月刊総合雑誌2017年 2月号 拾い読み (記・ 2017年1月20日)

 赤坂太郎「対ロ外交で雲散霧消した解散カード」『文藝春秋』は、プーチン来日を巡る安倍外交に、「両首脳間で確認したの は、北方四島での『共同経済活動』実現に向けた協議開始と、人的往来手続きの簡素化に過ぎない」と厳しいものがあります。そ のうえで、「対ロ外交の蹉跌は、真珠湾訪問発表で再びたぐり寄せつつあった解散カードを雲散霧消させてしまった」と断じてい ます。
 同じ『文藝春秋』の山口敬之・ジャーナリスト「安倍・プーチン『密室の攻防劇』」は、プーチンは安倍が提唱した交渉の土俵 に乗ってはきたものの、「領土、主権、経済協力などあらゆるジャンルで交渉が具体化すれば、両国の主張は事あるごとに激突す るだろう」とし、さらに、安倍は「(外務省のロシアスクールなど)国内の獅子身中の虫」の妨害工作にも対峙しなくてはならな いと述べています。いずれにしましても、「プーチンは二〇一八年春に大統領選を迎える。領土問題の決着は、早くとも一八年の 夏以降」とのことです。
 遠藤乾・国際政治学者「プーチン来日 宴の後に日本に訪れた自問の冬」『中央公論』は、ロシアは今後、欧米の足並みが乱れ ると展望しているので、「プーチン大統領に領土問題を解決する誘因が高まっていくのかは疑問」としています。
 一方、山内昌之・明治大学特任教授、東大名誉教授×佐藤優・作家・元外務省主任分析官「プーチンは、国境は動くと言ったの だ」『中央公論』は、元島民の自由往来の拡充や共同経済活動についての交渉開始などをうたった「共同声明」は大きな意味が あったと評価しています。山内によれば、「安倍の『外交芸術』は、率直に評価すべき」であり、佐藤の表現によれば、「七〇年 前の太平洋戦争と東西冷戦」の「二重の戦後処理」であると、安倍は「正確に認識している」のです。
 末延吉正・東海大学教授「北方領土交渉、日本の誤算」『Voice』によれば、「第二次大戦での『戦勝』を国民統合の拠り 所とするプーチンの国家観を崩せなかった」のであり、「北方領土交渉は息を吹き返した。だがそれは、『細い一本の糸で繋がっ ている』にすぎない」のです。

 韓国で大統領が弾劾に追い込まれました。このスキャンダルの本質は、「古くて新しい韓国の文化現象」で、政局には二つ の意味が込められていると、黒田勝弘・産経新聞ソウル駐在客員論説委員「韓国よ、朴槿恵だけが悪いのか」『文藝春秋』は 指摘しています。一つは、韓国の左翼・反政府勢力による朴正熙・槿恵父子への復讐戦で、もう一つは自殺した盧武鉉の弔い 合戦です。
 「韓国リスク」を、『Voice』は、総力特集として編んでいます。
 巻頭の櫻井よしこ・ジャーナリストとの対談「北朝鮮が狙う社会主義革命」で、洪?・『統一日報』主幹は、「今回の出来 事は、政治家のスキャンダルに矮小化して見るべきではありません。北に追従する『従北』勢力が社会主義革命のチャンスを 狙っていたところ、たまたま『崔順実の事態』という『獲物』が現れた」のだと説いています。櫻井は、「韓国が北朝鮮に 乗っ取られてしまうかもしれない深刻な危機のなかにあるいま、日韓が歴史問題などに時間を費やしている余裕は本来ないの です」と心配しています。
 室谷克実・評論家「三放世代と『泥の匙』」によれば、「韓国人の最大の不安は『雇用』」で、職を失うことを不安に感じ ているのです。若者の多くは「恋愛、結婚、出産」の夢を放棄せざるを得なく、つまり「三放世代」です。このような「泥の 匙」の男子と違って、賃金上位10%の「金の匙」の男子は既婚率も高く、貧富の格差がひどいのです。「大統領を弾劾に追 い込んだ『韓国型公憤』は、あたかも『成功した革命勢力』のような雰囲気にある。この流れが続けば、次は反米・反日・従 北の左翼政権が誕生する可能性が高い」と予見しています。
 「韓国は、政治、経済を問わず公私混同、法律より私情が優先する人治社会だ。そのような風土のなか、政経癒着が生まれ るのは必然」と、池東旭・ジャーナリスト「コリア・ディスカウントの高まり」は言い切っています。「コリア・ディスカン ト」とは海外が韓国企業を低評価することですが、今回は韓国全体が対象となっていると、池は懸念しています。「野党は日 韓両国で合意した慰安婦問題や韓日軍事秘密情報保護協定(GSOMIA)破棄を主張する。韓国の対日外交路線は、融和と 対決の振り子運動を繰り返す。コンセンサスがまとまらない。保守、左派の誰が次期大統領になろうとも対日外交は迷走する だろう」と悲観的です。
 新政権により、韓国でTHAAD(高高度地域ミサイル防衛)システムの配備が破棄されると、「日本にとっても安全保障 環境が著しく悪化する」と、潮匡人・評論家/拓殖大学客員教授「日本の安全保障『いまそこにある危機』」は憂慮し、「韓 国の混乱を上から目線で愉快に眺めている場合ではない」と力説しています。

 『文藝春秋』は、「次期大統領の正体を暴く」との惹句のもと、「トランプ大変」を特集しています。
 ワシントン・ポスト取材班「ドナルド・トランプは二人いる」は、「最も信じがたい勝利を収めたとたん、彼は、数々の集 会で約束してきた通り、たちまちギアを切り替え、大統領にふさわしいと自らが思う、静かで落ち着いた話し方をするように なった」、「今、彼はその方向転換をしようとしている」としています。
 大鹿靖明・ジャーナリスト「孫正義500億ドル投資のゼニ勘定」は、トランプに会った孫正義の真意を探ろうとするもの です。孫は、日本ではこの数年間、大型投資はしていませんが、中国アリババの株を活用して、米国、ロシアへの投資に振り 向けるかもしれないようです。
 川村雄介・大和総研副理事長「日米貿易交渉の悪夢が甦る」は、トランプはTPP(多国間協定)を葬ると公言しています が、日本としては発効させなければ、「かつての悪夢は繰り返されるだろう」とし、トランプは老獪・辣腕ビジネスマンだか ら、「遠からず米国を利するのは、保護主義ではなくTPPだと、気づくはずだ」と断言しています。「米国以外で貿易の自 由化が進み、『米国以外みんなTPP』というスキームが出来上がってしまったら、いかに米国でも鎖国経済は成り立たな い」からです。

 佐々木健一・東京大学名誉教授「最後のアヴァンギャルド―トランプ大統領誕生の意味」『中央公論』は、トランプ勝因の 一つとして、political correctness(PC) に対する批判・攻撃をしたことを挙げています。「PC=たてまえの暴走は、われわれの社会にも忍び寄っている」のであり、「PCに従え」との行動規範が、選挙で「PCを捨 てろ」に書き換えられた、とも指摘しています。
 中村和恵・明治大学教授「反移民感情のそもそも」『中央公論』によれば、「グローバル化をやめようという動きがグロー バルにみられる」のです。ただし、「損をしそうな部分についてのみやめたい」というものです。「移民はいいとか悪いと か、そういうものじゃない。やむをえず移動する人の波は止めようがない」、「国外からきたばかりの移民難民ではなく、む しろ親の国を訪れたこともない世代が、いま住む国を激しく憎悪することがある。それはほかに故郷と呼べる国などもうない のに、その国がかれらを排除するからではないか」と問題提起しています。

 「中国が一つであるという政策」にとらわれないとのトランプの発言などを取り上げ、台湾と米中関係に歴史的な地殻変動 が始まったとし、その様相を宮崎正弘・評論家「台湾が米国と復縁する日」『Voice』が描いています。「ディレンマ は、中国が日本に次いで米国の赤字国債を保有しているイヤな事実」で、「(米国の)日本への防衛負担増要求が高まること だけは火を見るより明らか」とのことです。

 竹田いさみ・獨協大学教授「中国の南シナ海進出最前線」『Voice』によれば、海南島には、「中国のパールハー バー」と呼ばれる場所があるそうです。水上艦艇基地、通常型潜水艦基地、原子力潜水艦基地の三つの基地をひとまとめにし た呼称のようです。「(中国は)『国際リゾート』というソフトな言葉を隠れ蓑に、じつは海南島における軍事化を大胆かつ 細心に実行」しているのです。

 『中央公論』は、「国立大学は甦るか」を特集しています。上山隆大・内閣府総合科学技術・イノベーション会議議員×神 田眞人・金融庁参事官×菅裕明・東京大学教授「マネジメント不在が招く研究の劣化」は運営を問題視しています。それに対 し、梶田隆章・東京大学宇宙線研究所長「このままでは日本の基礎研究はダメになる」などは運営費減を憂慮しています。 (文 中・敬称略、肩 書・雑誌掲載 時)