月
刊総合雑誌2017年10月号拾い読み
(記・2017年9月20日)
安保関連法で支持率が下落し、その後、戦後七十年談話で支持率を回復させた2015年の成功体験が安倍総理の「驕り」につ
ながり、その秋の内閣改造にも「驕りの萌芽」が現れ、翌16年幕開けの通常国会での施政方針演説では「批判だけに明け暮れ、
対案を示さず、後は『どうにかなる』。そういう態度は、国民に対して誠に無責任であります」などとあからさまに野党を批判
し、「はっきりと驕りが現れた」と、岩田明子・NHK解説委員「安倍総理『驕りの証明』」『文藝春秋』は指摘します。総裁任
期は三期9年に延長され、来年秋には総裁選が控えていますが、「安倍の続投は一筋縄ではいかないだろう」とのことです。
9月1日に、前原誠司・民進党代表が誕生しましたが、神津里季生・連合会長「連合会長『民進党にはもう後がない』」『文藝
春秋』によりますと、今回の代表選による出直しが、まさしく「民進党にとってラストチャンス」なのです。
上の2篇は「特集 政界激変前夜」内の論考であり、特集にはもう1篇、若狭勝・衆議院議員×長島昭久・衆議院議員「『小池
国政新党』我らが目指す姿」があります。長島は、与党と「対立」するのではなく「競争」できる野党作りを目指すとし、野党勢
力が結集するには「民進党はやはり解党するよりほかない」とまで言っています。若狭は、「細野(豪志)さん、渡辺喜美さん、
松沢成文さんなどとも会っています」と明言しています。
小池百合子・東京都知事は『Voice』に「築地と豊洲両立、何が悪い!」を寄せ、都議選勝利は既成政党に飽き足ら
ず、都政を変えてほしいとの都民の思いによるものと分析し、「豊洲を生かし、築地も守る」とし、日本橋の景観整備、無電
柱化、セーフシティ作りなど、「東京大改革」への意気込みを縦横に語っています。
「政党が信じられない」が『中央公論』の特集です。
中北浩爾・一橋大学大学院教授×待鳥聡史・京都大学大学院教授「性急に答えを求める有権者に政治家は今、何をすべき
か」では、待鳥が「政党の使い捨ては止めにしたいですね」とし、そのためには、「支持者が政党の意思決定に関わることの
できるシステムが大事だ」と説いています。中北は、政党への個人献金に対する税額控除の大幅な拡充を提案しています。
「政党は一定額の個人献金をサポーター会費として扱い、党首選びに参加する権利などを寄付者に与える」ことは「政党との
つながりが実感できるし、個人献金への動機付け」にもなり、「有権者が政党と辛抱強く関わりをもつことが、建設的な政治
のためには大切」だからです。
飯尾潤・政策研究大学院大学教授×佐々木紀彦・NewsPicks編集長「SNS時代こそ政党の真価が問われている」
は、政治とSNSとの関わりを論じています。日本ではSNSとウェブメディアが遅れていますが、佐々木は、その理由とし
て以下の三つを上げています―人口の高齢化、主流が閉じたSNSであること、既存のメディアに拮抗できるニューメディア
が生まれなかったこと。それでも、飯尾によりますと、「この一〇年で、マスメディアの凋落が始まって、ウェブ、SNSが
マスメディアの代わりを務め始め」、「人々はマスメディアを疑い、自分がつながっているSNSなどの情報を信じる」よう
になってきているのです。議論をし、その結果を集約する、その往復運動が本来の政治であるとの観点から、両者はSNSを
より活用しての多様な議論の積み重ねを求めています。飯尾は、「SNSを使って様々な層の議論が始まれば、それを政治家
個人ではなく政党が集約して整理して、改めて素材として提供することが必要です」と強調しています。それに、佐々木は、
「メディアもそのとき、アクターとしてではなくあくまで仲介者として様々な議論を紹介することが求められます。テレビの
ように何でも中立になりすぎる必要はないですが、解説記事をより充実させるべきだと思います」と応じています。
遠藤晶久・高知大学講師×三村憲弘・武蔵野大学准教授×山ア新・武蔵野大学講師「世論調査にみる世代間断絶」は、有権
者の政策意見から三つの政策軸を抽出しています―ハト派対タカ派、変化重視か伝統重視、自己利益追求のポピュリズムか否
か。安倍総理を好ましく感じる「コアな支持者」は、若年層のタカ派と高齢層の伝統重視派です。親民進グループには若年層
と高年齢層に溝があります。若年層はタカ派・変化重視、ポピュリズム寄り、高齢層はハト派で伝統・変化については中立、
反ポピュリズムです。「民進が自民に対抗する一貫性のある政党になりえていない理由の一端を示すもの」と解説していま
す。小池都知事に好感を持つのは、若い世代ではタカ派、変化重視、多少ポピュリズム的、高齢層はややハト派で価値観は中
立、反ポピュリズムです。都民ファーストが国政政党化するとしたら、二つの支持基盤の統合に苦労すると予見しています。
また、若年世代の反小池グループは、タカ派、伝統重視でややポピュリズム寄りで、現維新グループと近い政策意見を有して
います。
『Voice』は、総力特集として「中国一強を阻止せよ」を編んでいます。
その中で、矢板明夫・産経新聞外信部次長「中国政局は流動化する」が、中国共産党の指導部人事を巡る暗闘を描いていま
す。今秋、五年に一度の中国党大会があり、習近平政権二期目の指導部が発足します。強引な反腐敗キャンペーンなどで党内
に敵をつくってしまった習近平・国家主席は、対外拡張を続けなければ国内を固められなくなっています。「(習政権は)軍
や保守派からの支持を強化するために、東シナ海や南シナ海などに積極的に進出する可能性もある」と、矢板は危惧していま
す。
近藤大介・『週刊現代』編集次長、「現代ビジネス」コラムニスト「共産党政権vs
IT産業」によりますと、国有企業は民営化しなくてならないはずですが、最大の利権の源泉なので、習近平グループは手放すことはありえないのです。「『旧経済』に固執する
習近平主席と、『新経済』に賭ける李克強首相」とまで、近藤は言い切っています。現在、国有企業よりも優位を保っている
民営企業はIT産業ですが、その前途も確かではありません。
『中央公論』には、「日中国交正常化45周年記念特別寄稿」と銘打って、馬立誠・『人民日報』元論説委員「人類愛で歴
史の恨みを溶かす―『対日関係新思考』を三たび論ず」があります。英雄的最期を遂げた抗日烈士の、詩人・陳輝による、華
北に死んだ若き日本兵を悼む詩を取り上げ、普遍的な「人類愛」を持ちだし、「歴史の恨みを溶かし、中日の和解を進めるこ
とを趣旨とする新思考が、必ずや新たな時代の中日関係の思想的主軸となり、歴史的な役割を果たすであろう」と展開してい
ます。
『中央公論』は、「習近平の権謀」をも特集しています。
巻頭の宮本雄二・元駐中国大使「習近平は毛沢東になれるのか」は、「彼(習)には、両親たち第一世代が作りあげた共産
党を立派なものにしたいという思いがあり、そのための政治改革も視野に入れると、自分が三期務める必要があると考えてい
るのではないかと私は見ている」と断言しています。
黒井文太郎・軍事ジャーナリスト「金正恩がやりたい『実験』」『Voice』は、北朝鮮は、独裁維持のため、粛清に
よって叛乱の萌芽をつぶし、対米抑止力となる核ミサイルを開発してきたのであり、「その視点では、金正恩はとくに暴走し
ているわけではなく、その行動もある程度予測が可能だ」とみています。
一方、永岩俊道・元空将は、香田洋二・元海将、山口昇・元陸将との鼎談(「北の核で日本と世界が『火の海』になる日」
『中央公論』)で、トランプ大統領が支持率を上げるために北朝鮮を攻撃する可能性ありとし、また、米国内で「なぜ日本を
守る必要があるのか」との議論が起き、米国の「核の傘」に依拠できなくなる危険性ありと警鐘を鳴らしています。
川上高司・拓殖大学教授は、丹羽宇一郎・日本中国友好協会会長、宮本悟・聖学院大学教授との『文藝春秋』での鼎談
(「米軍は核を使いたがっている」)で、北朝鮮関連で、米軍の中には爆弾などの在庫を一掃したいと考える勢力がいると
し、日本は非核三原則のうちの「持ち込ませず」を再検討すべきと唱えています。
金丸信吾「金丸信次男 米朝緊迫下の平壌訪問記」『文藝春秋』によりますと、8月に平壌で金丸は、宋日昊・日朝国交正
常化担当大使から「近いうちに日朝は劇的に動く」と直に聞かされたとのことです。
(文中・敬称略、肩書・雑誌掲載時)
|