月刊総合雑誌2017年 6月 号 拾い読み (記・2017年 5月 20日)

 主要総合雑誌の発売日の前日の5月9日に、韓国で大統領選があり、進歩派の「共に民主党」の文在寅候補が勝利しました。各 誌は雑誌編集のスケジュール上の困難さを抱えながら、韓国・北朝鮮に取り組みました。

 『中央公論』は「北朝鮮の暴走、韓国の迷走」と題する特集を編みました。
 巻頭の平岩俊司・南山大学教授×川島真・東京大学大学院教授「日韓を窮地に追いやる米朝協調シナリオ」は、北朝鮮問題 に関しての対談です。川島は、「『長距離ミサイルを北朝鮮が断念すれば、アメリカとしては核の保有、そして中距離ミサイ ルも認めてやろう』ということがありえる」と懸念しています。平岩は、「中国が仲介役となって米朝接近というシナリオ が、一番ありえる」と予見しています。
 文在寅候補のアドバイザー、金基正・延世大学教授が木村幹・神戸大学大学院教授と対談(「新政権誕生で日韓関係はどう 変わる」)しています。韓国政治には保守派・進歩派の別があり、進歩派は左派で中国寄り、反米主義との見方が日本にある との木村の言に対し、金は外交・安保政策においてはほとんど差がないと応じています。北朝鮮をどう見るかで違ってくるの です。民族主義的な視点に立つのが進歩派で、国家中心的なのが保守派です。国家中心的な見方からは、「韓国の主敵は北朝 鮮」となります。民族主義的な立場であれば、「北朝鮮の政権がどうであろうと、そこに住んでいる人々への人道主義的支援 を重視する」ということになります。金は、「(日韓関係では)歴史問題がどうしても課題になります。これまでの政府間合 意はこの問題を縫合しようとばかりしてきました。しかし、本当に必要なのは治癒、そして和解」だと説いています。
 石丸次郎・アジアプレス・インターナショナル大阪オフィス代表「人民軍の弱体化に現れた金正恩体制の揺らぎ」は、 「(北朝鮮は)核兵器とミサイルを確実に高度化させてきた一方で、組織としての人民軍は、弱体化に歯止めがかかっていな い」状況を詳述しています。兵士間に栄養失調が蔓延し、装備の劣化・士気低下・軍規の乱れが年々悪化しているのです。
 一方、松崎隆司・経済ジャーナリスト「サムスンとロッテに何が起きたのか」は、財閥中心の韓国経済の前途を危ぶんでい ます。「『政経癒着』や贈収賄の中で経済成長を遂げてきた韓国が果たして今後癒着の構造を変え、近代的な資本主義化を推 し進めることができるのか、大きな岐路に差し掛かっている」のです。
 加藤達也・産経新聞社会部編集委員(前ソウル支局長)「法廷闘争から見た『国民情緒法』の恐怖」は、韓国で、朴・前大 統領に対する名誉棄損事件で被告となり、無罪を勝ち取った経緯を詳述しています。すべからく、世論の動きや大統領への忖 度で大きく左右されかねないのです。
 「第三次世界大戦も杞憂ではない」は、陸海空の元自衛隊幹部(山口昇・元陸上自衛隊研究本部長×香田洋二・元海上自衛 隊自衛艦隊司令官×永岩俊道・元航空自衛隊航空支援集団司令官)による主に北朝鮮を巡る鼎談です。永岩によりますと「最 悪のシナリオは、米軍の北朝鮮攻撃が開始され、戦火が無制限に拡大してしまうこと」です。香田は「結果的に最強のならず 者国家が出現することを許してしまうのではないか」と危惧しています。結びは、「普段、安全保障について考えていない人 たちほど、極端に振れやすいものだ。ある日、『北朝鮮を攻撃せよ』といった世論で日本が一色にならないことを望むばかり だ」との山口の言です。

 『Voice』は、「韓国漂流」を総力特集しています。
 室谷克実・評論家「脱北者『差別大国』の悲惨」は、旧満州地域出身の朝鮮族や北朝鮮からの脱北者が、韓国社会で受けて いる差別を問題視しています。脱北者が、「社会的『最下層』を構成している」のです。
 「北朝鮮と韓国は共に統一を望んでいる」との想定は誤りと、渡邉哲也・経済評論家「南北経済統一は絵空事」は断じてい ます。「冷静に利害関係を分析すると、じつは北朝鮮と 韓国、双方にとって半島統一は悪夢でしかない」とまで言い切っ ています。北は「民主主義を標榜する韓国国民」を受け入れないだろうし、韓国には2500万人の「飢えた民に施しを与え られるほどの経済力」はないからです。
 韓国では北に対する軍事緊張が希薄で、その理由は「同胞が攻撃に出るはずはない。北の核は日本向けだ」と思っているか ら だと、現地取材をふまえ、宮崎正弘・評論家「『同胞は攻撃してこない』危機感なき韓国人の日常」は伝えています。
 3万8000人の在韓邦人に危険が迫ったさいの救出には困難が伴うと、野口裕之・産経新聞専門委員「在韓邦人は救出で きるのか」は問題提起しています。日本国内の政治状況を「安全保障への思考を停止し、巨大な危機に前にしてなお、覚醒し ないわが国の狂気」とまで酷評しています。

 『文藝春秋』の巻頭は、半藤一利・作家×船橋洋一・ジャーナリスト「太平洋戦争の失敗に学べ」です。二人は、北朝鮮向 けの石油を完全に止めてしまうと、北はかつての(日本の)帝国陸海軍のように、暴発する危険がある、と力説しています。

 ベスト・セラー『恐怖の地政学―地図・地形でわかる戦争・紛争の構図』(さくら舎)の著者・ティム・マーシャル・英 ジャーナリストが、『文藝春秋』で、トランプ大統領誕生後の世界について語っています(取材・構成=近藤奈香「米中神経 戦 切り札はトランプにあり」)。「アメリカは、地形によって運命づけられた『史上最強の国』」で、「(中国が)もっと も敵国に付け込まれやすい急所は、中朝国境」、そしてロシアとって死活的に重要なのは「東欧との境界線」などと展開して います。日本がとるべき地政学的戦略は、「シーレーン(海上交通路)を確保し続けること」で、北朝鮮問題に関しては、 「韓国、アメリカとの三ヵ国の連携をより緊密にする以外の選択肢は見つかりそうにありません」とのことです。

 『文藝春秋』は、「人口減少はこわくない」を大特集として編んでいます。
 吉川洋・立正大学教授×増田寛也・野村総合研究所顧問×藻谷浩介・日本総合研究所主席研究員×古市憲寿・社会学者「経 済成長をあきらめるな」は、人口減の問題に網羅的に取り組んでいます。少子化、高齢化、生産年齢人口減少の三つが絡み 合っているのです。やはり、イノベーションで生産性を高め、一人あたりのGDPを伸ばす必要があります。また、大都市圏 で高齢者が増加していることが見落とされているのが問題です。
 元気な七十代、八十代が増えています。「地域のシニアたちが集まり、人生観、仕事観をセカンドライフに合わせて切り替 え、豊かな人生に必要な知識やノウハウを習得する場」を設けることを、秋山弘子・東京大学特任教授「老後に『第二の義務 教育』が必要だ」が提唱しています。

 「65歳からのハローワーク」をも、『中央公論』は特集しています。
 清家篤・慶應義塾塾長×松本すみこ・シニアライフアドバイザー「生涯現役社会の理想と現実」で、清家はまず定年を65 歳に引き上げるべきとし、かつその後もフリーランスで働く仕組みを求めています。松本は、地域でお金を得る「コミュニ ティビジネス」の実践例などを紹介しています。
 歩行速度、握力、開眼片脚起立時間、認知機能や健康状態などのデータで、大内尉義・虎の門病院院長「高齢者75歳以上 提言には科学的根拠がある」が、「現在の高齢者は以前より平均十歳ほど若返っている」ことの実証につとめています。
 この特集には、樋田敦子・ルポライター「こんなにある!65歳からの働き方ファイル」、松本すみこ・シニアライフアド バイザー「シニアの就活必勝法」や出口治明・ライフネット生命会長「『年齢フリー』で日本社会は甦る」もあります。

 猪瀬直樹・作家・元東京都知事×片山善博・早稲田大学大学院教授・前鳥取県知事×若狭勝・衆議院議員×三浦瑠璃・国 際政治学者「小池百合子の急所を突く」『文藝春秋』が、小池都政の是非を論じています。若狭は理解を示し、猪瀬は今夏の 都議選で小池が勝つことの重みなどを論じ、三浦や片山は、小池の対応・政策は「半径五メートル」への対処療法的と難じて います。
 長島昭久・衆議院議員「二大政党に限界 わたしが民進党と訣別したワケ」『中央公論』は、「真の保守」を標榜し、安保 法制への対応や共産党との共闘に関して民進党を論難し、小池を高く評価しています。  (文中・敬称略、肩書・雑誌掲載時)