『文藝春秋』に、全国14紙論説トップによる「安倍晋三首相へ直言する」があります。多くが、憲法改正よりも、地方の活性
化を求めています。また、「論戦からどこか逃げ腰の政治スタイル」(橋詰邦弘・共同通信社論説委員長「論戦から逃げず『王
道』を」)、「弱者にも冷たく、この国や国民を貧相にしてしまたった」(向山文人・山梨日日新聞社論説委員長「モラルハザー
ドを加速させた」)などと安倍総理は難じられています。沖縄からは、名越知二朗・琉球新報社論説委員長「沖縄を切り捨てた五
年八カ月」、崎濱秀光・沖縄タイムス社論説委員長「『戦後レジーム』の固定化だ」と厳しい声が寄せられています。異彩を放つ
のは、横山朱門・北國新聞社論説主幹「先を読む目は群を抜く」です。
御厨貴・東京大学名誉教授×後藤謙次・政治ジャーナリスト「平成自民が失った『賢人たちの世』」『文藝春秋』は、自民
党総裁選が「疑似政権交代」の機能を失い、「現職チャレンジ型総裁選」は「大きなしこり」「怨念」を残すし、後継者が
育っていないので、日本の政治は人材枯渇の危機にある、と慨嘆しています。
『Voice』に、安倍総理の外交スピーチの作成を担当している谷口智彦・内閣官房参与が「『希望の総理』安倍晋三の
真髄」を寄せています。「安倍総理は三選後に何を実現したいのか。大きく分けて三つあります」とのことです。憲法改正、
拉致問題解決、日露平和条約締結です。「次代を担う若者たちに、日本の未来は明るいと思わせることを、安倍総理は時代が
自分に与えた使命だと常日頃思っているに違いあるまい」と推察しています。
『中央公論』は「安倍三選のアキレス腱」を特集し、その巻頭は、佐伯啓思・京都大学名誉教授×中西ェ・京都大学大学院
教授×待鳥聡史・京都大学大学院教授「場当たり的対応をやめ、ポスト平成の青写真を描け」です。佐伯は、アベノミクスを
大規模な経済政策と認めつつも、マスコミを意識した政権運営で、状況対応的対処にすぎないと斬っています。待鳥は、現状
維持的な姿勢が安心感を与えましたが、それは、外交・安全保障面では国際常識に沿った政策を打ち出すことにつながります
が、内政面では必要な改革を避けることになると批判しています。中西は、「アベノミクスの鮮度が落ちているので、次のア
ジェンダとして、憲法改正は戦略的に都合がいいのでしょう」とし、「(総理は憲法改正を)とても真剣に考えているとは思
えませんが」と述べています。
アベノミクスに関連し、「金融政策だけでデフレ的な状況を転換し維持することができないのは当たり前」で、「この際、
日銀保有国債を『変動金利』で償還期限のない『永久国債』に転換してしまうのが現実的」と、岩村充・早稲田大学大学院教
授「『永久国債』で出口を探れ」『中央公論』は提言しています。
竹中平蔵・東洋大学教授・元経済財政政策担当大臣は、「アベノミクスには更なる政治のブレイクスルーが必要だ」(聞き
手:土居丈朗・慶應義塾大学教授)『中央公論』で、小泉政権下の経済財政諮問会議の役割を高く評価し、現政権は「経済産
業省政権」で、かつ「モリカケ問題等々で総理が忙しくなって、霞が関がひよる」状況下にあるので、成長戦略が奏功しない
と指摘しています。
岩田規久男・前日銀副総裁「現役世代の将来不安を払拭せよ」『Voice』は、「現役世代の年金不安を解消することが
必要である」とし、「財政再建は消費税増税から始めるのではなく、『経済成長なくして財政再建なし』という安倍首相の初
心に返って進めるべき」と展開しています。
富坂聰・拓殖大学教授「米中貿易戦争 習近平は完敗した」『文藝春秋』によりますと、米国製部品をイランに横流しした
違法行為をとがめ、すべての米国企業に対し、中国第2位の情報通信企業(ZTE:中興通訊)への部品、ソフト、技術の提
供を禁ずる命令を、米商務省が出し、その後、制裁は解除されましたが、米国製部品無しには、中国のハイテク産業はやって
いけないので、「中国が貿易戦争を有利に戦えるはずなどないのだ」そうです。また、「米国が狙う本命は金融自由化」で、
「日本の橋本内閣の下で行われた金融ビッグバンが思い起こされる。ハゲタカが中国に舞う日も近いだろう」と予見していま
す。
富坂は、『Voice』には「アリババとアマゾンの正面衝突」を寄せ、「米中経済戦争の最終的な着地点は、中国の金融
自由化と『一帯一路』でのドル決済の徹底が、どこかのタイミングで約束されることではないか」、「電子商取引のアリババ
が世界に進出すれば、いずれアマゾンとも正面衝突が避けられない」と予測しています。また、「革新的テクノロジーが生み
出す巨大なマーケットの覇権を握るための競争」が背景にあるのですが、「(日本は)五年間で大きな差をつけられ」、「米
中の空中戦を眺めているような状況」とのことです。
日高義樹・ハドソン研究所首席研究員「アメリカに敗れ去る中国」『Voice』は、「(連邦通信委員会FCCは)中国
のIT産業のアメリカにおける活動を、厳しく規制することにしている」し、ZTEが制裁措置を受け、「経済戦争、通商戦
争は全面的にアメリカの勝利、中国の完敗」で終わろうとしているので、今後は、中国がチベット、モンゴル、新疆ウィグル
への「独裁的、侵略的な政策を続けることが難しくなってくることは間違いない」とまで言い切っています。
安達誠司・丸三証券経済調査部長「世界は貿易戦争の勝者を予見した」『Voice』は、「中国政府は、人民元安を阻止
しようとすれば、目先の国内景気の減速を甘受せざるをえなくなるし、人民元安を許容すれば、資本流出によって将来の経済
成長が困難になるというジレンマに陥っている」とし、「人民元レートの完全な変動相場制への転換(これは同時に対外資本
取引規制の撤廃も意味する)も視野に入れる必要があるだろう。ただし、ほぼ完全な対外開放の実現は、共産党一党独裁とい
う現在の統治機構の存在基盤を危うくする可能性もあるため、中国政府は許容しにくいだろう。米中貿易戦争による中国の苦
境はまだまだ続くのではなかろうか」と結んでいます。
矢板明夫・産経新聞外信部次長「知られざる一帯一路の変化」『Voice』は、米中貿易戦争の影響下、「習政権の外
交、経済政策が多く見直される可能性もあり、一帯一路が実質的に大幅修正される可能性も浮上した」と分析し、「日本の関
わり方を、慎重に議論すべきだと考える」と提言しています。
道下徳成・政策研究大学院大学教授「激動する東アジアの安保環境 日本が対する四つのシナリオ」『中央公論』での四つ
のシナリオとは、@「悪くないシナリオ」(北朝鮮の非核化・米朝関係の進展)、A「危機再燃シナリオ」(北朝鮮の違
約)、B「リスキーな平和シナリオ」(在韓米軍の削減)、C「ゴルバチョフ・シナリオ」(北朝鮮の経済・社会改革の進
展)です。日本外交は、いずれのシナリオをも視座に入れなくてはならないようです。また、「核問題と拉致問題を機械的に
リンクするのではなく」、「段階的アプローチをとる方が現実的である」し、「拉致問題の解決を段階的に進めるのであれ
ば、北朝鮮に対する経済・技術支援も段階的に進めるべきであり、早期に日朝国交正常化を行うべきではない」そうです。
西野純也・慶應義塾大学教授「朝鮮半島の新秩序構築に積極的な関与を」『中央公論』は、「現時点で一層力を注ぐべきは
日韓関係である」とし、「一九九八年十月の日韓共同宣言から二〇年の節目を迎える今が、将来の地域新秩序の中での日韓関
係と真摯に向き合う好機である」と断じています。
牧野愛博・朝日新聞ソウル支局長「金正恩 統一王朝計画を許すな」『文藝春秋』によりますと、「金王朝を『千年王国』
にする」が北朝鮮の指導者の「頭の中心にある野望」です。「現在の対話局面は米国や韓国による政治ショーの結果ではある
ものの、日本としてはこの流れを利用し、日朝間の信頼関係の再構築に進むべきだろう」、「今、何もしなければ、金王朝は
千年王国となり、必ず後世の人々がその対価を支払わされることになる」とのことです。
樋口隆一・明治学院大学名誉教授(取材・構成:早坂隆・ノンフィクション作家)「ユダヤ難民救出『80年目の迫真証
言』」『文藝春秋』は、ハルビン特務機関長だった樋口季一郎が、1938年、ソ満国境の地・オトポールに逃れてきたユダ
ヤ難民に特別ビザを発給するように取り計らい、多くの難民の命を救った事績を紹介しています。いわば、「もう一人の杉原
千畝」がいたのです。杉原による「命のビザ」の二年前のことでした。
(文
中・敬称略、肩書・ 雑誌掲載時)
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