石破茂・自由民主党元幹事長が、「安倍総理よ、命を懸けて私は闘う」を『文藝春秋』に寄せ、秋の自民党総裁選への立候補の
声を上げています。官邸の力が強くなったのは小選挙区制の影響ではなく、「運用する側の問題」だとしています。「防災省」の
設置に加え、「地方創生」、憲法・外交・社会保障などについて、安倍総理を含め総裁立候補者とのディベートを望んでいます。
石破は、『中央公論』では、田原総一朗・ジャーナリストのインタビューに応じています(「30年後の日本が破綻しないため
に」)。森友・加計問題での安倍総理の対応を批判し、憲法9条についてが総理と最も意見が異なるとしています。ここでも「防
災省」の創設を提言し、医療保険システムの維持をうったえ、「三〇年先に、日本という国が持続的に発展して、自立精神旺盛な
国であるようにしたい」と力説しています。
野田聖子・総務大臣も『中央公論』で田原のインタビューに応えています(「女性と地方が日本を変える」)。「地方とICT
のマリアージュ」の族議員と自称し、「政治分野における男女平等参画の推進に関する法律」の成立を画期的とし、女性関連は
「日本が取り組むべき最後の構造改革」だとしています。
御厨貴・東京大学名誉教授「安倍モヤモヤ政権をSNSとダメ野党が救う」『文藝春秋』は、安倍政権が重大なスキャンダ
ルを抱えても崩壊しない背景を探っています。国民の間には根深い野党不信がありますし、安倍政権は、「イデオロギーはイ
デオロギーとして掲げておいて、実際はアベノミクスなどの経済政策に主軸を置き、非常にプラグマティックな政策を推進し
ていくことで、全体を引っ張っています」とし、かつ、SNS上で発信される言説が政権に有利に機能していると分析してい
ます。
谷口将紀・東京大学教授「ポピュリズムを招く新しい『政治的疎外』の時代」『中央公論』は、「各国で既成政治に対する
否定的な動き」が相次いでいて、日本も例外ではなく、奥底には「政治的疎外」が存在し、その帰結として「脱政治化や投
影、カリスマ待望といったポピュリズムの芽が出てくる」と説いています。投影とは、「自らが抱く不信感を他の個人や集団
―例えば、既得権益層、移民など―のせいにすること」です。日本では、2030年代には財政が破綻する可能性が高いので
すが、その取り組みが進まないまま推移すれば、政府の取りうる選択肢はなくなります。そのようなとき、「人びとの疎外感
を追い風に擡頭して、政治をさらなる混乱に陥れるのが、ポピュリズム政党」です。日本にも火種があると言うのです。「今
年九月に安倍首相が自民党総裁に三選され、また来年の参議院選挙は政権選択の機会ではないと考えれば、今が選挙の結果を
気にすることなくポスト二〇二〇年の課題に着手できる最後のチャンスになる」とまで言い切っています。
松井孝治・慶應義塾大学教授「ポスト平成の国会改革論」『Voice』は、官邸一強の弊害の是正のためにも、国会改革
を求めています。疑惑追及には専門の調査スタッフを有する特別調査委員会を設置するなどして、行政監視の質的転換を図る
べきであり、不毛な「日程政治」からの脱却、党首討論・閣僚討論の活発化、法案審議時の副大臣の活用、与野党による修正
協議の活性化などが必要とのことです。
『Voice』では、片山杜秀・思想史研究者・慶應義塾大学教授「戦後民主主義のフィナーレ」が、「大正と平成には似
た点が多い。どちらも維新や戦争、経済成長により日本が一等国に駆け上がったあと、踊り場で停滞する時代です」と断じて
います。そのうえで、「フランス革命の混乱時にナポレオンが臨時独裁のようなかたちで台頭し、政権を掌握したように、安
倍政権もデフレ不況や北朝鮮危機を政権の支持につなげた側面があります。さらに今後、天皇の権威が弱まることで日本政治
がいっそうの強権化を迎えることは確かでしょう。一部の既得権者を除き、平成後の日本国民には厳しい時代が待っている」
と予見しています。
中西輝政・京都大学名誉教授「『平成三十年』衰亡史」『Voice』によりますと、日本は三つの危機に直面していま
す。自然災害、日本人自身の変容、財政問題です。昨今の未曾有の豪雨に加え、大地震の到来の可能性もあり、財政破綻が深
刻化し、少子化とともに、移民社会への扉を開けざるを得ず、伝統文化・慣習・常識が崩れ、国柄が茫漠となる可能性すらあ
るのです。一方で、平成は、日本再生に繋がる改革はできませんでしたが、「熟成の時代」でもあったのです。ただし、その
「蓄えたもの」を活かし、「明治時代のような、国民こぞって国のサバイバルを支えるんだという進取の活力を取り戻す必要
がある」のです。
三浦瑠璃・国際政治学者「戦後国際秩序の終焉」『Voice』は、トランプ米大統領の目指すものは、「経済的な権益に
基づいたあくなきリアリズム」とみなします。「そこに世界の経済的繁栄はあるかもしれないけれど、腐敗に基づいた縁故主
義的で国家主義的な資本主義が跋扈し、自由・民主主義の建前をかなぐり捨てた世界が出現することでしょう」とまで厳しい
ものがあります。
『Voice』には、トランプ大統領が口火を切った貿易戦争に関連し、柴山桂太・京都大学准教授「米中欧の『調停者』
をめざせ」があります。「グローバル化の揺り戻しは必然」で、自由貿易にこだわるべきではなく、「重要なのは保護主義に
国際社会が合意できるルールを持ち込むこと」で、「自由と保護の各国各様の調和」をめざすべきとのことです。「そのよう
な主張を固めることができるなら、日本の存在感も増すはずである」と結んでいます。
宮家邦彦・外交政策研究所代表「世界の混乱はトランプが原因か」『Voice』は、トランプ現象は行きすぎたグローバ
ル化の反動現象の一部で、混乱は今後も続き、安保政策にも及び、45年以降の国際政治・経済・軍事の枠組みが変質し、日
本も安保政策を見直す時期が近づいていると指摘しています。
宮家は『中央公論』では、「激化する覇権競争はどう決着するのか」とのタイトルで、米中貿易戦争・経済覇権競争を論じ
ています。米国は中国を政治・軍事大国として米国の覇権に挑もうとしている「戦略的な脅威」と捉え、中国は米国を「歴史
的な『西洋文明からの衝撃』を克服する上での最後の障害」と見ているので、米中対立は「熱戦」には至らないまでも、一方
の国力が衰えるまで「冷戦」が続く可能性が高いと断言しています。
安井明彦・みずほ総合研究所欧米調査部長「トランプ支持者も鞭打つ諸刃の経済制裁」『中央公論』は、トランプ大統領は
「着々と公約を実現しているに過ぎない」のですが、「米中貿易戦争の本質は、『力』を背景とした自国重視の政策のぶつか
り合い」で、世界経済は「力のある国の政治情勢に左右されやすくなれば、先行きに対する不透明性が高まる」ことになり、
「力のある国は淘汰されるべき産業の保護を強行できるなど、グローバル化の経済的な利益を損ねる展開もあり得よう」と危
惧しています。
佐藤優・作家・元外務省主任分析官は手嶋龍一・外交ジャーナリスト・作家との『中央公論』での対談(「金正恩が狙う次
の一手」)で、六者協議の東京開催など、日本がイニシアティブをとっての北東アジアの集団安全保障体制の構築を提唱して
います。米朝が北の「ICBM放棄」で合意したとしたら、地政学的に日本の脅威は去らないからです。
佐藤は『中央公論』で、池上彰・ジャーナリストとオウム真理教事件についても対談(「宗教が持つ『狂気』を炙り出
せ」)しています。両者とも、今後もカルト教団に若者がからめとられていく危険性が高いと懸念し、佐藤は宗教がからむ小
説を読むべきとし、池上は教育現場でのカルトに騙されないようなリテラシーの涵養を求めています。
「宗教はどう生まれ、どう社会に溶け込んでいるのか。伝統宗教はどのような教義を持っているのか。そしてカルト宗教は
どこがおかしいのか。第二のオウム事件を防ぐためにも、若者が宗教を学ぶ意味は大きいのである」と、宗教教育の重要性
を、橋詰大三郎・社会学者・東京工業大学名誉教授「麻原彰晃に、なぜ若者は惹かれたのか」『中央公論』も説いています。
『文藝春秋』には、「第159回芥川賞発表(受賞作・高橋弘希「送り火」)」がありました。
(文
中・敬称略、肩書・ 雑誌掲載時)
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