『文藝春秋』は「朝鮮半島『愛憎の火薬庫』」を特集しています。
巻頭は、牧野愛博・朝日新聞ソウル支局長「南北統一五輪は欺瞞だ」で、文在寅・韓国政権の2018年の最大目標は6月の統
一地方選の勝利で、そのため平昌五輪を成功させる必要があり、成功とは「北朝鮮の参加」だったと解しています。北朝鮮にとっ
ては大陸間弾道ミサイルをより完全にするための時間稼ぎであり、「韓国政府はまんまと北の戦略にはまっており、米国政府の
人々からも『naive(世間知らず)』と評されている」とのことです。
日韓慰安婦合意について、文政権は年頭に「新方針」を発表し、日本側に追加措置を促しました。韓国では、正義は法より上に
あり、国民が正義についての合意に達すれば、それに合わせて法を変えなくてならなくなるので、日本に対してだけゴールポスト
を動かしているのではなく、国内政治でも常に動かし続けていると、木村幹・神戸大学教授「慰安婦合意反故『韓国という病』」
は説いています。
川上高司・拓殖大学教授×宮本悟・聖学院大学教授×古川勝久・元国連安保理専門家パネル委員「北朝鮮軍『徹底抗戦』の全陣
容」は、北朝鮮の軍事力を検証しています。宮本は、北朝鮮の軍人の数は人口比で約2.9%(イスラエルは2.0%)もあり、
大半の軍事施設は地下にあると指摘しています。川上は、北朝鮮は空・海軍は圧倒的に劣っているのでサイバー攻撃や特殊部隊に
よる工作、諜報活動などを念頭に置いているとし、一方で、トランプ大統領はロシアゲート疑惑から外に注意を向けさせるため軍
事行動をとる可能性があり、「『トランプ・リスク』の存在を忘れてはならない」と危惧しています。古川は、交戦状態になった
場合、「アメリカ軍の机上演習では、非武装地帯近辺の地域一帯を制圧するだけでも一カ月はかかるとの結果が出たこともありま
す」と懸念しています。
古川勝久は、『Voice』には「対北制裁網は抜け穴だらけ」を寄せ、アメリカの圧力を受けて、北朝鮮との国交や貿易
の断絶を宣言する国々が相次いでいますが、それらは額面どおりに受け止めるべきでないとし、その上で、日本の安全保障
上、死活的に重要ですから、「時間がかかっても、しっかりと制裁網の『ぬけ穴』を埋めていくための丁寧な努力が不可欠
だ」と力説しています。
『Voice』は、総力特集として「平昌五輪と韓国危機」を編んでいます。
洪?・『統一日報』主幹は、櫻井よしこ・ジャーナリスト・国際基本問題研究所理事長との対談(「文在寅の非常識」)
で、「ソウルでは毎週末、反文在寅デモが開催されています。二〇一六年十一月から現在まで十四カ月続いており、まさに
『世界最長のデモ』」と紹介し、それを世界のメディアは報じないと難じています。さらに、上の牧野と同様、「北のオリン
ピック参加は平和の実現のためではなく、平和を破壊する核開発のための時間稼ぎ」と断じています。櫻井は、「金正恩の独
裁体制下で女性を含む多くの民衆の人権が侵害されている」ので、「国際社会と共に解決する姿勢」を韓国に求めています。
シンシアリー・韓国人ブロガー「やはり慰安婦合意は破棄される」は、「いずれ、韓国は公式『破棄』宣言を行なうだろ
う。ただ、その際に『日本が破棄したのだ』と言い訳するだろう。合意の趣旨を破壊したのは謝罪も賠償もしない日本であ
り、韓国は何一つ悪くない、とする屁理屈である」と断言しています。
ウィリアム・J・ペリー・米元国防長官・スタンフォード大学教授「偶発核戦争の恐怖」は、1994年、クリントン政権
の国防長官として米朝戦争勃発の危機を寸前で回避した体験をふまえ、ミサイル発射の誤報による核戦争勃発の可能性がある
と警鐘を鳴らしています。
高橋洋一・嘉悦大学教授「一年以内に北朝鮮攻撃が始まる」で、北が大陸間ミサイルの大気圏への再突入技術を確立する前
に、「武力攻撃をするのが軍事セオリー」なので、「遅くとも一年以内には、アメリカによる北朝鮮攻撃が始まると見ていい
だろう」と予言しています。
「(金正恩は)全くしっかりとした、既にれっきとした熟練政治家だ」、「(金が)ゲームに勝った」とロシアのプーチン
大統領は認識しているとのロシアの報道を、佐藤優・作家・元外務省主任分析官「限界にきた日本の北朝鮮政策」『中央公
論』は分析し、圧力一辺倒の日本外交では脅威は減少しないとし、「日本と北朝鮮の相互依存関係を強化する外交戦略につい
ても検討するタイミングに至っている」と提言しています。
『中央公論』で、小野寺五典・防衛大臣が田原総一朗・ジャーナリストの問いに答えています(「専守防衛であるために安
保法制、長距離ミサイルは必要だ」)。内容はまさしくタイトルどおりで、航空自衛隊の戦闘機用に長距離巡航ミサイルの導
入方針を固めましたが、導入するのは、「敵の防空システムの有効射程やレーダーの探知範囲の外から発射」できる「スタン
ド・オフ・ミサイル」です。
吉川洋・経済学者「『高等教育の無償化』を言う前に」『中央公論』は、「人づくり、教育が大事」だとしても、それが直
ちに「高等教育は無償化すべし」とはならない、その前に、大学教育そのものを改めなければならないと論じています。
同じく『中央公論』の中室牧子・慶應義塾大学准教授「教育無償化の論点」は、自民・公明の「人づくり革命」の目玉であ
る「幼児教育の無償化」は比較的収入の高い世帯への所得移転となり、格差拡大になると問題視しています。むしろ、待機児
童対策(保育所の増加)や保育バウチャー(利用クーポン)の導入の検討をすすめています。また、大学での若手研究者の雇
用環境の改善を訴えています。
『文藝春秋』も「日本の教育を建て直せ」を総力特集として編んでいて、そのなかで、橘玲・作家「教育無償化は税金のム
ダ使いだ」は、「母子家庭の貧困を改善することが喫緊の課題」で、教育無償化は「教育関係者への補助金」にすぎないと、
安倍首相主導の「人づくり革命」を厳しく論難しています。
総力特集の巻頭は池上彰・ジャーナリスト×吉野源太郎・ジャーナリスト「父・吉野源三郎の教え」で、漫画版『君たちは
どう生きるか』のブームの背景を探っています。池上によりますと、「(子どもに)押し付けがましいこと」を言えないと考
える祖父母・両親が子どもに買い与えているのです。総力特集には、藤原正彦・作家・数学者「小学生に英語教えて国滅ぶ」
や大村智・北里大学特別栄誉教授「小学校に理科専門教師を配置せよ」などもあります。
安倍政権の進める「働き方改革」を対象に、「『働き方』がわからない」を『中央公論』が特集しています。水町勇一郎・
東京大学教授は、駒崎弘樹・認定NPO法人フローレンス代表理事との対談(「改革の本筋をはき違えるな」)で、「時間外
労働の上限設定と正規・非正規の格差是正」が主眼で、それが実現すれば、「戦後の労働法の中でも重要な改革になります」
と強調しています。「高度プロフェッショナル制度は、長時間労働規制の抜け穴では」などは論点でなく、残業について繁忙
月は100時間未満や80時間以内が認められていますが、「原則は月四五時間、それを超えるのは年六回まで」となること
が現場にとってシビアな問題だと、水町は展開しています。また、同一労働同一賃金ですから、非正規にもボーナスが出るよ
うになるとのことです。
デービッド・アトキンソン・小西美術工藝社社長「国家事業になった観光戦略」『Voice』は、観光立国・日本への提
言です。「自分たちは特別な国で、売り手中心のビジネスをすればよいと思い込んでいる人が多い」と厳しいものがありま
す。「買い手である海外の人がどうしたら自分の国を訪れてくれるか、どんなコンテンツ、サービスを提供すれば相手の心に
響くのか」を考えるべきで、「上から目線」ではダメなのです。
西部邁が1月21日に逝去しました。『文藝春秋』に保阪正康・ノンフィクション作家×浜崎洋介・文芸批評家「自裁死・
西部邁は精神の自立を貫いた」、『中央公論』に加藤尚武・京都大学名誉教授「君の魂の叫びを聞く」、『Voice』には
小浜逸郎・批評家「西部邁氏を偲ぶ」がありました。
『文藝春秋』に第158回芥川賞発表(受賞作・石井遊佳「百年泥」、若竹千佐子「おらおらでひとりいぐも」)があり、
『中央公論』では新書大賞2018発表(受賞作・前野ウルド浩太郎『バッタを倒しにアフリカへ』光文社新書)がありまし
た。
(文
中・敬称略、肩書・ 雑誌掲載時)
|