(記・2018年7月20日)

 『文藝春秋』の特集「日本の政治をリセットせよ」に、「政治部長三人が斬る安倍政権の功罪」があります。佐藤千矢子・毎日 新聞政治部長は「批判にも耳を傾け、少数意見を取り入れるということが不得意な政権」とみなしています。藤野清光・時事通信 政治部長は、二階自民党幹事長の存在感が強まっているとし、かつアベノミクスは足踏み状態にあるとし、来年十月に予定されて いる消費税の引き上げは微妙と分析しています。清水孝幸・東京新聞政治部長も、来年七月に参院選が あるので、消費税引き上げ延期の可能性あり、と予見しています。
 この特集には、橘慶一郎・自民党副幹事長×小泉進次郎・自民党筆頭副幹事長×鈴木憲和・自民党山形県連会長「小泉進次郎 『国 会改革宣言』」があり、国会改革の必要性を説いています。現状は、官邸が強くなりましたが、国会が弱いままだと問題視し、国 会では法案や政策の審議を優先的に行うようにし、総理・閣僚の国会出席の合理化を求めています。

 小泉は、『中央公論』の「私たちが挑む人生100年時代」と題する座談会(司会=田原総一朗・ジャーナリスト)にも自民 党の若手衆議院議員(福田達夫、村井英樹)とともに登場し、人口減少の進む日本にはイノベーション・新陳代謝が不可欠 で、「若者の声にもっと耳を傾け、彼ら彼女らが生きやすい環境を作ることは全世代にとっていいことです」と力説していま す。
 上の座談会は、「ポスト2020年の大問題」との特集の一環です。
 特集巻頭で、河合雅司・ジャーナリスト「課題先進国の『未来の年表』」が、「少子高齢化」を数字で鮮明に描いていま す。 東京五輪のある2020年には、日本の女性の二人に一人が五十歳以上となり、出産できる女性が激減し、さらなる少子化を 招く状況になります。
 島澤諭・中部圏社会経済研究所研究部長「将来を蝕む『民意ファースト』」は、2060年には人口ピラミッドが逆ピラ ミッ ドになるにもかかわらず、税負担率・社会保障制度は短視眼的だと断じています。しかも、現状は、「貧しくなる少数の現役 世代が裕福な多数の高齢者を扶養するという惨状である」と嘆いています。
 小林慶一郎・経済学者「財政破綻という最悪の事態に備えを」は、日本経済の財政破綻の可能性ありとし、さらに「財政再 建 は後回しにして、高い経済成長を先に実現すべきだ」との歴代政権の政策を「財政破綻の不安が経済成長を低下させていると き」に論理的に無理だ、と論難しています。消費税率の引き上げ延期などは言語道断ということになります。

 一方、岩田規久男・日銀前副総裁「消費増税は再延期せよ」『Voice』は、まず、民主党政権時代のGDP成長率 0.7%が1.3%と倍近くなったとし、実質賃金の大幅の上昇・失業率の低下・有効求人倍率の上昇など、アベノミクスの 成果を列挙しています。その上で、「日本のデフレ脱却はもう目の前に見えている」ので、さらなる消費増税は景気回復後に すべきだと展開しています。

 篠田英朗・東京外国語大学教授「米朝会談の勝者はどちらか」『Voice』は、「交渉や調停を通じた紛争解決は、『相容 れない目的』をもつ当事者の双方が、それでも何かを得る『Win-Win』状態をめざす」を前提とする「紛争解決論」を もって、米朝会談を分析しています。今回は、「『Win-Win』の結論は出なかったが、基本的な共通の利益を見出し、 それが発展していく可能性は認め合った」ので、「決して失敗したものではなかったと評価するべき」とのことです。また、 北朝鮮は地政学上、「陸上国家」と「海洋国家」の確執が先鋭化する「橋頭堡」とのことです。日本には、この地政学的性格 を把握しながらの交渉を求めています。
 福島香織・ジャーナリスト「中朝『血の友誼』という幻想」『Voice』は、米朝首脳会談前後に、金正恩が三度も訪中 し たことをもって、中国が北の代弁をし、中国の思惑を反映しての首脳会談だったとする見立てを「そう単純でもなさそうだ」 とし、「北朝鮮のことは信用していないけど、やっぱり戦略的には重要だから手を結ぶのだ」とのニュアンスを習近平の発言 に感じとるべきで、「いまなお北朝鮮は中国を恐れ、習近平は金正恩を疑っているだろう」が、福島の見立てです。
富坂聰・拓殖大学教授「習近平が望む朝鮮半島の未来」『中央公論』も、「北朝鮮が中国の『後ろ盾』を得て…」との見立て には違和感を表明しています。北朝鮮が求めているのは、政権存続、南北統一の可能性の担保、経済建設の三点です。これら を提供できるのは、アメリカしかいないので、「北朝鮮は中国を利用し、中国は利用されるメリットを見つけ、歩み寄った結 果」とみなしています。
 「米国は北朝鮮との信頼関係を強化する過程で、段階的に北朝鮮の非核化を進めるという『出口論』に踏み切ったのであ る」 と、佐藤優・作家・元外務省主任分析官「日朝首脳会談を急げ」『中央公論』は断言しています。北が大陸間弾道ミサイルは 放棄しても、中距離弾道ミサイルを放棄しないという、「日本が北朝鮮の核ミサイルの脅威にさらされる情況を米国が黙認す る可能性がある」と懸念しています。日本は、感情的に反発してはならず、「脅威を現実的に脱構築する方策について柔軟に 考えなくてはならない」のです。そのために、安倍総理の主導による六者首脳会談と、かつ二国間交渉でのアプローチを提唱 しています。
 佐藤は、『文藝春秋』には、「『中韓ソ』との戦後処理を復習せよ」を寄せ、「アメリカの政策を入口論から出口論に転換 さ せたという意味で、このゲームに勝ったのは金正恩だ」とし、さらに「日露外し」の北の意図が透けて見えると論じていま す。今後の交渉では、日露交渉の轍を踏まず、直接的には1965年の日韓基本条約を参照すべきと提言しています。また、 中国との戦後処理を振り返りますと、「賠償金」は支払ったほうがよいようです。拉致問題については、完全解決を前提にし て交渉を進める「国交正常化=入口論」から、交渉の過程で解決を目指す「国交正常化=出口論」への転換が必要だと説いて います。
 『文藝春秋』には、小泉訪朝の陰の立役者と言われる田中均・日本総研国際戦略研究所理事長による「小泉訪朝の教訓を無 駄 にするな」もあります。かつての交渉から得た教訓から言えることは、「拉致問題も、核・ミサイル問題も、国交正常化のプ ロセスの中でしか解決できない」とのことです。対話よりも圧力に重きを置いた、安倍総理の国内の反応を伺うような外交姿 勢に疑問を呈しています。

 津上俊哉・現代中国研究家「米中貿易戦争が世界経済を滅ぼす」『文藝春秋』によりますと、米国のポリシー・エリートは中 国を「恐るべき競争相手」とみて、大多数がトランプ政権の対中強硬姿勢を支持しています。一方、「中国は近代に外国の恫 喝で苦汁を飲まされたトラウマを引きずる国」で、習近平は「恫喝に屈した」とみなされては民意を失うことになるので、貿 易戦争が激化することを心配しています。

 蒔田一彦&船越翔・読売新聞記者「『科学強国』中国の光と影」『中央公論』は、中国の論文数は2016年に世界一とな り、AI論文の数は日本の五倍にものぼるなど、中国が科学技術分野でも世界をリードしているとの報告です。

 『中央公論』には、「日中平和友好条約締結40周年記念特別寄稿」と銘打って、 馬立誠・『人民日報』元論説委員「和解とは何か、いかに和解するか―『対日関係新思考』を四たび論じる」(訳者解説=杉 山祐之・読売新聞編集委員「民をもって官を促す」)があります。杉山の解説にあるように、馬の解答を単純化すれば、「日 中両国の真の和解は、国民が先導するものであり、政治は、それぞれの国益に立脚した互恵の関係を築いていくべきだ」で す。まさしく、周恩来首相が1970年代に何度も外交方針として示した「民をもって官を促す」です。馬は、日本を訪れた 中国人が、日本認識を変え、「日本に学ぶのではなく、文明に近づくのだ」とまで言うようになった現状をふまえ、「現在の 民意は、日本社会を認め、称賛することによって表現されている。これは価値観における更新だ。それは、両国が和解を更新 するための最も大切で長期的な要因と言うべきだろう」と述べています。
 馬論考にこたえて、川島真・東京大学教授「日中間の『和解』への展望」は、中国国内には歴史問題、メディアへの統制・ 封 殺などの問題があり、日本国内でも歴史問題があり、かつメディアと専門家・社会、政府との間に距離があり、「これらの複 雑な方程式をいかに解きほぐして和解を考えるのか。今後とも対話を継続していきたい」と結んでいます。

(文 中・敬称略、肩書・ 雑誌掲載時)