月刊総合雑誌2016年10月 号 拾い読み (記・ 2016年9月20 日)

 7月10日の参院選は、選挙権年齢を「18歳以上」としての初の国政選挙でした。その10代の投票行動から浮かび上がった のは、「予想以上に現状維持を志向する、保守的な若者像だった」と、渡辺嘉久・読売新聞編集委員「十代の有権者が自民を支持 した理由」『中央公論』は調査結果を報じています。与党への投票割合は、20歳代の47%に次いで10歳代の46%が高く、 若い世代ほど、現政権を評価しています(全世代43%)。10歳代は、「今の政治に強い不満はなく、現状を選挙で変えられる とも思わない」ようです。

 増田寛也・東京大学大学院客員教授×御厨貴・東京大学名誉教授「増田寛也はなぜ立候補し、なぜ敗れたか」『中央公論』 は、都知事選の総括です。知事を経験し、地方自治を熟知している人物が出馬すること自体に意味があると、増田は決意した のでした。時間的関係もあり、政策実現の具体的な方法論が等閑視され、キャッチーな公約のみが先行した選挙となったとし ています。増田は、区部と多摩の関係を整理しておくべきだったとし、都にとっては待機児童問題以上に優先度が高いはずの 防災について全体的に切迫感が欠如していると心配しています。

 『文藝春秋』の編集部による「『日本会議』国会議員34人が答えた」は、天皇陛下の「生前退位」のご意向に関しての日 本会議国会議員懇談会メンバーの衆参両院議員を対象にしたアンケート調査結果です。賛成26に対し、反対8でした。皇室 典範改正ではなく、特別立法でとの意見もあります。「これから、安倍首相は、与党内や保守系支持者からの反発と向き合う 場面出てくるだろう」という百家争鳴状態で、「“一強”状態が続いてきた安倍政権にとって、今後の対応が試金石となるこ とは間違いない」と予見しています。

 『Voice』は、「これでいいのか、アベノミクス」を特集していて、巻頭は大前研一・ビジネス・ブレークスルー代表 取締役「老後不安不況を吹き飛ばせ」です。「(日本人は)家や車を買うお金があったら少しでも貯蓄に回して老後に備えよ うというのだ。日本は国民が三十歳から老後の心配をするという、世界に類を見ない変わった国」と大前は言います。日本は 「低欲望社会」なので、アメリカなど「高欲望社会」で有効な政策を持ち込んでも機能しないのです。「高齢者が安心して自 分のためにお金を使えるような政策を中心に据えるべき」であり、「(高齢者に)資産がキャッシュを生むというやり方を教 え、それをやりやすいように規制を緩和」し、税金は資産課税1%と付加価値税10%に集約すべきとのことです。
 駒村康平・慶應義塾大学教授「六十代後半の『出番』だ」は、「六十五歳から六十九歳を『後期現役世代』として位置付 け、最終的にはすべての世代に出番が保証される『生涯現役社会』」の構築を提唱しています。
 片岡剛士・三菱UFJリサーチ&コンサルティング上席主任研究員「リフレ政策を再起動させよ」は、「財政支出拡大に伴 う短期的な財政悪化を懸念するあまりに大胆な政策を行えない『臆病者の罠』」から脱すべき、と力説しています。消費税増 税を凍結し、「名目GDP六〇〇兆円実現のために必要な財政支出をその経済効果を把握した上で策定し、それを予算の基本 に据える」ことを求めています。

 『文藝春秋』の特集は「日本経済の常識を疑え」です。
 橘玲・作家「言ってはいけない格差の真実」は、8つの角度から斬り込んでいます。8つの中見出しだけでも方向性をくみ 取ることができそうです。それらは、「グローバル化で先進国だけ損をした」、「経済格差は知能の格差だ」、「教育に税金 を投じるのはムダ」、「雇用対策の大半は無意味」、「最貧困を生む本当の理由」、「リテラシーの低い消費者がカモだ」、 「社会は右傾化していない」、「将来、日本から『正社員』は消える」です。
 大西康之・ジャーナリスト「プロ経営者 成功と失敗の分かれ目」は、腕一本で複数の企業を渡り歩き、日本企業の救世主 と賞賛された「プロ経営者」でも道半ばで退場せざるを得ない事例を描いています。戦略・戦術に長けていても、社員の信頼 をかち得ない限り、困難がつきまといます。一方で、「現代の大企業を差配するサラリーマン社長の多くは黒塗りのハイヤー で自宅と本社を往復するばかり。現場の声に耳を傾けるプロ経営者が育たなければ、日本企業はどんどん弱体化していくだろ う」と、大西は懸念しています。
 福澤武・三菱地所名誉顧問「今こそ老舗の精神に戻れ」は、企業の継続性を大切にし、バランス感覚を尊重する老舗の経営 に学ぶべきと説いています。「顧客に喜んでもらい、従業員にも十分報いた上で、株主に対しても適正利潤の一部を配当す る」が要諦です。
 石塚邦雄・三越伊勢丹ホールディングス会長「百貨店は爆買いに頼らない」は、高齢者のニーズは、「すでに豊かな暮らし を手に入れ、新たなモノを必要としていませんが、新しい体験、楽しいサービスにはお金を使うことを厭わない」、つまり 「モノからコトへ」と移りつつあると分析しています。政府への注文は、「自分たちの子どもや孫の世代の未来を見据える と、将来不安の解消なくして個人消費の上昇もないので、消費者の心理をよく考えた政策を打ち出してもらいたい」です。

 大鹿靖明・ジャーナリスト「孫正義は三百年王朝を目指す」『文藝春秋』によりますと、ソフトバンクグループの孫社長 は、三百年も先のことを踏まえているのです。孫社長は、典型的な今太閤です。しかし、織田信長と徳川幕府の研究はしまし たが、秀吉研究はやっていないようです。「孫が研究すべきなのは、信長よりもむしろ、後継者対策に失敗して滅んだ豊臣家 かもしれない」が大鹿の結語です。

 潮匡人・評論家「第二次朝鮮戦争の前触れ」『Voice』は、北朝鮮の動向に警鐘を鳴らしています。「六月のムスタン グ発射、八月のノドン発射と今回のSLBM発射。それら発射の相次ぐ成功は『軍事的挑発行為の増加・重大化につながる可 能性』(「防衛白書」)を飛躍的に増大させた」のです。さらに、「実際に北朝鮮が核の小型化・弾頭化に成功したか、より も、金正恩にどう報告され、彼がどう考えているか、のほうが重要」で、「もはや、いつ何が起きても不思議ではない」状況 にあるようです。

 李登輝・元台湾総統「日台連携で世界市場へ」『Voice』は、1930年代に始まった石垣島での台湾からの移民によ るパイナップル産業を例に、日台関係をよりいっそう深化させるべきと提言しています。「日本企業の研究開発力と台湾の生 産技術が力を合わせれば、世界市場を制覇することも夢ではない」し、「日本経済は再び、成長路線に乗ることができるだろ う」とのことです。

 「年々、認知症の高齢者による事件、事故が増えている」ので、『中央公論』は、「認知症トラブル 家族の責任」を特 集しています。
 巻頭は、七十代主婦による「訴えられた妻の介護日記」です。認知症の夫が火事を出し、自宅は全焼、延焼した隣家から提 訴されたのです。裁判は、最終的には和解勧告により、隣家の請求は放棄されました。介護や裁判の状況を描く筆致は淡々と していますが、問題の深さ・大きさを十二分に感じさせます。
 和田行男・介護福祉士×米村滋人・東京大学大学院准教授・医師「認知症は閉じ込めておけとでもいうのか」は、「認知症 の男性(当時91歳)が徘徊中に列車にはねられ死亡した事故をめぐり、JR東海が家族を相手取った損害賠償請求訴訟」を 取り上げています。訴えられた側が勝訴したので、「妥当な判決だ」と多くが受けとめましたが、大きな問題点が残っている のです。最高裁判決は、「成年後見人も、配偶者も、子供も、一般的に法定監督義務者にあたらないとし、『監督義務を引き 受けたとみるべき特段の事情』がある場合に、監督義務責任を負う」としています。これでは、「献身的に介護をしている人 ほど、監督も引き受けたとして責任を負うリスクが高まります」と米村は危惧しています。和田によりますと、「事故を起こ さないように認知症の人を家や施設に閉じ込めようとする家族、施設が出てきてもおかしくない」ことになります。
 五十嵐禎人・千葉大学教授・医師「事件はこれからも増え続ける」は、「認知症高齢者による事件・事故の現状を俯瞰」 し、「認知症高齢者をはじめとした判断能力を欠く人の起こした損害の賠償に関しても、現状に即した新たな立法による対応 が必要」としています。
 安藤優子・ニュースキャスター「家族だけでは介護はできません」は母親を介護した体験記です。 (文 中・敬称略、肩 書・雑誌掲載 時)