(記・2018年10月 20日)

 橋下徹・前大阪市長・元大阪府知事「安倍首相への忠言」『文藝春秋』は、自民党総裁選でギリギリまで態度をはっきりさせ ず、最後に石破支持を表明した小泉進次郎を「おじいちゃん政治家」と斬って捨てています。そのうえで、安倍政権はナンバー1 とナンバー2の役割分担がしっかりしているので安定していますが、慢心が故の「驕り」が森友・加計問題などの不祥事に繋がっ ていると指摘し、「安倍政権の慢心した態度への不平と不満は、絶対に国民投票で『反対』の方向に強く作用してくるはずです」 と断じています。
 『文藝春秋』では、常井健一・ノンフィクションライター「小泉進次郎『プリンス』はなぜ変節したか」も、「オーラが消え た」、「『天才子役』の域を出ていない」などとの小泉批判の声を紹介し、「そろそろ名刺代わりとなる『実績』を作れなけれ ば、これまで培ってきた説得力を失いかねない。ところが、同世代の仲間たちを集め、流行りのブレーンと手を握り、独自の政策 を声高に打ち出すほど、なぜか空回りが目立つ」と小泉に手厳しいものがあります。

 待鳥聡史・政治学者「『2021年以降』こそ日本政治の岐路」『中央公論』は、安倍政権・与党とは異なる選択肢を提示する責務が野党にあるとし、次の自民党総裁選のある 2021年の時点での、与野党対峙を期待しています。

 吉川洋・経済学者「三期目に入ったアベノミクスの課題」『中央公論』は、「首相は総裁選で『すべての世代が安心できる 社会保障改革』を五つの決意の一つとして訴えた。財政の本丸は社会保障である。これこそを三期目アベノミクスの目玉とす るべきだ」と明快です。
 安倍首相に、これからの三年の任期間に、財政再建に向け、長期的ビジョンを示してほしいと、小林慶一郎・慶應義塾大学 教授「アベノミクス『出口』はひとつしかない」『文藝春秋』は求めています。消費増税と歳出削減を合わせて行う“合わせ 技”の改革が必要ですし、消費税15%、年金給付開始年齢67歳、医療・介護保険の自己負担の1割増、女性の雇用・賃金 改善などの複合的政策がとられても、「二〇五〇年のGDPに対する債務比率が、二〇二〇年の水準をようやく下回るぐらい になる」というほどの深刻な事態に陥っているというのです。

 「米中激突と日本の危機」を『中央公論』は特集しています。
 巻頭は田中明彦・政策研究大学院大学学長「貿易戦争から『新しい冷戦』へ」です。トランプ批判を繰り返す経済学者の ポール・クルーグマンも「中国が『敵対的な専制国家』であり、『本当の安全保障上の問題』を持っている」としています し、「中国からの技術的挑戦(とりわけ不正なそれ)は、広くアメリカ全体に共有された脅威となりつつある」そうです。習 近平・中国共産党総書記の昨年の第19回党全国代表大会での報告は、「中国が政治的自由度を一切あげることなく人びとの 生活水準を向上させつつ経済的規模を大きく」していく道を行くかのように宣言したのであり、習報告の2ヵ月後に発表され たアメリカの『国家安全保障戦略』は、「中国の台頭を支持することが中国の自由化につながるというアメリカのこれまでの 政策が誤っていたことを認めた」というのです。つまりは、習報告こそ「『新冷戦開始』の宣言」であったと田中はみなして います。「『新しい冷戦』は、体制イデオロギーをめぐる対立であるとともに高度産業技術をめぐる競争として続く。(日本 は)自由主義的民主制を保持する主要国として、科学技術面での競争に負けない態勢を作っていかなければならない」と力説 しています。しかし、「冷戦」が「熱戦」になってはならないので、「(日本は)日米同盟を強化し抑止力を維持するととも に、中国との間で『平和共存』の領域を作っていく必要」があるので、「インド太平洋地域」での日中企業間の協力は「ため らう必要はない」とのことです。
 「アメリカの真の狙いは貿易赤字削減より、『中国製造2025』を潰すことにある」との見方があると、丸川知雄・東京 大学教授「不毛な貿易戦争の着地点とは」は言います。しかし、「中国製造2025」の主要目標は「二〇二五年までに製造 強国の仲間入りをする」などですが、その有無にかかわらず、中国のハイテク産業は発展する可能性があると予見していま す。アメリカのグーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンの中国国内での活動が制限されています。「米中がデジタル 分野での保護主義の問題に向き合い、市場開放のルール作りに取り組んでいくことが、貿易戦争の最も理想的な着地点だと言 える」が丸川の結論です。

 『Voice』の総力特集は、「米中激突、日本の決断」です。
 藤原正彦・お茶の水女子大学名誉教授「日本の反面教師トランプ」は巻頭で、「政治家の評価は人間性と一致しない」、 「(トランプ大統領は)人物には問題があっても、政策は正しい。なぜなら中国の不当な為替操作による人民元安が、アメリ カをはじめ世界の製造業を潰したことは紛れもない事実だからです。そして稼いだ金で異常な軍事力増強を行ない、周辺諸国 を脅かしているからです」、「仮に中国がアメリカとの貿易戦争に敗れ、経済政策の破綻で共産党のメンツが潰れたら、一党 独裁体制の終焉に繋がる可能性もあります。中国の民主化に成功したら、ドナルド・トランプの名は世界史上に特筆大書され るでしょう」とまで言い切っています。
 細川昌彦・中部大学特任教授「“オール・アメリカ”による経済冷戦」も、アメリカでの対中警戒感は根深く、つまり “オール・アメリカ”であり、「いわばワシントン・コンセンサスとなっている」ので、「トランプ氏個人がコントロールで きる域を超えている」と言います。日本企業は中国への輸出、中国企業との協力には細心さが求められ、かつ中国の大学との 共同研究も要注意とのことです。
 「日本の安全保障の要点は、日米同盟を強化し、日米同盟の中で日本の発言力を強化することである。共通の敵が存在すれ ば同盟は強くなる。中国が米国の覇権に挑戦する現状変更国家である限り、日米間には現状維持国家としての共通点があ る」、「日本の発言力を大きくするためには、米国に尊敬される国になる必要がある」、「世界の平和と正義のために日本も 大きな犠牲を払っていると世界に認識させることが肝要である」と、村井友秀・東京国際大学教授「米国の友としてシーレー ンを守れ」は、熱く語っています。
 近藤大介・『週刊現代』編集次長「『紅船』企業が日本に攻めてきた」によりますと、かつて黒船がアメリカから襲来した ように、現在は中国からの「紅船」襲来の時代なのです。スマホやドローンなどで、日本は中国に大きく遅れています。「中 国は、社会主義市場経済とAI社会の親和性を活かしながら、製造業とサービス業において、日進月歩の進化を遂げて」い て、「巨大化した中国企業が、満を持して日本市場に雪崩を打って進出して来ようとしている」のです。「自分たちの長所と 短所とを見詰め直しながら、中国を活用する『活中』の精神で、日本の新たな発展をめざしていくべきではなかろうか」が近 藤の提言です。

 11月の米中間選挙で、上下両院とも共和党が勝利するようなことになると、「さまざまな疑惑は不問に付され、法治主義 や三権分立が揺らぎ、アメリカのデモクラシーの危機はさらに深まることになる」と、想田和弘・映画作家「『アメリカン・ デモクラシー』の存続をかけた中間選挙」『中央公論』は心配しています。

 『中央公論』には、「日中平和友好条約40周年特別企画」として、劉傑・早稲田大学教授×川島真・東京大学教授×馬立 誠・『人民日報』元論説委員×栄剣・北京錦都芸術センター董事長「『戦略的な和解』から『国民主導の和解』へ」がありま す。4人は、国家が主導する「戦略的な和解」と、国民の信頼関係を基礎とする「国民主導の和解」があり、40年前、中国 は戦略・策略的に日本政府と「和解」したのだと異口同音に語っています。劉は、一回目の和解時には日本側に「戦争に対す る反省と、中国の近代化を手伝いたい、という二つの思い」があったのですが、二回目の和解には一回目と違う新発想が必要 だと述べています。栄は、中日双方に「歴史の共通認識への理解、共通の未来の価値観と国際秩序」を求めています。馬は、 「日本は中国で、人々の自由を拡大し、法治制度の整備に協力し、最終的には中国に民主主義をもたらす手助けをしてほし い」とのことです。

 出口治明・立命館アジア太平洋大学学長ほか「亡国の『移民政策』」『文藝春秋』は、移民が急増している現状を問題視し、人口減少社会への答えな のかと、安倍政権最大の失政として糾弾しています。   

(文 中・敬称略、肩書・ 雑誌掲載時)