(記・2018年4月20日)

  財務省の決裁文書の不祥事関連で、高橋洋一・嘉悦大学教授「財務省『空前絶後』の失態」『Voice』は、予算編成権・国税 調査権、官邸内にも張り巡らせた人的ネットワークを有する財務省は、「政治家を潰す」力があるので、政治家への忖度があった との見方を排しています。ただ、佐川・前国税庁長官が、「自分本位で迂闊な答弁をしてしまい、あとから齟齬に気付いて現場の 文書処理に文句をつける、という本末転倒を行なった節がある」と難じています。
 待鳥聡史・政治学者「政官関係の基本原則を再構築せよ」『中央公論』によりますと、「官邸や与党の意向は、政策を展開する 上では重視されて当然であり、官僚の判断より優先されるべきだ。内閣人事局による統制も、それを確保する手段である」とのこ とです。もっとも、「政治家の要求や介入が行政のルールに反するのなら、官僚は服従すべきでない」のです。
 「政権が強力にリーダーシップを発揮することは必要である」と、牧原出・東京大学教授「強い官邸には強い独立機関が必要 だ」『中央公論』は言います。「必要なのは、強力な官邸に対して強力な多数の独立機関が並び立ち、これらを両輪とすること」 です。独立機関とは、会計検査院などのことです。
 一方、半藤一利・作家は、保阪正康・ノンフィクション作家、辻田真佐憲・近現代史研究者との『文藝春秋』での鼎談(「安倍 政権と旧日本軍の相似形」)で、戦前の「天皇の官僚」が、戦後になっても「国民の官僚」になったとは思えないと述べ、その 後、「省益の官僚」に成り下がり、内閣人事局が創設されてからは、「自分たちの人事権を政治家に握られ、いまや『政治家の官 僚』となってしまった」とまで断じています。

  上の鼎談は、「安倍忖度政治との訣別」と題する総力特集の一環です。
  この総力特集の巻頭は、「自殺・近畿財務局職員父親の慟哭手記 息子は改ざんを許せなかった」です。
  続いて、グループMOF研「佐川氏に渡された『総理のメモ』」が、「安倍官邸にすり寄らざるを得ない財務省の心理」の分 析を試みています。第2次安倍内閣の発足時から安倍官邸と財務省の関係は冷え切っていたのです。森友問題で共通の利害で 結ばれ、「政治的に初めて『同じ舟に乗った』」のです。その象徴が、一年前の国会で、佐川・理財局長(当時)に渡された 「もっと強気で行け」との総理のメモです。その後も、失態が続き、「(財務省は)組織の存亡すら懸かる非常事態」に陥っ ています。
 石井妙子・ノンフィクション作家「昭恵夫人『主人の応援団』の末路」によりますと、「考えの足りない(首相)夫人が夫 の足を引っ張った、夫は被害者である、という図がメディアによって描かれつつある」が、実は首相夫人は「内助の功を彼女 なりに尽くそうとしている」だけだそうです。

  この総力特集内で、中西輝政・京都大学名誉教授×佐伯啓思・京都大学名誉教授「『保守論壇』の劣化が止まらない」は、安 倍政権下での憲法改正論議について論じ、憲法九条二項の削除を主張しています。「アメリカの作った憲法の改正よりも、日 米同盟を強化する安保法制の成立を優先させ、歴史認識では戦勝国アメリカの考えを踏襲する―それはこの七十年の日本の構 造そのものであり、安倍政権も、残念ながらアメリカ追従の『戦後』からまったく脱出できません」との佐伯の言に、中西も 同意し、「それを後押しするのが北岡伸一氏らで、実は安倍さんは彼らと一心同体なのです」と応じています。

  北岡伸一・国際協力機構理事長は、『中央公論』の特集「憲法の正念場」内で、篠田英朗・東京外国語大学大学院教授と対談 (「国際協調主義を阻むものは何か」)しています。北岡は、「(九条二項維持の安倍案を)積極的に賛成する気にはなれま せんが、国民投票で賛否を問われたら賛成するだろう」と述べています。「国連憲章や日米安保条約といった重要な国際法 は、一定程度、憲法を拘束する」のであり、「国連憲章にあることを忠実に実行するには、我々は実は軍事力を持たなければ ならない」ことになり、「専守防衛」を疑問視し、「攻撃されたらその基地を叩く。あるいは攻撃を可能にしたシステムや指 揮系統を破壊する。日本の領土の中だけと考えるのは、その点でも現実的ではありません」と展開しています。
 『中央公論』の特集巻頭での、大沼保昭・東京大学名誉教授、木村草太・首都大学東京教授との鼎談(「激変する安保環境  9条といかに向き合うか」)で、中西ェ・京都大学大学院教授は、大意、以下のように説いています――世界大戦後、国連 下での集団安全保障体制確立が目指されたが、安保理常任理事国に拒否権が認められ、集団安全保障が機能しない場合を考 え、自衛権を国連憲章に明文化することになった。その前に、日本国憲法は集団安保体制を前提に構想されてしまい、集団安 全保障か自衛権に基づく安保かという国連が抱える矛盾をもっとも反映してしまったのが憲法九条だ――。木村は、「『国際 公共価値のための憲法改正の発議』ならば意味がある」と明言し、大沼は、「大局的見地からもっともっと議論を重ねて、大 方の国民が納得できる改正案を提議してほしい」を鼎談の結論としています。

  「トゥキディデスの罠」との言葉を造語したグレアム・アリソン・ハーバード大学ベルファー科学・国際問題研究所所長が、 『Voice』でインタビュー(取材・構成=大野和基「北朝鮮をめぐる最悪のシナリオ」)に応じています。米中関係には 「トゥキディデスの力学」が働く可能性がありますが、現在のロシアはかつてよりも弱いので、その力学は働かないと予見し ています。北朝鮮の核兵器開発の一時中断はありえても、完全な非核化は無理なようです。「自由市場を北朝鮮が与えられた ら、いまよりも豊かになるでしょう。金正恩は転換を経て、習近平みたいになりたいと思うかもしれません。党が支配する市 場経済を運営するとなると、韓国との連合はありえるかもしれません」と言い切っています。
 首脳会談が、韓国と北朝鮮間で四月末に、つづいて米朝間でも行われることになりました。藪中三十二・立命館大学特別招 聘教授・元外務事務次官は、日本が傍観者に置き去りにされるような事態になることに警鐘を鳴らしてきたと、『文藝春秋』 での佐藤優・作家・元外務省主任分析官との対談(「トランプのディールは危険だ」)で嘆いています。今後も、トランプは 「日本は俺たちのやることについてくるだろう」、「日本の立場はアメリカにまかせておけ」となり、「いざというとき、 (日本は)蚊帳の外に置かれる危険」があると危惧しています。ただ、中国も脇役となってしまったので、「中国も引き込み ながら自らの発言力を確保するチャンス」は残されているとのことです。
 菅義偉・内閣官房長官は、『中央公論』(「日本はトランプ大統領に裏切られたのですか?」)で、田原総一朗・ジャーナ リストの問いに答え、トランプ大統領自身から韓国訪朝団の報告についての説明が電話であったなどをもって、決して「蚊帳 の外」ではないと力説しています。
 矢板明夫・産経新聞外信部次長「米朝会談の裏に中国あり」『Voice』は、「米朝交渉ではいま、中国は中立的な立場 を取っているように見えるが、実際のところ、かなり北朝鮮寄りの政権であることはいうまでもない。今後、米朝が再び対立 するような状況があれば、中国は米国を支持することはないと見られる」と断言しています。

  平野聡・東京大学教授「『静かな文革』にみる習近平の焦り」『Voice』は、「個人崇拝と絶対的支配が蔓延する『二〇 一八年憲法体制』は、IT時代の『静かな文革』が国体として填め込まれた、近現代中国史上の一大転換点として記憶される ことになろう」と説き、「静かな文革」の裏には習の深刻な焦りがあると指摘しています。貧富の格差・党官僚の汚職・環境 破壊、さらには台湾・香港・チベット・新疆問題などが切実だからとのことです。なお、『Voice』には、田中道昭・立 教大学教授「次世代自動車産業の覇権を狙う中国」もあります。
 余華・作家(聞き手・構成=飯塚容)「中国社会は再び『引き締め』の時期に入った」『中央公論』は、中国では言論統制 や規制が強まっていますが、それは10年、15年と続くと覚悟しなければならないなどとの中国のベストセラー作家による 率直な言に満ちています。

(文 中・敬称略、肩書・ 雑誌掲載時)