(記・2018年5月20日)

   『文藝春秋』の特集は「『政と官』の劣化が止まらない」で、巻頭は、森功・ノンフィクション作家「『総理の分身』剛腕秘書官の疑惑」です。「安倍政権の屋台骨を支えてき たといわれて久しい」今井尚哉(首相の政務秘書官)が「森友・加計問題への関与はあったのか」に迫ろうとしています。今井は 経産省出身で、渦中の柳瀬唯夫・経産審議官は2年後輩で、財務官僚の佐川宣寿・前国税庁長官とは「同期入省で仲がいい」との ことです。
 その今井が森のインタビューに応じています。そのタイトルは、「森友問題は、いくら値引きしろとか、そういう話に昭恵夫人 がかかわっていないことだけは間違いありませんが、交渉の過程で名前があがっていたのは事実ですから、無関係とは言えませ ん。うかつにも名誉校長を引き受けたのは間違いでした」と今井が答えているからでしょう、「昭恵夫人が無関係とは言えない」 です。
 同特集に、石破茂・自民党衆院議員が「安倍政権は真実を語れ」を寄せ、「政治家の仕事はただ一つ。勇気と真心をもって真実 を語ることだ―」と力説しています。加計問題などについて、「これまでの答弁が正しいことを証明する責任は、政府にありま す」と明快です。内閣人事局が600人もの幹部職員の人事に拒否権を持つことに疑問を呈し、安倍改憲案に異を唱えています。

 一方、『Voice』の特集は「安倍潰しの末路」で、屋山太郎・政治評論家「ど素人の人民裁判」は、「首相が『岩盤を ぶち壊す』といっていた案件なら『首相案件』にちがいない。何がおかしいのか」とマスコミや野党を論難しています。ま た、「反自民という旗だけ掲げることは、野党が何を考え、何を目標にしているかをわからなくする。旗幟を鮮明にして、そ の方針に賛成する人を集めるのが政党であって『自民政権に反対の人を集まれ』という『負の旗』では、支持者は永続しな い」と展開しています。
 田中秀臣・上武大学教授「森友・加計『魔女狩りの経済学』」は、マイケル・ジェンセン・ハーバード大学名誉教授の「報 道の経済学」をもって、日本の政治状況・報道の在り方を問うています。ジェンセン教授によりますと、「ニュースの消費は 『情報』の獲得よりも、エンターテインメント(娯楽)の消費」なのです。消費者は、単純明快な「解答」や善悪の二元論を 好み、規制緩和・自由貿易への否定的感情がどの国でも強いとのことです。

 「徹底検証 官僚劣化」が『中央公論』の特集です。
 中野雅至・神戸学院大学教授「官僚バッシングと威信の低下」は、「官僚をエリートとして扱い、これに応分のコストを支 払うという気は、国民には全くない」と指摘しています。
 鈴木寛・慶應義塾大学教授・東京大学大学院教授×朝比奈一郎・青山社中筆頭代表CEO「若手は役所の『小粒化』に満足 するな」は、官僚養成所たる東大法学部の人気が落ち込んでいる現状を憂慮しています。
 竹中治堅・政策研究大学院大学教授「議院内閣制の変容と『忖度』」は、1994年の政治改革、2001年の省庁再編、 14年の公務員制度改革で、首相の権力が増大し、「首相主導型議員内閣制」となったとしています。ただし、首相への権力 集中は過剰ではなく、むしろ、「内閣は以前より、迅速かつ効果的に政策を立案できるようになった」としています。たとえ ば、小泉内閣時の対テロ戦争やイラク戦争への対応、郵政民営化、安倍内閣の電力自由化やTPP11協定でのリーダーシッ プの発揮を評価しています。そのうえで、両学園の問題では弊害が生じたとし、内閣人事局内の権限配分の改正(首相や官房 長官の権限の一部を事務担当の官房副長官への移管など)、内閣府による特区方式の規制緩和の廃止(「総理のご意向」が働 いたとの批判を浴びる恐れが常にあるので)を求め、「内閣官房に、国会に対しより強い説明責任を果たさせるべき」と唱え ています。

 「ポピュリズムが、世界を席巻している」と井上寿一・学習院大学学長「ポピュリズムの制御は日本の使命」 『Voice』は始めています。「与野党を問わず政党に求められているのは、政策論争である。公文書管理の問題が倒閣に 政治利用されるのは避けるべきだろう。他方で公文書管理法の改正をめぐる国会論議は歓迎される。野党も改正案をもってい る。与野党間で改正の合意が形成されれば、禍を転じて福となすことができる」と説き、「非西欧世界における立憲君主制の 先進民主主義国として国の〈かたち〉を内外に訴求するには、ポピュリズムの弊害に陥ることなく、政党政治が機能していな ければならない。民主主義の価値が自明でなくなった今日の世界において、ポピュリズムを制御しながら、持続的な発展を遂 げる国家モデルを示すことこそ、日本の歴史的な使命である」と結んでいます。

 『文藝春秋』は、「北朝鮮『微笑外交』裏の顔」をも特集しています。
 黒田勝弘・産経新聞ソウル駐在客員論説委員「南北会談『成功後の失敗』を忘れるな」は、「(金正恩は)『非核化』を言 い続け、米国、韓国をはじめ国際社会に期待をもたせるだろう。そして『核放棄』のお値段(代償、見返り)が最高値に達す るまで『核放棄』は言い出さないだろう」と予見しています。
 五味洋治・東京新聞論説委員「金正恩は祖父・金日成のモノマネだ」は、「中国とソ連という大国を巧みに引きつけて朝鮮 戦争を起こし、さらに中ソとほぼ同時に同盟関係を結んだ祖父・金日成の外交スタイルを彷彿とさせるが、体制が保障されれ ば、各国と国交を正常化し、経済発展につなげるのが、金正恩の最終目標だろう」と分析しています。

 三浦瑠璃・国際政治学者は、『Voice』での村田晃嗣・同志社大学教授との対談(「トランプは米国の鳩山由紀夫 か」)で、「彼(トランプ)は外での戦いを本気でするつもりはない。むしろ少ないコストで強硬姿勢をアピールして政権支 持率を上げたい、という計算が働いているのでしょう」と述べています。村田によりますと、「つねに言動が不安定で何を始 めるかわからないトランプ大統領は、さしずめ日本でいうなら鳩山由紀夫です」。三浦は、「(今後の)米軍基地の縮小をも 睨み、核抑止力の選択肢を排除すべきでない」とし、そのため、「日米による核共有(ニュークリア・シェアリング)」を提 唱しています。

 藤井厳喜・国際政治学者「北朝鮮は『小石』にすぎない」『Voice』は、「習近平も時代がいまや、米中対決時代であ り、米中冷戦となっていることは十分に認識している」、「チャイナは北朝鮮という小石にアメリカが躓くように仕向け、ア メリカはそのチャイナの意図を見抜いた上で、北朝鮮という小石に躓かずに、寧ろこの問題を利用しようとしている」とみな しています。また、アメリカに拉致問題で貢献してもらうため、日本は通商問題で妥協せざるを得ないとのことです。

 「米朝首脳会談の衝撃」と題する『中央公論』の特集での、薮中三十二・立命館大学特別招聘教授との対談(「『ディール 外交』には原理原則で対応せよ」『中央公論』)で、白石隆・熊本県立大学理事長は、「(トランプの)一気に処理する ディールで、大向こうを唸らせる。こういう発想、手法は非常に心配です」と吐露し、「一番の問題は、現実に北に対して日 本が発言できないことです。日本の持っている最大のレバレッジ(てこ)は経済協力で、六ヵ国協議の枠組みは日本が使える 唯一の場です。それを使わないということはありえない」と主張しています。
 平岩俊司・南山大学教授「北朝鮮の『姿勢変化』はどこまで本物か」は、「北朝鮮に合意を反故にさせないよう一つひとつ 言葉を選んで北朝鮮の行動を制限していかなければならない。そうでなければ、北朝鮮はまた国際社会の連携のズレ、綻びを 巧みに利用しながら抜け道を見つけるかもしれない。また欺かれた、ということになりかねないのである」と危惧していま す。

 「『観光公害』を克服せよ」をも、『中央公論』は特集していて、その巻頭はアレックス・カー・東洋文化研究者「京都、 富士山等の混乱に学び“観光亡国”を防ぐ」です。カーは、京都などでの観光客のマナーの悪さを嘆き、その被害の甚大さを 問題視しています。マナー講座を受けた者だけが観光できるようにする「マナーゲート」の作成、入場料の値上げや入場の予 約制を提言しています。

 山中伸弥・京都大学教授が、田原総一朗・ジャーナリストを相手に、iPS細胞作製成功の経緯・先端医療等の問題を縦 横に語っています(「再生医療が改めて問う、国家と人生『百年の計』」『中央公論』)。

(文 中・敬称略、肩書・ 雑誌掲載時)