(記・2018年1月20 日)

 御厨貴・東京大学名誉教授との『文藝春秋』での対談(「竹下から安倍まで総理17人のベスト3」)で、後藤謙次・政治 ジャーナリストは、ベスト3として@竹下登、A村山富市、B小泉純一郎を挙げています。竹下は「平成」という時代を迎え 入れ、消費税を導入し、現在の近隣外交の基礎を作ったと評価してのことです。村山は戦後50年談話、アジア女性基金設 立、沖縄での米兵少女暴行事件への対処、水俣病患者との和解…、小泉は日本政治の構造を変えたとのことです。御厨により ますと、@竹下登、A細川護熙、B安倍晋三です。竹下については後藤に全面的に同意し、細川は八党派連立政権を束ねたの であり、安倍は戦後憲法下での初のカムバック総理で、「長いだけのことはある」とみています。
 待鳥聡史・政治学者「ポピュリズムへの耐性を考える」『中央公論』は、ポピュリズムの要因を探っています。経済の低迷 や治安の悪化への懸念などが「需要側」となり、分かりやすい課題解決法を唱える、カリスマ的政治指導者を擁する政党が 「供給側」になるのです。「ポピュリスト新党にとってのハードルは、議院内閣制と小選挙区制の組み合わせが最も高く、大 統領制と比例代表制の組み合わせが最も低い」のです。昨年の選挙は、小池都知事が失速したように、ポピュリスト政党に とって難しいタイプが多かったのです。しかし、「ポピュリズムの台頭を招いた需要側と供給側の要因は、依然として弱まっ ていない」ので、「引き続き目配りが必要」なのです。
 塩野七生・作家が、「彼が次のエースになれるかどうかを見極めたい」と『文藝春秋』で小泉進次郎・自民党筆頭副幹事長 と対談(「進次郎は総理になれるか」)しています。塩野によりますと、「(小泉は)まだ未完成」、「つぶされる危険」が あり、「(選挙区の有権者が)日本には絶対に必要な政治家だ、その小泉進次郎を国政に送り出す権利をわれわれが有してい るのだ、と考えるような状況になれば理想的」です。「フレッシュでかっこいい進次郎」から「凄みがあってかっこいい進次 郎」への脱皮を塩野は求めています。
 岩崎大輔・ジャーナリスト「希望の党に希望はあるか?」『中央公論』は、玉木雄一郎・希望の党代表をはじめ落選議員ま で11人に訊いています。玉木は、野党間連携の必要は認めるが、維新との連立は否定し、独自路線で行くとし、「(東京五 輪以降の)二〇二〇年後の未来を先取りして提言・提案を打ち出していく」と熱く語っています。他方、長島昭久は維新、小 川淳也は共産党を含めての、泉健太は民進党、松沢成文は維新との連携を主張しています。

 『中央公論』は、2020年度から大学入試改革(「高大接続改革」)が断行されることから、「徹底討論 大学入試改革」 を特集しています。
 巻頭は、林芳正・文部科学大臣×藤原和博・奈良市立一条高等学校校長「大臣に改革の本義を質す」で、藤原は「(目標 は)情報処理力から情報編集力へ」であり、「前者は正解のあることを前提に」していますが、後者は「仮説を立てて、試行 錯誤しながら結論を導いていくスキル」と解しています。林は、学力の3要素として、@知識・技能の習得、A自ら解を見出 していく思考力・判断力・表現力等の能力、B主体性をもって多様な人々と協働して学ぶ態度を挙げています。藤原は、「共 通テストへの記述式問題の導入など」を望ましいとしています。
 和田秀樹・精神科医は、『文藝春秋』に「ゆとり教育が『学力低下』を招いた」を寄せ、この『中央公論』の特集では「ふ たたび学力が低下する」で、今回の改革も「ゆとり教育」の前から続いてきた方針に基づくものと反対しています。「今回の 改革では、学力は高いが、表現力、面接力などに劣る『従来型』の生徒の逃げ場がない」のであり、「世界で評価の低い大学 の制度が変わることのないまま、大学名誉教授が務める『改革会議』の独善で、日本中の受験生にこのような『実験』を課す ことが許されるとは思えない」と結んでいます。

 浅川雅嗣・財務官「世界経済のリスクは米中にあり」『文藝春秋』は、まず、昨年末に決着したアメリカの税制改革(連邦法 人税率の35%から21%への引下げ)は税収赤字をもたらすと見込んでいます。トランプ政権は、法人税減税とともに個人 所得税改革や成長率が上がることで税収増となると考える“上げ潮”のような「ダイナミック・スコアリング」という考え方 をとっていますが、想定通りいかない惧れもあると心配しています。中国からの資本流出圧力は継続していて、その背景には 根深い構造問題があると指摘しています。過剰生産設備、過剰信用、不良債権、不十分な消費主導経済への転換などの問題で す。日本経済については、「今後の賃上げが個人消費にさらなる好影響を及ぼすようになれば」、アベノミクスによる好循環 が本格化すると楽観的です。
 一方、吉川洋・経済学者「『不確実な経済』における賃上げ」『中央公論』は、アベノミクスでの成長率は、個人消費が振 るわないため「いまひとつ」で、それは賃金・所得が伸びていないからで、「日本の企業はリスクをとり、イノベーションに 励み、その成果を賃金に配分しなければならない」と断じています。
 アベノミクスは、平成25(2013)年4月、安倍政権下で始まりました。世界的に経済情勢の回復期でタイミングに恵 まれ、「金融緩和」の効果を最大化することができたのですが、その効果が上がったのは最初の1年半程度で、副作用ばかり が積み上がり、「将来世代へツケを回しているだけなのかもしれません」と、木内登英・野村総合研究所エグゼクティブ・エ コノミスト「アベノミクスは運に助けられた」『文藝春秋』は悲観的です。

 中国共産党第十九期全国代表大会(昨年十月)における人事について「新政治局委員の最大の特徴は、“習チルドレン”や習 の“お友達”が多い点だ」とまで、富坂聰・ジャーナリスト・拓殖大学教授「習近平『お友達人事』に誰も逆らえない」『文 藝春秋』は言い切っています。習は一期目をすさまじい指導力で乗り切りましたが、二期目は“裸の王様”になる可能性があ り、習の「神格化」は政治の迷走をもたらすかもしれないようです。

 リチャード・J・サミュエルズ・マサチューセッツ工科大学教授「日米同盟の離反に注意せよ」『Voice』は、「日米同 盟の離反が起こりうると考えています。在日米軍基地は北朝鮮のミサイル攻撃に対し、次第に脆弱になっている。だからこ そ、日本はアメリカとのあいだで軍事的負担をよりいっそう共有していくべき」とし、「アメリカの東アジアへの関与を維持 させつつ、独自の防衛力をいかに整備するか」を日本に問うています。

 エルサレムをイスラエルの首都と認め、同地に米大使館を移転させるとトランプ米大統領が宣言し、中東の国際政治の波乱が 危惧されています。
 しかし、「大きなインパクトはない」が、三浦瑠璃・国際政治学者「パレスチナ問題の現実」『Voice』の見立てで す。 三浦によりますと、アラブ世界は「口ほどにはパレスチナ問題に関心はなく」、シーア派のイランの影響力拡大を懸念するサ ウジアラビアなどのスンニ派諸国という構図があり、イランとの対立が激化すればするほど、スンニ派諸国とイスラエルとの 関係は良好となるのです。
 丸谷元人・ジャーナリスト「地獄のエルサレム首都承認」『Voice』は、イスラエルの伝統的戦略は中東のムスリム諸 国 を互いに対立させ、自らへの圧力を弱めさせるというものだと分析しています。しかも昨今は、イランとイスラエル・サウジ アラビア連合との対立・緊張が高まっていて、大量の武器が売られ、つまりはトランプ大統領の「米国第一主義」が大成功す るかもしれないと予見しています。それは、「『イラン戦争』という名の地獄の扉が開くことを意味する」、「中東は再び巨 大な業火に包まれることになる」と丸谷は危ぶんでいます。

 慰安婦像設置を承認したサンフランシスコ市との姉妹都市の解消を、大阪市は決定しました。吉村洋文・大阪市長「サンフラ ンシスコ市にいいたいこと」『Voice』には、「女性の人権という名の下に事実と異なる記述を碑文に刻み、日本軍が特 異事例だと問題を矮小化し、将来にわたって日本をバッシングし続けようとする政治宣伝は何ひとつ問題の解決になりませ ん」とあります。

 『Voice』には「憲法上の緊急条項が必要かどうかは、これまでの大規模震災での緊急措置を具体的に検証したうえで行 うべきだ」とする鈴木庸夫・明治学院大学教授「緊急事項は3・11に学べ」もあります。   

(文 中・敬称略、肩書・ 雑誌掲載時)