づいたと
いう成果は残しえなかったとし、むしろ「負のレガシーを残した」としています。
竹田恒泰・作家「オバマ大統領の広島訪問は『完全なる和解』への道」『Voice』は、大統領の訪問に応えるべく、今
年12月7日のハワイでの「真珠湾攻撃七十五周年」の式典に安倍総理が出席すべきだと提言しています。
『文藝春秋』には独占手記として、森重昭・歴史研究家「オバマは広島で私を抱きしめた」があります。彼は、撃墜され捕
虜となり、広島で被爆死した米軍兵士12名を特定し、「原爆の犠牲者に国籍は関係ない」と慰霊碑をたてたのです。
中西輝政・京都大学名誉教授「『アメリカの外交敗北』の恐れ」『Voice』は、「今後アメリカが核軍縮へ向かう可能
性は高くない。オバマ氏の訪問はセンチメンタルな感動を呼び起こすドラマではあったが、残念ながら実際的な政治的意義は
ほとんどない」とまで厳しいものがあります。「領土問題はつねに一触即発の危機を孕んでくる。この数年を見ても、現在、
最も高い確率で日中の軍事衝突発生の可能性が高まっている」にもかかわらず、「トランプであれヒラリーであれ」、アメリ
カは「限定介入路線」に転換するだろうから、日本はそれに備えなくてはならないと警鐘を鳴らしています。中西は、『文藝
春秋』にも「『英国EU離脱』が世界を破滅させる」を寄せ、世界秩序、欧州とイギリス、アメリカの関係が大きく変動して
いると指摘しています。日本は、欧州における「足掛かり」を失いかねないようです。
町山智浩・映画評論家・コラムニスト「トランプ解体新書」『文藝春秋』は、共和党大統領候補の指名が確実となったトラ
ンプの家族やスタッフの紹介です。外交顧問は一流とは言い難い顔ぶれです。そこで、トランプの弱点を助けるべく、副大統
領候補に最も近いのは、テネシー州の上院議員で上院外交委員会委員長のボブ・コーカーとのこと。彼も不動産会社を経営す
る億万長者なので、「不動産経営の大金持ちコンビ」が誕生しそうです。
オバマ大統領の広島訪問の10日ほど前に、小泉元総理がアメリカを訪問していました。その経緯を、常井健一・ノンフィ
クションライター「小泉純一郎 涙の訪米同行記」『文藝春秋』が詳述しています。東日本大震災発生直後の米海軍「トモダ
チ作戦」に参加した元兵士たちに会った後の記者会見で、元総理は「目から涙を溢れ出させた」のです。元兵士たちは、鼻血
や嘔吐、下血、偏頭痛などに悩まされたりしています。これまで白血病などで7人が死亡しているとのこと。彼らは、賠償金
のほか、医療費を拠出する基金設立を求めて、東京電力、東芝、日立、米GE社など五社を相手取り、サンディエゴの連邦地
裁で集団訴訟を起こしています(原告数400人以上)。元総理は、「トモダチ作戦被害者支援基金」の創設に動いていま
す。森は、「原発論議は新たな局面を迎える」と結んでいます。
古森義久・産経新聞ワシントン駐在客員特派員「韓国に圧倒される日本の対外発信」『Voice』は、日本の、とくに公
的機関の対外発信が、映画、アニメ、日本語、落語、和食など、娯楽性の強いプログラムに偏重していると難じています。一
方、韓国は、人権問題など、ときの重要課題に関してのシンポを開き、洗練された対外発信につとめているのです。古森によ
りますと、だからこそ、「慰安婦問題での『強制連行説』の虚構が国際的に大手を振るようになった」のです。
「外省人対本省人の族群対立は過去の話となりつつある」と、迫田勝敏・ジャーナリスト「台湾初の女性総統、難題抱えて
の船出」『Voice』は言います。長期安定政権の可能性大です。しかし、最大課題は経済再建です。「そのためには中国
依存度を下げ、国際社会に出なければならない。しかし出ようとすれば中国が立ちはだかる」のです。「日米など国際社会の
協力が不可欠」です。
山内昌之・明治大学特任教授×佐藤優・作家・元外務省主任分析官「北方領土はかえってくるか」『中央公論』は、日本の
国際環境についての対談です。山内は、北朝鮮とIS(「イスラム国」)の接近を危惧しています。北朝鮮の意を受け、IS
関連者が日本でテロを起こす可能性も否定できない、とのことです。佐藤は、1993年にエリツィン大統領が合意した「北
方四島の帰属問題を解決して平和条約を締結する」とした「東京宣言」は譲歩しすぎだと、ロシアは認めない、と分析しま
す。平和条約締結後に「歯舞」「色丹」の二島を日本に引き渡すとの「共同宣言」(56年)に立ち戻り、今秋のプーチン訪
日時に新たな合意を作ろうというのが、現在の日ロのシナリオだそうです。
「次の参院選は、民進党の存亡をかけた戦いになるのではないか」と屋山太郎・政治評論家「民共共闘で消滅する民進党」
『Voice』は、説き起こしているのですが、結局は、「共産党に担がれた民進党が政権党に成長するとはとうてい考えら
れない」、「かつての社共共闘はいつの間にか共産党のみが生き残った」、「民共共闘が定着すれば民進党の消滅ということ
になるのは必至だ」と断定しています。
選挙権が「18歳以上」になりますが、長寿化、つまりは投票者の高齢化が進展しています。そこで、『中央公論』は「シ
ルバー民主主義に耐えられるか」を特集しています。
特集巻頭は、猪木武徳・大阪大学名誉教授「世代間対立はデモクラシーの宿命である」です。老人は年金が低額だと悲観
し、若者は多くの老人を支えなくてはならない不満を持つので、「世代間の対立」は避けがたい、と猪木は指摘します。その
上で、ハイエクの代議制改革案を紹介しています。二院制を取り、中高年による上院を設け、任期を長くし、再選禁止、毎年
メンバーの一部を入れ替えるというものです。「ある年度の選挙では、ひとつの年齢層が選挙権と被選挙権を持つようにし、
すべての国民はこの『上院』の選挙には一生に一度だけ関わる」ようにするのです。「人間はその年齢ごとに抱える悩みや問
題が異なる。だからこそ、同世代同士で『公共の事柄』を議論する場所や機会を設ける」のです。
八代尚宏・昭和女子大学特命教授「高齢者に甘い政治のツケは高齢者が払う」は、「最も高齢化が進んでいる国で、最も対
応が遅れている」と日本の現状を憂えています。マジョリティである高齢者が反対することは実現しません。そこで、高齢者
を納得させなくてはなりません。それには、理詰めで説得することと子や孫を思う気持ちに訴える以外にない、と八代は考え
ています。
岡本章・岡山大学教授「年金給付削減は政治的に実現できるのか」は、様々な選挙制度を比較した上で、最も現実的な改革
案として「世代別選挙区制度の導入」を提唱しています。岡本は「『狛江市議会に世代別選挙区制度を』提案者に聞く」にも
取り組み、とにかく現状は見直さなくてはならないと力説しています。
古市憲寿・社会学者「18歳選挙権よりもっと重要なこと」は、被選挙権年齢の引き下げを訴えています。五木寛之・作家
「『嫌老社会』の一つ先に『多死』の時代が訪れる」は、今後、「一斉に団塊の世代が退場していく時代」、「死と介護の時
代」が訪れると予見しています。
『文藝春秋』には、石破茂・地方創生担当大臣×楡周平・作家「地方創生の鍵は『高齢者の街』だ」があります。
(文中・敬称略、肩 書・雑誌掲載 時)
|