月刊総合雑誌2017年 4月号 拾い読み (記・ 2017年3月20日)

 石原慎太郎・作家・元東京都知事が、『文藝春秋』に「豊洲移転を決断せよ」を寄せています。以前にも小池百合子都知事側の 質 問に答えている(『文藝春秋』2016年12月号)とし、重ねて経緯を記し、「小池知事の言動には違和感を覚えざるを得ませ ん」などと心情を吐露し、かつ「一刻も早く豊洲移転を下すべき」と説き、「(小池知事との)フェイストゥフェイスの会談」を 望んでいます。

 北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長の異母兄の金正男が、マレーシアの首都クアランプールの国際空港で殺害されました (2 月13日)。
 佐藤優・作家・元外務省主任分析官「金正男が殺害された本当の理由」『中央公論』は以下のように展開しています、金正 恩 の最大の関心事は、米国から北の体制を転覆させないとの保証を取り付けることで、そのため、核実験・弾道ミサイル発射実 験を続けてきました。しかし、思惑とは逆に、米国は姿勢を硬化させています。さらには、外国で、金日成・正日の血筋を引 く金正男を指導者にして、金正恩体制を転覆させようとする動きがあるとの情報が入り、金正恩が殺害指令を出したのです。
 李英和・関西大学教授「金正男暗殺は地獄の始まり」『Voice』にも、「昨年秋に亡命政権構想が急浮上して、北朝鮮 の 権力中枢は鋭敏に素早く反応した」とあります。金正日の異母弟、金正恩の直系の叔父の金平一・北朝鮮駐チェコ大使には 「常時、複数の秘密警察の監視委員が張り付く。暗殺を図ろうと思えば簡単だ」なのですが、「親殺し同然の『直系の叔父殺 し』を避け」、「金平一が『軽挙妄動』に走らぬように警告すること」などから、今回の事態にいたったとのことです。「こ れまで動くことのなかった『太い枝』(金平一)が強風に煽られて大きく揺れる可能性も生まれた」と予測しています。
 「北朝鮮亡命政府構想」の急浮上が背景にあると、牧野愛博・朝日新聞ソウル支局長「金正男暗殺 正恩の焦りと狂気」 『文 藝春秋』も分析しています。さらに、母親の出自などにより、「正恩に正男の『血』への強い嫉妬と劣等感があった」と指摘 しています。また、「最後の藁一本で、突然北朝鮮が崩れることもありうる」との韓国政府関係者の言を紹介しています。

 「トランプは破壊者か革命家か」が『文藝春秋』の特集です。
 半藤一利・作家「『真珠湾攻撃』の悪夢が甦る」は、「かつて日本やドイツが国際秩序を平気で無視して、諸条約を踏みに じって領土的野心を燃やしたように、アメリカやヨーロッパの列強が自国の利益を競って内向きになっている間に、現状を変 更しようとする国が出てくる」、「ヨーロッパではロシアが、アジアでは中国が、それにあたるかもしれません」と危惧して います。
 トランプ大統領の選挙期間中の暴言は「“アメリカ人の本音”であり、特に中部の州に住む白人層が激しく共感」したので あり、日本のイメージは、日本企業が破竹の勢いで海外進出をしていた1980年代で止まっているかのようだと、小池百合 子・東京都知事「『暴言』はアメリカ人の本音だ」は言います。トランプ大統領には「平然と約束を反故にする可能性」すら あるようです。石原慎太郎・作家「白人ファースト再来の危うさ」は、トランプの「アメリカファースト」は、歴史原理の変 動への認識を欠 き、非理性的で無知に近いとまで論難しています。温暖化に関しての言は、無知を上回る暴言であり、「日本とアメリカの防 衛に関する知識が無さすぎる」とまで言い切っています。
 渡辺恒雄・読売新聞グループ本社代表取締役主筆「ツイッターで政治は劣化する」は、「ツイッター中心の政治宣伝・扇動 の 成功例であろうが、将来にわたってこの手法が成功を続けていけば、大衆民主政治は間違いなく劣化」し、「(公約の大型減 税とインフラ投資の政策を)保護主義という通商政策が包み込んでしまうと、ハイパー・インフレか恐慌を招き」かねないと 心配しています。
 「財政・経済政策は、金融を重視した従来路線を踏襲した、堅実なもの」であり、対日赤字解消のため怒りをぶつけてきて も 決して妥協する必要はなく、「トランプ政権は日本にとって、決してマイナスではない」と、榊原英資・青山学院大学特別招 聘教授「『経済対話』で妥協するな」は、楽観的です。なにしろ、「安全保障上のパートナーとしての日本は重要な同盟国」 だからです。

 一連の会談により、安倍首相はトランプ大統領と「個人的に緊密な関係を築いたことは間違いない」が、「個人的な信頼 関係 だけに重きを置いた外交はしばしば足を掬われる」と、中西輝政・京都大学名誉教授は、『Voice』の「総力特集 日米 蜜月の嘘」の巻頭論文「米国は100%後方支援だけ」で警鐘を鳴らしています。「尖閣に安保適用の確認」が日米首脳会談 による成果として報じられましたが、有事発生のおりにアメリカが行うのは「二次的な」支援だけであり、日米安保には「核 の傘」以上の役割は期待してはならないとのことです。中西による世界情勢に関する核心的視点は以下の三つです。@「米中 は決定的な対立には至らない」、A「中露は決して離れない」、B「米露は今後も対立し続ける」。防衛費の「最低でも二倍 増」、日本独自のSDI構想(国家的ミサイル防衛網)の配備、憲法九条の改正の着手が、中西の提言です。
 日下公人・評論家「商売の発想で何が悪い」によりますと、「クルマが駄目なら、漫画をアメリカに輸出する。そのほうが 互 いの国が幸せになる」のです。外交も、ビジネスマンのように現実重視でいくべきなのです。つまりは、「安倍首相はサラ リーマンの経験があるから、共産党で公務員しか務めたことのない習近平主席より一枚も二枚も上手である。アメリカも軍事 よりビジネス優先になったから、日本は以前のように大統領のご機嫌取りをする必要がなくなった。中国人民解放軍も張り子 の虎で怖くない。日米はケンカしながら仲良くし、どんどん本音を言い合えばよい」のです。上の総力特集には、トランプ政 権の対中経済政策が世界金融に大きな影響を及ぼすことを懸念する、津上俊哉・現代中国研究家「米中貿易戦争は『対岸の火 事』ではない」もあります。

 侵略戦争は否定しても交戦権を行使できるように、小林節・慶應義塾大学名誉教授「皇位継承は男系に限る」『Voice』 は、改憲すべきと唱えています。憲法九条二項を改正して「自衛軍」と明記すべきとなります。そのうえで、皇位継承を男系 に限ってきたからこそ、「権力闘争とは離れたところに天皇が神的な存在として存続してきた」と力説しています。

 『中央公論』は、「『空き家』が東京を蝕む」を特集しています。
 「空き家問題」は大都市圏の問題だと、藻谷浩介・日本総合研究所主席研究員「お台場の超高層マンションが『負け組』に な る日」は憂慮しています。全国の空き家の四分の一が首都圏にあるのです。「(このまま)新築物件の供給を続ければ、家賃 水準の下落→不動産価格の下落→固定資産税収入の下落」の連鎖が不可避となります。牧野知弘・オラガ総研株式会社代表 「こんな時代の住まいの選び方」によりますと、超高層マンションでは高層階は高額なため、住民間の格差が顕著で、投資目 的の空き住戸も多く、管理組合内での意思統一を難しくしていて、大規模修繕が必要となったとき、問題化し、スラム化する 危険性さえあるのです。
 2016年の金融機関による新規の不動産融資は1977年以降で最高に達したのですが、「もし実需に見合わない住宅の 供給過剰が加速化した場合、日本でもリーマンショックと同じ事態が起こるのではないか」と、野澤千絵・東洋大学教授「産 官民がつくり出した『住宅過剰社会』の歪み」は懸念しています。「生産年齢人口が減少していく中で、高齢者福祉費が増大 し、大量の空き家や更新すべき老いた公共施設やインフラを抱えており、新たな公共投資を行う余力はほとんどない」にも関 わらず、大量に住宅をつくり続ける「住宅過剰社会」と化しているのです。
 菊地正憲・ジャーナリスト「昭和の人気団地に忍びよる高齢化の影」は、東京・高島平団地などを中心としたルポです。建 物 の老朽化・住民の高齢化とともに、「メンテナンスや建て替えに加えて、その先にある解体や権利解消を見据えた仕組み作 り」が求められています。『文藝春秋』の奥野修司・ノンフィクション作家「ひばりが丘団地『夢の跡』」も、菊地と同趣旨 のルポです。

 『文藝春秋』の「私を捨て公のために生きた50人」を取り上げた「『明治百五十年』美しき日本人」は読み応えがありま す。 (文 中・敬称略、肩 書・雑誌掲載 時)