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刊総合雑誌2017年11月号拾い読み
(記・2017年9月20日)
第48回衆院選が公示された10月10日に、主要な月刊総合雑誌11月号が店頭に揃いました。
『中央公論』は、「解散総選挙 大義と争点」を編んでいます。
牧原出・東京大学教授「『オリンピック後の日本』こそが先決だ」は、「憲法上自衛隊が機能している」ので、「憲法は改
正しても改正しなくても実際上は大きな変化のない問題」で、むしろ「非常に難しい局面に入ることが予想される二〇二〇年
のオリンピック後の日本をどう作っていくか」がより重要だと説いています。
小峰隆夫・大正大学教授「『アベノミクス』と『抱きつき作戦』の評価は?」によりますと、財政・社会保障、成長戦略と
働き方改革などをめぐる議論は与野党の差が小さくなってきています。それは、「二大政党が政権を目指して競い合うと、双
方ができるだけ多くの人に受けの良い政策を掲げるため、政策の内容が似通ってくる」からで、「民意に迎合的な方向へと収
斂する傾向があり、それが問題解決を先延ばしする結果になる場合がある」と危惧しています。
広井良典・京都大学教授「現役世代への支援は結構。だが借金返済を直視せよ」は、日本の政治家に目先の損得ばかりに目
を向ける思考からの脱却を求め、「借金返済と、世界一である高齢化の費用を賄うには、消費税は少なくともヨーロッパ並み
の二〇%にはしなければならない」と力説しています。
スキャンダル報道が頻繁になされますが、倫理に関して国民の価値観が変化し、かつSNSの浸透によりプロの選別を経る
前に「人民裁判」が影響を持つようになったからだと、三浦瑠璃・国際政治学者「不倫問題や暴言はなぜ過熱報道されるの
か?」は分析しています。その上で、「小池新党が政策よりイメージ、スタイルを売りにする政党であることは、世の中の変
化を確実に捉えた結果」で、「政党まるごと、イメージを演出・操作することが可能になった」のであり、「それがどのよう
な結果を日本政治にもたらすのか、懸念は残るのですが」と結んでいます。
小池百合子・希望の党代表・東京都知事は、『文藝春秋』に「私は本気で政権を奪う」を寄せ、「全国規模で、政権を担え
るだけの候補者を擁立しました。これは、私たちの本気度の現れです」と見えを切っています。憲法改正は、第八章の地方自
治に関する部分に真っ先に手をつけるべきとのことです。
御厨貴・東京大学名誉教授は、『文藝春秋』での片山善博・早稲田大学大学院教授・前鳥取県知事×後藤謙次・政治コラム
ニストとの座談会(「小池も安倍も同じ穴の狢だ」)で、希望の党が自民党よりも「右」に重心を置こうとしているとし、
「希望の党が『右』に重心を置きつつ、『左』にウイングを広げていく戦略」を取ると、「自民党は非常に脅威を感じるで
しょうね」と推定しています。片山は安倍首相も小池知事も政策よりも見てくれやパフォーマンスを優先するとし、「似たも
の同士の戦い」とし、それに後藤は「同じ穴の狢ですね」と応じています。
河野勝・早稲田大学教授「なぜ安倍内閣の支持率は復活するのか」『中央公論』は、安倍内閣の評価が一時的に低下しても
持ち直す傾向を異例としてそのメカニズムの解明に取り組んでいます。評価が低下しても左派やリベラリズム勢力が活性化し
たわけではなく、政策を支持したとしても、政治手法や国会審議を快く思わなかったからとの可能性があるようです。「一番
近い身内と考えられる支持者たちが、冷や水を浴びせるかのような態度をとることによって」生じたのであり、だからこそ、
「低下は一時的にとどまり、支持はいつも復活する」のです。
竹中治堅・政策研究大学院大学教授「『安倍一強』の制度的基盤」『中央公論』は、1994年の政治改革以降、国家公務
員制度と幹部人事に対する首相の権限が拡大され、国家安全保障局の設置はじめ、内閣官房と内閣府を中心とする補佐体制が
強化され、それらを安倍首相が利用しながら、さらに強い権力を確保するための制度改革を実現できるようになっていると指
摘しています。森友学園や加計学園の問題は、拡大を続ける内閣官房のマネジメントのあり方が問題になってきているのであ
り、権力が強化されたが故に政権運営に綻びが生まれたのです。
『Voice』は、北朝鮮を視座に「ミサイル国家の末路」を特集しています。
日高義樹・ハドソン研究所首席研究員「改憲と核装備を求めるアメリカ」は、対北朝鮮強硬策がはかばかしくなく、北の核
ミサイル攻撃の射程内に入る恐れが強くなってきたこともあり、北に対する外交上の切り札として、アメリカが「日本の核装
備と憲法改正」を考えていることが明らかになりつつある、と述べています。それが進みませんと、「安倍政権に対する強い
不満」につながりかねないと警鐘を鳴らしています。
北の核保有の認定・金正恩体制の維持と引き換えに、ICBM開発を放棄させることができれば、アメリカ本土の平和・安
全が確保されるので、そのような方向で「米朝対話」が進展する可能性があり、それでは日本への脅威は放置されたままにな
るので、あくまでも国際社会とともに、朝鮮半島の非核化を求めていくべきだと、佐藤正久・参議院議員「外交&防衛で制裁
完全履行を」は強調しています。憲法については、「日本の国家、国民を守るために内閣総理大臣の指揮のもとに自衛隊を置
く」との主旨を国民にわかりやすく伝えるべく、「九条の二」を新設すべきだと主張しています。
『中央公論』も「北朝鮮の核、日本の『核』」を特集しています。
巻頭は、手嶋龍一・外交ジャーナリスト・作家×佐藤優・作家・元外務省主任分析官「日本は『非核1.5原則』を選べる
か」です。核兵器を「作らず、持たず、持ち込ませず」が非核三原則です。「持ち込ませず」を外し、かつどこに持ち込んだ
かを不明にし、「アメリカの核を、日米でシェアをする」のが「1.5原則」です。佐藤によりますと、「具体的なイメージ
としては、核を搭載したアメリカの原子力潜水艦に自衛官が乗り込むとともに、内閣総理大臣が核ボタンを持つ。そのボタン
は、アメリカ大統領が同時に押さないと核ミサイルが発射されないという性格のものではありません」というものです。国民
の合意形成には困難が予想されますが、検討すべき段階だとの問題提起です。
石破茂・衆議院議員・元防衛大臣「『持ち込み』から共同保有まであらゆる議論が必要だ」は、非核三原則どころか、「議
論せず」なので、非核四原則だと現状を憂慮しています。「核の持ち込み」や、ドイツ、イタリア、オランダなどの「ニュー
クリア・シェアリング」という体制も選択肢として議論すべきと提唱しています。「ニュークリア・シェアリング」とは、
「アメリカの核を国内配備し、平時の所有権はアメリカにありつつ、有事の使用に一定の権限を持つもの」です。
「往復書簡『日本核武装論』はいかに議論すべきか」で、櫻田淳・東洋学園大学教授は、「朝鮮半島に核が存置される間」
の日本の核武装、「日本暫定核武装論」を提起しています。渡部恒雄・笹川平和財団上席研究員は、経済的な余裕がないし、
日米同盟維持にマイナスになりかねないと慎重ですが、「選択肢として」は、議論する必要があると認めています。
前出の佐藤優は、『文藝春秋』の「トランプの『北の核容認』に備えよ」では、軍事力の誇示などのトランプ大統領の一連
の言動は、国際社会に向けた「全力は尽くした」というためのポーズだとみなし、最終的には米朝間で「取引」し、「(北
の)核を容認するしかないことを国際社会に納得してもらうためです」と断じています。日本はとりあえず「非核1.5原
則」を採用すべきで、北との国交正常化後は、日米韓で北の経済成長を促し、独裁体制を内側から壊し、脅威を取り除くこと
が中長期的課題です。
麻生幾・作家「日本はすぐにも巡航ミサイルを作れる」『文藝春秋』は、日本版GPS衛星「みちびき」は4基体制とな
り、国産の「巡航ミサイル」は、2年もあれば、「リアルタイムによる、わずか一メートル以内の精度で誘導してのターゲッ
ト破壊が可能」となるとの「製造業関係者」の言を紹介しています。
福島香織・ジャーナリスト「習近平を脅かす『胡春華』という男」『文藝春秋』は、10月18日から始まる中国共産党第
19回党大会で注視すべきは、共青団出身の胡の処遇とのことでした。
『中央公論』には、平成二十九年(第53回)谷崎潤一郎賞発表(受賞作・松浦寿輝「名誉と恍
惚」)がありました。
(文中・敬称略、肩書・雑誌掲載時)
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