月刊総合雑誌2017年 7月
号 拾い読み (記・2017年
6月 20日)
「フランスで弱冠三十九歳のマクロン大統領が誕生しました」で始まる、三浦瑠璃・国際政治学者「若きマクロン仏大統領の正
論」『Voice』は、新大統領の勝因を「経済を復活させるためには、常識的な市場の感覚と、新産業や技術への敏感さが必要
と、フランスの有権者は判断したのではないか」としています。
「左右対立を乗り越え、漸進的な改革をなすよう訴えて当選した」のであり、選挙戦中、マクロン陣営の合言葉だった「スカ
イ・イズ・ザ・リミット(可能性は無限大)」は、「停滞とちゃぶ台返しの双方を拒否する、漸進的改良主義の意識的表現であ
る」と、遠藤乾・国際政治学者「マクロンを待ち受ける革命、惰性、改革の三つ巴」『中央公論』は解説しています。
『文藝春秋』の特集は、「驕れる安倍一強への反旗」です。
巻頭は、前川喜平・前文科事務次官「わが告発は役人の矜持だ」です。内閣府が「官邸の威光を背景に」文科省に獣医学部
開設を迫り、「行政が歪められた」と告発しています。出会い系バー通いは、「子供の貧困」、「女性の貧困」の実態を知る
ためだったのであり、「妻にも説明してあり、理解を得ています」とのことです。告発の最大の動機は、「天下り問題で国民
からの信用が失墜したのは天下り斡旋の事実そのものはもとより、それを口裏合わせで糊塗しようとした隠蔽工作にあったは
ずです。にもかかわらず、再び隠蔽工作に加担させられている」ので、文科省と関係なくなった自分が、「声をあげなくて
は、と思った」からだそうです。
森功・ノンフィクション作家「加計が食い込んだ下村元文科相夫妻」は、加計は「四十年来の腹心の友」だけでなく、「盟
友の部下である下村博文」をも頼りにしてきたのであり、「(安倍夫人の)昭恵と同じく、下村夫人の今日子もまた、加計学
園とは切っても切れない旧知の間柄」で、「政治主導という美名の下、強固な友だちサークルの絆が巨大な権力を握り、官僚
を震えあがらせ、これまで築いてきた日本の行政システムを蹂躙している」と糾弾しています。
石破茂・衆議院議員「安倍改憲案 読売新聞には驚いた」は、「(安倍総理の改憲案の)内容よりも、まずはその発表の仕
方に、違和感を禁じ得ませんでした」とし、憲法九条の三項に「自衛隊の根拠規定」を付け加えるなども「自民党の公の場で
表明されたことはありませんでした」と苦言を呈しています。「集団的自衛権は憲法上は全面的に容認される」との立場で、
総理の「集団的自衛権の行使は『存立危機事態』に限られる」と違うとし、「まずは数カ月かけて、憲法と改憲草案について
自民党の全議員が勉強し、各議員が地元の皆さんにそれを説明して理解を深めてもらう必要」があり、総裁選での争点の「最
重要テーマのはずです」と展開しています。
ここで、『文藝春秋』の特集から離れます。
自公連立は18年続いていますが、昨年末、都議会で連携してきた自民党を公明党は切り捨て、小池百合子・東京都知事の
地域政党「都民ファーストの会」との連携に舵を切りました。それは、神田正大・ジャーナリスト「都議選で生じた『自公亀
裂』の行方」『文藝春秋』は、この7月の都議選のためだと断じています。「創価学会婦人部には、小池氏は旧態依然とした
男性社会に斬り込むジャンヌ・ダルクのように映っており、人気が高い」のです。ただ、「支援を表明しているのは小池知事
の『都政改革』であって小池氏個人ではない」(学会幹部)と、学会・公明党は、小池知事が躓いたさいの備えもしていると
のことです。
小池百合子・東京都知事「私の政権公約」『文藝春秋』は、情報公開の徹底、議会改革、待機児童対策・私立高の授業料実
質無償化など教育・人材育成の強化、環境促進都市の構築、金融の再生、さらには、時差出勤や早朝通勤を促す「時差ビズ」
などを並べ、「東京都ができるところは真正面から挑戦し、日本全体を牽引していく」と意気軒昂です。改革のためには仲間
が必要だと、「都民ファーストの会」から45人が公認候補として都議選に出馬するのです。懸案の豊洲移転については、
「豊洲市場のコールドチェーン拠点、築地ブランドを生かした賑わいのある市場創りなども参考に、鳥の目で総合的な判断を
下したい」と記しています。
「(都議選は)一地方選挙の、まあ規模が大きいもの」で、「国政の自公連立に与える影響なんて、私はないと思っていま
す」と、二階俊博(聞き手=篠原文也・政治解説者)「自民幹事長 すべての疑問に答える」『文藝春秋』は言います。また
「改憲への国民的機運を盛り上げていくという意味で、安倍総理の発信はよかった」と評価しています。ただ、「党内意見を
まとめるといったって、まだ七カ月あります。急ぐ必要はない」そうです。突然の改憲宣言、森友学園・加計学園の問題、閣
僚の失言などがあっても、内閣支持率は高水準を保っていることへの質問には、「安倍さんの実力ですよ。国際的にもずいぶ
ん活躍されていますからね」と応じています。衆院解散については、「年内は常識的にはないでしょうが、どうなるか分かり
ません」と答えています。
呉善花・拓殖大学教授「経済停滞でまたも『反日』か」『Voice』は、「韓国最大の国内問題は経済」で、「日本から
の援助・協力を引き出そうとするでしょう」と予見します。ただ、「日韓合意の履行があって初めて、援助・協力に向けた協
議を行う」べきだと力説しています。韓国国民は一貫して「反日」で、「(文大統領は)いずれ国民からの反発を招くのは必
至で、支持率低下のタイミングで一気に『反日』の姿勢に転じる可能性が高い」のです。さらに、「慰安婦問題や戦時徴用工
問題について、韓国が欧米に向けて発信してきた情報は、国際的に多大な影響力をもちつつあります」と、韓国の情報発信力
の凄さについて警鐘を鳴らしています。
呉の論考は、「総力特集 文在寅政権の危うさ」の一環ですが、同総力特集には、まさしく、岡部伸・産経新聞ロンドン支
局長「国連拷問禁止委員会の誤解を正せ」があり、国際的に「慰安婦=性奴隷」との認識が根強くあるので、「国際社会にお
ける慰安婦問題に関する一連の誤解を正すため、いまこそ日本政府には戦略的な対外発信が求められる」と提言しています。
松田隆・ジャーナリスト「奪われた旭日旗」も、「韓国の主張は事実に基づかないものが多い。しかし繰り返される抗議が既
成事実として積み重ねられ、日本側が譲歩した結果、公的機関による処分」に至り、アジアサッカー連盟から「旭日旗=政治
的、差別的」とされ、それが他の大会・競技にも及ぼされるのでは、と危惧しています。
『中央公論』は、「フェイクニュースが世界を覆う」を特集しています。
佐藤友紀・読売新聞ローマ支局記者「マケドニア『フェイクニュースの里』を歩く」は、2016年のアメリカ大統領選挙
中に、「ローマ法王がトランプ氏を支持」、「クリントン氏、テロ組織に資金を渡す」などのフェイクニュースが飛び交い、
選挙に影響したといわれていますが、そのフェイクニュースを作成し、巨額の広告収入を得た、マケドニアの大学生たちを取
材したものです。いとも簡単に、ニュースサイトは作成でき、全世界に発信できるのです。
この特集には、ジョシュア・ベントン・米ハーバード大学「ニーマン・ラボ」代表「不都合な真実を『フェイク』と呼ぶト
ランプ政権」や、「政治リーダーたちはSNSに勤しんで国民に直接語りかけ、民意形成に影響力を与えることになる」、
「その潮流がさらに強まっていくことは間違いないだろう」とする、山田敏弘・国際ジャーナリスト「SNSを操る危険な最
高指導者たち」などもあります。
神谷秀樹・投資銀行家、在アメリカ「トランプとロシア 深すぎる絆」『文藝春秋』によりますと、ロシアの米大統領選へ
の介入疑惑の背景には、「(トランプの)富の形成にあたって最も重要な資金源がロシアであったこと、そしてそのロシア資
金はマフィアの資金と分別することが極めて難しいという問題がある」のです。「トランプにとってユダヤ系人脈とその保護
者プーチンとの強固な関係は生活基盤そのものであり、別格の重要性を持つ」ようです。
村田晃嗣・同志社大学教授「トランプ対FBI」『Voice』は、「大統領と議会、裁判所、
メディアとの熾烈な綱引きは、今後も続く」とし、「(トランプ政権は)ロシアゲート事件で国内的立場が苦しくなれば、外
交で点数を稼ごう」とすると分析し、「われわれの立場やアジアの事情をアメリカのアジア政策に的確に反映すべく、あらゆ
るネットワークを駆使して、ワシントンに働き掛けなければならない」と提唱しています。
(文中・敬称略、肩書・雑誌掲載時)
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