月刊総合雑誌2017年
5月号 拾い読み (記・2017年
4月20日)
緊急座談会として、『文藝春秋』が「絶望の朝鮮半島―北の暴発、南の反日」を編んでいます(司会・田原総一朗・ジャーナリ
スト)。武藤正敏・元韓国大使は、朴政権への韓国国民の怒りの背景は「韓国が努力をしても報われない社会」になったことにあ
るとしています。西岡力・麗澤大学客員教授の「(朴大統領罷免は)法治国家としてはおかしい」との指摘に、英起・デイリー
NKジャパン編集長は「韓国国民は理論ではなく感情で考えますから」と応じています。金正恩は核武装すればアメリカに攻めら
れないし、朝鮮半島を北の支配下に置く「赤化統一」が可能と思い込んでいると、高は心配しています。西岡は、「トランプは金
正恩を暗殺することを真剣に検討しているはず」と断じています。米軍が攻撃するや、北は崩壊を承知で反撃するので、「アメリ
カは中国を説得し、コンセンサスを見つけた上で行動しようとしている」と、武藤は説いています。
『Voice』は「半島大乱」を総力特集しています。
百田尚樹・作家は上念司・経済評論家との対談「トランプの核が落ちる日」で、北の大陸間弾道ミサイルの技術が完成する
前に、米軍は軍事行動に出ると予想しています。
呉善花・拓殖大学教授「韓国『従北』路線の悪夢」は、韓国の歴代政権による「『経済統一論』的な対北政策は、限りなく
実現性に乏しい」と論難しています。「韓国経済の唯一の活路は北朝鮮と経済共同体をつくること」だとするのが「経済統一
論」です。「こうした『空想的理想論』が国民に受けるのが韓国という国なのです。そこにあるのは『大言壮語を道徳理念で
飾り立てたきれい事』を喜ぶ情念の世界、まさしく『情理』の世界にほかなりません」と呉は嘆いています。
アメリカによるTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)の韓国への配備は、中国にとっては絶対に阻止すべきで、それがあ
るかぎり、中国は「金正恩政権と『共同歩調』を取らざるをえない」と、近藤大介・『週刊現代』編集次長、「現代ビジネ
ス」コラムニスト「打ち砕かれる習近平の野望」は言います。THAADの配備により、
(「北方の陸軍中心から南方および海軍中心へ」との)
中国の軍事改革が滞り、「南シナ海全域を軍事要塞化し、中国の内海とするという野望が打ち砕かれる」からです。「北朝鮮の脅威を緩和するために導入されるTHAADが、金
正恩政権を最大限保護する」ことになるのです。
中国の政情について、矢板明夫・産経新聞外信部編集委員「習金平は毛沢東になれるか」『Voice』が取り組んでいま
す。習は、党規約や憲法を改正し、二期十年の国家主席の任期制限の撤廃などにより、かつての毛と同様の権限を手にしよう
としていますが、経済の失速が続けば、反習派が強くなるようです。
実は中国経済はほぼ安定しているとするのが、瀬口清之・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹「中国経済失速論にだま
されるな」『文藝春秋』です。地域間格差には大きなものがありますが、成長力は世界にあって桁外れなのです。「日本企業
は、実は欧米の企業よりずっと有利な立場にあります」、それは、成長著しいアジア諸国、そして日本・中国の15億人の
マーケットがあるからです。
小原雅博・東京大学大学院教授「国益とは何か」『中央公論』は、日本が経済力を取り戻し、国際協力の中心で汗を流すこ
とを求めています。また、頭越しの米中「グランド・バーゲン(大取引)」の不安解消のためにも、日米中三国首脳会合の立
上げを提唱しています。
ロシアとの北方領土交渉について、前進の兆しが見えたと、佐藤優・作家・元外務省主任分析官「スターリン全集で北方領
土を考える」『中央公論』は、楽観的です。スターリンの対日観とプーチン大統領の対日政策を類比的に解釈し、大統領は対
日関係改善を望んでいると分析しています。そのほうが、現今の国際情勢下、ロシアの国益にかなうからです。
木村草太・憲法学者・首都大学東京教授「憲法改正 自公維民4党の論点」『文藝春秋』は、4党のキーマンへの連続イン
タビューです。中谷元・自民党憲法改正推進本部長代理は自衛隊の存在の憲法への明記・参院の合区解消の必要性、北側一
雄・公明党憲法調査会長は「大規模災害時にずっと衆議院が不在でいいのか」など「緊急事態の問題」の議論、馬場伸幸・日
本維新の会幹事長は「すべての教育の無償化」、枝野幸男・民進党憲法調査会長は行政府による「解散権の制限」を訴えてい
ます。
4党は、『中央公論』(氏会・田原総一朗・ジャーナリスト「70年間改憲できなかった本当の理由」)でも討論していま
す。枝野が、発議が目的ではダメで、圧倒的多数の可決のため、与野党の合意が必要であると力説しています。この点に関し
ては、他の出席者全員(小沢鋭仁・日本維新の会憲法改正推進委員会長、斉藤鉄夫・公明党幹事長代行、保岡興治・自民党憲
法改正推進本部長)も賛同しています。
上の討論は、「憲法の将来」と題する特集の巻頭です。同特集には、笠井亮・衆議院議員「日本共産党は憲法をこう考え
る」もあり、「段階的に自衛隊解消を進めるべき」と主張しています。
また、細野豪志・衆議院議員「現実的な憲法改正案を提示する」が、主に「子育て・教育に最優先で取り組むこと」、「緊
急事態への対応」、「地方自治」のために、改正条文まで付し、憲法の大幅な改正を提案しています。
ケネス・盛・マッケルウェイン・東京大学准教授「日本国憲法の特異な構造が改憲を必要としてこなかった」の特異な構造
とは、他の国の憲法に比し、圧倒的に文章が短く、「人権」の記述が多く、「統治機関」の規定が少ないことなどです。選挙
制度も憲法に明確な規定はなく、「法律でこれを定める」とされています。
選挙区変更さえ憲法改正が必要な国があります。一方、日本ではその必要はありません。日本で憲法改正が行われなかったの
は、改正要件が厳しいことだけが理由ではなく、法改正で事足りたからでは、とマッケルウィンは分析しています。
北岡伸一・国際協力機構理事長「憲法原理主義の危険」は、「憲法は重要である。しかし、憲法だけでは安全は守れない。
国家運営の常識と国際社会の常識にそって、たえず再解釈していかなければならない。憲法解釈は原理主義的であってはなら
ないのである」と結んでいます。
森友学園問題などに関連し、『文藝春秋』に、石井妙子・ノンフィクション作家×中島岳志・東京工業大学教授×古谷経
衡・文筆家「昭恵夫人『頭の中身』を解剖する」があります。古谷によりますと、昭恵夫人は典型的な「意識高い系」で、そ
の特徴は、「前提的な劣等感の存在と、徹底的な抽象論と多幸性の世界観です。具体論は一切言わない。そして自分は常に笑
顔と言う」です。さらに、古谷は「安倍首相の最大の協力者なのかもしれない。でも、基礎教育のなさが故に想像力と思慮が
足らず、他方、承認欲求が強すぎるがゆえに足を引っ張っている」とまで言い切っています。
森功・ノンフィクション作家「安倍首相『腹心の友』の商魂」『文藝春秋』は、愛媛県今治市における岡山理大獣医学部の
新設は、国家戦略特区諮問会議の議長としての安倍首相が後ろ盾になったのではと疑っています。
小池百合子・東京都知事「石原慎太郎の嘘、豊洲移転の判断」『文藝春秋』は、「(手記の内容や百条委員会での証言は)
驚くことばかりです」との石原元都知事への反論です。「『熟考した末の豊洲』ではなく『豊洲ありき』で、それを正当化す
る理屈が事後的に固められ、豊洲移転へと突っ走っていったのではないか」と疑義を呈し、「(移転問題は)考え得る可能性
を議論のテーブルに乗せ、『都民の理解と納得』を最大の判断基準として、総合的に判断を下す」と明言しています。
小泉進次郎・衆議院議員が、『Voice』の雜賀慶二・東洋ライス社長との対談(「東京五輪で農業を変える」)で、日
本農業に必要なのは「いかに高く売るかの発想」であり、「農家に資材を高く売りはしても、農家の生産物を消費者に高く売
ることには十分に力を入れてきませんでした」と農協を批判しています。国際認証を取得していない農産物は東京オリンピッ
ク・パラリンピックに提供できず、取得が2020年以降の農業の在り方に直結するとのことです。同じ『Voice』の青
山浩子・農業ジャーナリスト「主役は農協ではなく生産者」も農協改革の必要性を詳述し、就農支援体制を整備すべきと展開
しています。 (文中・敬称略、肩書・雑誌掲載時)
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