月刊総合雑誌2017年12月号拾い読み                       (記・2017年11月20日)

 第48回衆院選の結果をふまえ、『中央公論』は、古賀誠・元衆議院議員と江田五月・元参議院議員による緊急対談(司会=御 厨貴・東京大学客員教授)「“志”なき政治家に日本の未来は託せない」を編んでいます。古賀によりますと、自民党にとって は、下野時の反省に大きな意味があったのです。政策も練られたものになりましたし、党のスタッフが充実しています。江田は、 野党には“分裂グセ”があり、難局を迎えると、人の交代で乗り切ろうとする、と慨嘆しています。「やはり政策を練り、組織を 強くしてその上で人を立てないと」ならないのです。
 佐々木毅・元東大総長「政治家は『身を切る改革』を語れ」『文藝春秋』は、「結局のところこの総選挙とはいったい何だった のか、という気分だけが残りました」とのことです。日本は総じて選挙が多すぎ、結果として政治が「短期志向化」するのです。 こうした混乱下で出てくる“政策”は「ウィッシュ(願望)リストにすぎないものになってしまう」と苦言を呈し、さらに、現今 の日本には、「日本は素晴らしい国である」と思いたいとの願望にも似た雰囲気が漂っている、政治は「長期的な視点からの『身 を切る改革』を国民に説得しなければなりません」と展開しています。「巨大与党が再び誕生した今だからこそ、長期的な時間軸 を持ち、腰をすえて政策遂行に専念してもらうことを切に望みます」と結んでいます。

 『文藝春秋』の随筆欄で、塩野七生・作家「総選挙を観戦して」は、日本が世界に誇れていたのは低い失業率と安定してい た政局であるとし、今回も自民党だけでも絶対多数となったことは、日本外交に多大なメリットをもたらすと説いています。 また、「安倍一強」と難ずる声がありますが、それは「民主的な投票の結果だから悪いことではない」とのことです。
 同随筆欄の冒頭の立花隆・評論家「日本の政治状況と朝鮮半島での戦争」は、「こんな選挙制度、政治制度を持つ国では、 何度選挙をやっても、まっとうな政治が行われるはずがない」、「日本の政治の状況があまりにもひどいが故に、我々はつい 忘れがちだが、不測の事態の発生確率が極めて大なることを忘れてはいけない」と警鐘を鳴らしています。不測の事態とは、 朝鮮半島での戦争の発生です。

 エドワード・ルトワック・米戦略国際問題研究所上級顧問は、池上彰・ジャーナリストとの『文藝春秋』での対談「米軍攻 撃の鍵を握るのは日本だ」で、北朝鮮の脅威(核・ミサイル施設)を除去する必要があり、そのため、日本は、「敵地攻撃能 力」を備えるべきだと強調しています。ただし、正面から議論して国論を二分することは避けるべきで、「少額でもいいから 契約書を交わして書類上の手続きを進めるだけでも、それが外交的なメッセージとなります」とのことです。

 高橋洋一・嘉悦大学教授「北朝鮮版ヤルタ会談へ」『Voice』は、今回の総選挙で安倍政権が信任されたとして、「若 い世代は、それほど『右傾化』していないが、自民党支持が強い」と分析しています。雇用を重視し、情報はテレビ以外から 入手しているからです。一方、高齢世代は、雇用の心配がなく、テレビに頼っているので、自民党支持が少ないのです。北朝 鮮問題に関連して、米中ロと互角に渡り合えるために、「どのような準備を日本のリーダーがすべきか。まさに日本の国家と しての命運が懸かっている」と力説しています。
 篠田英朗・東京外国語大学教授「『護憲派独裁主義』の欺瞞」『Voice』は、「希望の党や共産党から票を奪っただけ で、自民党と政権担当能力をめぐって対峙したとまではいえない」と立憲民主党に厳しいものがあります。さらに、「イデオ ロギー的な憲法解釈を絶対不可侵なものとして信奉するのは、立憲主義ではない」、「自分たちのイデオロギーだけは憲法典 をも超越する、護憲派であれば独裁的であっても立憲主義だ、と主張するのであれば矛盾だ」、「立憲主義を皮相な『アベ政 治を許さない』主義から解放し、より大局的な視点から普遍主義的に理解することは、政権担当能力をもつ政党に脱皮するた めに必須の作業である」と立憲民主党に注文を付けています。

 赤坂太郎「『一強』再現で安倍が目論む『新元号改憲』」『文藝春秋』は、安倍側近たちが描くベスト・シナリオは、年内 に改憲に関する自民党内の考えをまとめ、来年の通常国会で与野党の協議を本格化させ、夏頃に改憲を発議し、国民投票を年 末か19年初頭に行なう、としています。シナリオ通りですと、同年4月1日に新元号施行をと調整中ですが、新しい天皇陛 下による国事行為として新憲法施行となります。
 長島昭久・衆議院議員と大野元裕・参議院議員は、連名で『中央公論』に「国民の生命を守るために憲法第九条に自衛権を 明記せよ」を寄せています。「そもそも憲法に、国の存立および国民の生命と財産を守るという最も基本的な国家の責務が見 当たらず、それに伴う制約や手段の制限も明記されていない」のは適切でないと主張しています。

 佐藤優・作家・元外務省主任分析官は、『中央公論』での手嶋龍一・外交ジャーナリスト・作家との対談「アメリカ・ ファーストと独裁化する世界」で、「世界は今、独裁化に向かっている」との自らの仮説を紹介しています。アメリカのトラ ンプ政権では「ファミリー」が幅を利かせ、北朝鮮でも金正恩の妹が抜擢されました。「世界情勢が複雑化すればするほど、 迅速な決定が必要なのですが、民主主義は時間がかかる。良し悪しは別にして、乱世に民主主義は向かない」からだそうで す。そのうえで、佐藤は、「アメリカ・ファーストの裏返しで、トランプは恐らく日本のことをよく知りません」とし、 ICBM(大陸間弾道弾)は放棄させるが、日本が射程に入る中距離弾道ミサイルを放置して北朝鮮と妥協する可能性がある と、トランプの東アジア政策を危惧しています。
 中山俊宏・慶應義塾大学教授「異形の大統領は世界をどこへ連れていくのか」『中央公論』は、外形的な違いがあるにもか かわらず、トランプ政権には、オバマ、ブッシュ政権にまで遡る連続性が確認できると述べています。トランプ政権は、国際 面での無駄な介入に不信感を持ち、同盟国に負担を明示的に要求し、インフラ投資など内政にフォーカスする姿勢を打ち出し ていますが、この三つの軸は、ブッシュ、オバマ政権のそれとほぼ重なり合うのです。「アメリカ国民が国際関与に、より消 極的になりつつある長期的な兆候なのだろうか」と中山は問い、かつ「トランプ外交がひょっとすると『異形』でない可能性 があることの方が、より深刻な事態かもしれない」と懸念しています。
 猪木武徳・大阪大学名誉教授「歴史から学べるのか、歴史は繰り返すだけなのか」『中央公論』は、「保護主義が世界経済 に負の効果をもたらすことは、改めて指摘するまでもない」と、トランプ政権の通商政策を論難しています。  

 古森義久・産経新聞ワシントン駐在客員特派員「トランプは中国と対決する」『Voice』は、トランプ外交は決して粗 雑・空疎ではないとし、9月のトランプ大統領の国連総会演説などを詳述し、「原則に基づく現実主義」と評価しています。 「各国の主権と自主性、自由や法の統治という共通の価値観を守るべき原則としてまず位置付ける」のであり、「南シナ海で もウクライナでも主権を侵す脅威は排除する」のです。

 増田寛也・東京大学客員教授「所有者不明土地が日本中を喰い荒らす」『中央公論』は、「所有者不明土地」が全国に広 がっている、と心配しています。その主因は、「所有者の死亡による相続の際の相続未登記」です。「地価の下落と相続の発 生の増加が所有者不明土地を増加」させているのですが、その面積は、現在でも九州本島よりも広く、新たな取り組みがなさ れない場合、2040年には北海道本島に匹敵するほどになりそうです。このままでは、道路建設・復興・防災事業など公共 事業も実施できなくなります。所有者不明土地を再利用できる新制度、所有者不明土地を増加させない・真の所有者がわかる 社会の構築を提唱しています。

 長崎県の十八銀行と親和銀行との経営統合は、公正取引委員会の合併審査をクリアできず、無期 限の延期となりましたが、この審査に、冨山和彦・株式会社経営共創基盤代表取締役CEO×大庫直樹・ルートエフ株式会社 代表取締役「公正取引委員会『解体』論」『中央公論』が異を唱えています。シェアの問題だけでは悪とは言えず、人口減 少・過疎化が進んでいる地方では完全競争は追求できなくなってきているからとのことです。  

(文中・敬称略、肩書・ 雑誌掲載時)