月刊総合雑誌2017年1月号 拾い読み (記・ 2016年12月20日)

 『中央公論』の巻頭特集は、「北方領土―安倍・プーチンの決断」です。
 森喜朗・元首相「安倍晋太郎の写真にプーチンは感動した」と小沢一郎・自由党代表「ロシアは一筋縄ではいかない」がそれぞ れが担った交渉を語っています。
 森は、2001年3月、イルクーツクでプーチンに、歯舞・色丹2島の返還条件・スケジュールを協議し、同時に別テーブルで 国後・択捉の帰属問題を協議するという「並行協議」を提案しました。その後、日本側が提案を事実上撤回することになってし まったと外務省を森は論難しています。13年、プーチン宛ての安倍親書を託されたさい、ゴルバチョフ大統領の来日時に病が篤 い父親を後ろから支えていた安倍・現首相の写真を、森がプーチンに見せたことから、プーチンと安倍との関係は良くなったとの ことです。小沢は、1991年、自民党幹事長時代に、外務省を介さずにゴルバチョフ大統領を相手に行なった、北方領土返還の 見返りに経済支援をするという「バック・チャンネル」外交の仔細を語っています。結局は、ゴルバチョフ政権の弱体化によって 頓挫してしまいました。
 畔蒜泰助・東京財団研究員兼制作プロデューサー「対中国政策にはロシアの戦略的中立化が鍵」によりますと、「(ロシアは) 中国と日本の間で戦略的中立を維持するためにも、日本との間で一層の戦略的互恵関係の積み上げが不可欠」で、「領土問題の最 終解決を含む平和条約の締結はその目処が立った時点でのこと」で、12月のプーチン来日時での北方領土問題解決は本来、期待 薄だったのです。
 「米国にとっては、領土での合意よりも経済分野での合意の方がはるかに懸念の材料」と、ギルバート・ローズマン・プリンス トン大学名誉教授「日ロ首脳会談に向けたロシアと米国の視点」は言います。

 「この国とはこう付き合え」を大特集として『文藝春秋』は編んでいます。 その中のエドワード・ルトワック・戦略国際問題研究所上級顧問「中国―尖閣に武装人員を常駐させろ」は、「中国と対峙す る際に、『あいまいさ』は最も危険で有害」とし、尖閣を巡って問題を起こさないようにするため、「日本が先手を打って、 魚釣島で物理的にプレゼンスを示すこと」を求めています。「サンゴ・漁業保護部隊のような組織」を駐在させるべきとのこ とです。
 「トランプに合わせているようでは、ますます彼の術中にはまってしまう」ので、「(日本は)自信をもって自らの文化や 商品の質を追求して、ますますアメリカ人の心の中にその存在感を構築してゆく」べきだと、神谷秀樹・投資銀行家、在アメ リカ「米国―トランプの駆け引きに惑わされるな」は、提言しています。
 「トランプショックを奇貨として思考停止状態のわが国の立ち位置を、この際全面的に見直してはどうでしょうか」が、福 田康夫・元内閣総理大臣「安倍外交への忠告」の結びです。アメリカのTPP離脱も心配していません。日米間での FTA(自由貿易協定)や他の国々ともFTAやEPA(経済連携協定)の拡充も検討すべきというのです。日ロ間では、ア メリカやEUとの関係もあるので、日本が「前のめり」になってはなりません。中国・韓国との友好関係は常に維持しなくて はなりません。特に、「(中国に対して)大前提として日本が喧嘩を吹っ掛けるようなことをしてはいけない」と力説してい ます。

 近藤大介・『週刊現代』編集次長、「現代ビジネス」コラムニスト「トランプは『アメリカに住む中国人』だ」 『Voice』 は、中国はトランプ勝利を歓迎しているとし、中国にとり四つの恩恵があるとの中国の外交関係者の言を紹介しています。@アメリカのアジアからの撤退、A中国包囲網たる TPPの廃止、Bアメリカ自体の混乱と自壊による中国との国力の差の縮小、C新大統領が商人(商人総統)で「商人が治め る国」は「カネで転びやすい」こと、です。アメリカが「内向き社会」になれば、アジアで生じる「力の空白」を埋めるの は、中国の役割となります。つまりは、習政権が目指す「新型の大国関係」が実現するのです。安倍外交の基本方針たる「中 国への対抗」は転換を迫られることになります。
 渡辺惣樹・日米近現代史研究家「安倍政権が迫られる難しい舵取り」『Voice』には、主要メディアがトランプを嫌っ たのは、メディアがリベラル政治家と共に創造した「政治的に正しい言語空間」にトランプが真っ向から挑戦したからだ、と あります。地球温暖化の原因は二酸化炭素の増加とする説への疑問の提示、不法移民、自由貿易についての発言などが問題 だったのです。「(日本が)保護貿易を是とする経済学者も政治家もいることを忘れて外交貿易政策にのめり込めば必ずしっ ぺ返しを受けよう」、「新大統領は、過度な政府規制を排除し民間経済を再活性化しようと目論んでいる。日本には小さな政 府を志向する政党はない。典型的な大きな政府をめざす自民党安倍政権が、どのようにトランプ政権と折り合いをつけていく のか」、「難しい舵取りになろう」と予見しています。

 「トランプ時代が始まった」をも、『中央公論』は特集しています。
 久保文明・東京大学大学院教授「白人労働者疑似革命のゆくえ」は、トランプの政策の柱を、反不法移民、反自由貿易主義 (保護貿易主義)、反国際主義(孤立主義)の三点セットと指摘し、白人の中下層に、特に前の二つがアピールしたと述べて います。また、トランプの国際政治観は、「ほぼお金の損得勘定の軸からのみ」成り立っているので、「たとえば尖閣諸島を めぐる危機が訪れた際、トランプはどのような判断を下すのであろうか」と心配しています。
 「トランプを当選させたのは無党派層の『白人の女性層』」と、岡本行夫・外交評論家は、宮家邦彦・キヤノングローバル 戦略研究所研究主幹、吉崎達彦・双日総合研究所チーフエコノミストとの鼎談「悪質なナショナリズムが蔓延する中をいかに 生きるか」で説いています。吉崎によりますと「トランプにとって日米同盟は優先順位の低い問題」であり、宮家によります と「トランプの意識は太平洋よりも大西洋、大西洋よりも中東に向いている」のです。岡本は、「プーチン、習近平、そして トランプと、悪質なナショナリズムが世界に蔓延」してきて、「日本の生息空間が狭まっていく」と警鐘を鳴らしています。 東シナ海、南シナ海の問題をも岡本は懸念しています。
 中西寛・京都大学大学院教授「世界が備えるべきシナリオとは何か」は、「現時点でのトランプ政権最大の不確実性は、危 機に際しての行動の予測不能性」であり、トランプ政権誕生は「イギリスのEU離脱などとともに戦後国際秩序の大きな変化 の徴候」なので、岡本らと同様、日本の方途を憂慮しています。

 『世界』も「『トランプのアメリカ』と向き合う」を特集しています。  特集巻頭は、西谷修・立教大学特任教授「アメリカのない世界」です。「理念なきアメリカ、自分のことしか考えないアメ リカという像は人をうろたえさせるかもしれませんが、その発想を持たなければ、世界はもはや未来をイメージできない」の であり、「アメリカ的秩序に寄りかからずに自分の国はどうしていくのか、本格的に考えなければいけない時がきている」の です。

 韓国大統領に関する報道をもって韓国で名誉棄損容疑で起訴されながら無罪を勝ち取った加藤達也・産経新聞元ソウル支局 長が、『Voice』で呉善花・拓殖大学教授と対談(「朴槿惠政権『失敗の本質』」)しています。二人は、慰安婦問題を も含め、これまでの日韓合意が白紙になる可能性ありと懸念しています。呉は、韓国社会が親共・親北のムードに変わってき ている上に、中国・ロシアと歩調を合わせる可能性ありと予測しています。加藤によりますと、「韓国は、あらゆる点で共同 歩調を取ることが難しい政治体制に変貌」してしまったので、「安全保障面において協力する程度に留めるべき」なのです。

 浜田宏一・内閣官房参与・米イェール大学名誉教授「『アベノミクス』私は考え直した」『文藝春秋』は、安倍首相のブ レーンによる新たな経済政策の提案です。現状では、デフレを克服できません。金融政策のみで、財政とセットになっていな いからです。「金融と財政の合体」により、インフレ目標と消費増税は“二つの一つ”と考え、消費増税はインフレ目標が達 成できた場合に限りにすべきで、目標が達成できない場合、消費増税は凍結すべきなのです。

 民進党最大の支持母体のトップである神津里季生・連合会長が『文藝春秋』に「民進は共産と握手するな」を寄せ、国家像 が違うと、共産と民進との政策協定・候補者の相互推薦に強く反対を表明しています。 (文 中・敬称略、肩 書・雑誌掲載 時)