月 刊総合雑誌2017年 8月 号 拾い読み                       (記・2017720日)

 当選連続10回で「ミスター自民党」を自負する村上誠一郎・衆議院議員が「安倍首相が自民党を劣化させた」を『文藝春秋』 に寄せ、「共謀罪」法案の採決は拙速だったなどと現政権を批判しています。ちなみに選挙区は、愛媛県2区で加計学園が獣医学 部新設を計画している今治市も含まれます。今治市の財政事情も悪く、獣医が過剰なので、「獣医学部新設を特区で認める根拠は ありません」とし、「(官僚が)政権に異を唱えるような言動をすれば、人事権をいつでも発動できるという脅しが効いていま す」とも述べています。安保法制にも反対ですし、アベノミクスも「賞味期限切れ」と難じています。自民党が自由さを失い、所 属議員が劣化したとし、その要因を、「小選挙区比例代表並立制」「派閥の弱体化」「郵政選挙」としています。「トップに逆ら えば公認を外され、刺客を送られ、人事で冷遇される。権力の一極集中が極まりました」と展開しています。
 上の稿は、「特集 日本の底が抜けていく」の巻頭です。
 中西茂・教育ジャーナリスト・元読売新聞編集委員「古巣読売の前川報道を批判する」が、読売新聞の文科省の前川喜平・前事 務次官に関する報道は、編集局内の適正報道委員会にかけるべきだったとし、「近年の文部行政のキーマンとも言われた人物を、 安易に批判したことは残念でならない」と歎じています。 「加計学園と安倍ならびにそのお友だちグループとの交友は、数えあげればきりがない。なかでも下村(博文・元文科相)夫妻 は、安倍夫妻に負けず劣らず、頻繁に加計孝太郎と接してきた」と、森功・ノンフィクション作家 「加計学園疑惑 下村ルート の全貌」は言います。「第一次安倍政権で発案された獣医学部の特区構想が、第二次政権で復活し、無理筋を通しながら実現寸前 までこぎ着けた。だが、そこに文科省の文書という蟻の一穴が空き、隠されてきた暗部が少しずつ明らかになってきた」のだそう です。

 一方、『Voice』の高橋洋一・嘉悦大学教授「森友・加計問題はフェイクニュース」は、国家戦略特区ワーキンググ ループの議事録を見れば、文科省は獣医学部新設の是非についての検討の期限も守ることをせず、規制緩和の議論は課長レベ ルの事務交渉で決着がついていて、「『総理の意向』で出てくる余地はまったくない」、文科省の「コールド負け」と断じて います。マスコミが問題にしている文書はあくまでも内部文書で、「勝負のついたあとに、文科省は言い訳をいっているだけ にすぎない」、「許認可を厳しくした岩盤規制によって、天下りを受け入れざるをえなくするのは役人の常套手段」、マスコ ミは思い込みだけで報道していて、「報道ではなく、フェイクニュースである」とまで論難しています。
 また、同じ『Voice』で、竹中平蔵・東洋大学教授・慶應義塾大学名誉教授「王道政策論に回帰せよ」も、製薬会社等 に勤務する獣医師数が増加したりしているのもかかわらず、「五十年間新規開校がないまま、研究者間の競争は十分進まず、 獣医学部新卒者の数も毎年一〇〇〇人規模に固定されたままだ」、「この岩盤規制をどう突破するか……。これこそが王道の 政策論である」と説き、「加計問題の本質は、改革に反対する抵抗勢力のなりふり構わぬ抵抗を、一部野党とメディアが『証 拠主義の無視』『立証責任の転嫁』というルール違反の流儀で後押ししたものだ」と言い切っています。6月9日、今年度の 骨太方針と成長戦略が決定されたにもかかわらず、国会で審議を深めたり、大きく報じられることもなかったと問題視し、 「未来の日本は、いまの政策で大きく変わる。王道の政策論議に回帰しよう」と提唱しています。

 石井妙子・ノンフィクション作家「男たちが見た小池百合子という女」『文藝春秋』は、12人の証言を得て、「『権力と 寝る女』、『渡り鳥』と揶揄されながらも政界を泳ぎきった女性」の実像に迫ろうとしています。石井は、「政治家というよ りも『女優』の印象が強くなった」と吐露し、「選挙カーという舞台の上で黄緑色の衣装を身につけ、『女性初の都知事』と いう役を演じ続けている。熱狂なき観客を前に、候補者という脇役を横に。それでも彼女の表情は恍惚と、輝いているように 見えた」と結んでいます。

 『中央公論』は「民進党蘇生計画」を特集しています。
 野田佳彦・民進党幹事長「共産党との選挙協力に問題なんてない」によりますと、「(共産党と)すべての政策をすり合わ せるつもりは毛頭ない」、「一致点があれば協力すること、選挙で協力をすることを約束したにすぎない」のです。「今、自 民党には間違いなく驕りが生まれ、隙ができている」、「自民党二回生の醜聞が相次いでいる。次の衆院選あたりから、彼ら 世代の当選は不確実なものになるだろう。ここに我々の勝機がある」と強気です。
 玄場光一郎・衆議院決算行政監視委員長、福山哲郎・民進党幹事長代理、玉木雄一郎・民進党幹事長代理、山尾志桜里・民 進党国民運動局長による緊急討論(司会・田原総一朗「なぜ私たちは支持を得られないのか?」)があり、民主党政権失敗の 原因を探り、蘇生策を探っています。民主党の失敗の主因は党内抗争によるものであり、かつ現在の問題は自民党から離れた 「支持政党なし」を取り込めていないからのようです。玉木は、民主党時代の「子育て」「年金」「農業」についての政策の アップデートを求めています。
 熊谷晋一郎・東京大学准教授との対談(「『頼り合える』社会の構築と財政について話そう」)で、井手英策・慶應義塾大 学教授は、民進党を含む野党の支持率が上がらないのは、アベノミクスに勝てる政策を提示できていないからだと分析し、 「税を上げて、病気になっても、障害を持っても、失業しても、あるいは長生きしても、安心して生きていける状況を作る。 それが、アベノミクスに替わる選択肢だ」と強調しています。

 松井一郎・日本維新の会代表・大阪府知事「憲法改正は大阪がモデル」『Voice』によりますと、日本維新の会は憲法改正項目として、「教育の無償化」「国と地方の統治 機構改革」「憲法裁判所の設置」を提案するとのことです。「地方の政治家のほうが、住民と直接向き合っているわけです。 地方分権が実現すれば、やる気のない政治家は落選させられるし、投票率も上がる。有権者の意識も、ガラッと変わってく る」と地方分権の重要性を熱く語っています。

 教育の無償化を目指す動きがありますが、中室牧子・教育経済学者「教育無償化は格差を広げる愚策だ」『文藝春秋』が異 を唱えています。無償化や現金給付は、「親の社会経済的地位による教育格差を縮小させるどころか、ますます広げてしま う」惧れがあるのです。奨学金制度の充実と、かつ経済的に困難な児童を多く抱える学校への教員増など弾力的な資源配分を 訴えています。

 韓国では、文在寅・大統領への期待値が高いのですが、「(文政権は)右と左、両方に怒られないための何かを必死に求め ている。せめて国内での政策だけでも、どちらからも嫌われない、国民への迎合策を考えるしかない」ので、早ければ8月 15日にも、日韓合意に関する韓国側の一方的宣言があると、シンシアリー・韓国人ブロガー「慰安婦合意破棄は避けられな い」『Voice』は予見しています。

 『中央公論』は、「英語一強時代、日本語は生き残るか」をも特集しています。 特集巻頭は、水村美苗・作家「言語の植民地化に日本ほど無自覚な国はない」で、「英語の覇権がますます強まっています」 が、「ごく少数を除けば、日本人は日本語が堪能であればよい」としています。ただし、「非西洋圏でここまで機能している 言語を国語として持っている国は本当に珍しいのです」から、言語教育に力を入れ、「樋口一葉ぐらいまでは遡って読めるの が常識となるべき」なのです。
 会田弘継・青山学院大学教授は、宇野重規・東京大学教授との対談(「“ポスト真実”時代の言語と政治」で、「(日本人 のように)近代に統一された国民国家の言語によって、ほとんどすべてのことを賄える国民というのは、世界でも稀なのです から、これほど幸福な国民はいない」と述べています。宇野は、「近代語は、先祖からの伝承や物語を語れるだけでは不十分 で、政治も経済も哲学も技術も、すべてを語れなければならない。こうした言語は、実は世界にそれほどありません」と応じ ています。

 プロジェクトP「新聞は『対読売一強』で大再編せよ」『文藝春秋』は、「販売」「ネット」「経営」の分析からの提言で す。

(文中・敬称略、肩書・雑誌掲載時)