(記・2018年11月 20日)

 「プーチン発言のように短期間で平和条約を結ぶというのは明らかに非現実的であるが、これとは別の『中間的条約』を結んで とりあえず戦争状態を終わらせ、同条約の枠内で今後の領土問題解決に関するなんらかの道筋を付けるという考え方もある」と、 小泉悠・未来工学研究所特別研究員「対露積極外交の裏をかくプーチン」『Voice』は説いています。なお、「日本に返還さ れるのは最大限に見積もって歯舞・色丹に限定されよう」ということになります。
 東郷和彦・京都産業大学教授・世界問題研究所所長との『中央公論』での対談(「北方領土返還、これが最後のチャンス だ!」)で、佐藤優・作家・元外務省主任分析官は、「(56年の日ソ共同)宣言には歯舞、色丹を『引き渡す』と書いてあり、 『返還』ではない」と指摘し、北東アジアの地政学的状況が急速に変化したので、「もはや時間的な余裕はない。今の国際情勢 や、日ロ両国の力関係の中では、とにかくまず『二島』で平和条約を作るのが現実的だし、それを逃したら歯舞も色丹も失い、ゼ ロになる」と述べています。ただし、「民意を問わないといけない」ので、来年七月予定の参院選と合わせての衆参ダブル選挙を 予想しています。

 「『もうこれ以上、付き合い切れないよ』。多くの日本人はこう思っているのではないでしょうか」と、武藤正敏・元在韓 国特命全権大使「韓国『徴用工判決』文在寅は一線を越えた」『文藝春秋』は、書き起こしています。韓国の反日は、「国益 を考えた反日」ではなく、「ただひたすら感情にまかせて」いるだけで、「要するに、彼らの反日には『甘え』に近いものが ある」ようです。武藤は、「(文大統領には)重要なのは北朝鮮との関係だけで、日本との関係を適切に管理する気が無いの ではないか」との不安を表明しています。
 木村幹・神戸大学教授「なぜ対日政策が『雑』なのか」『Voice』は、国民の支持率を上げるため、対日強硬・反日政 策を韓国の政権が取っているとの見方を排します。韓国の貿易に占める日本のシェアは7%まで低下し、韓国の経済規模はほ ぼロシアと同じとなり、「彼らの成長に従い、彼らの日本に対する依存度は低下し、結果、韓国はかつては考えられなかった ような雑な対日政策を取るようになっている」とし、「かつてのような日本への関心を失ったことで、まとまった方針や見通 しなく場当たり的に対日政策を行い、結果として日韓関係をかく乱してしまっている」と分析しています。

 「江戸、明治、戦後に続く『日本4・0』」という「新たなシステムを構築する必要に迫られています」と、エドワー ド・ルトワック・米戦略国際問題研究所上級顧問「米中冷戦 日本4・0が生き残る道」『文藝春秋』は、日本に助言しま す。「『核武装した北朝鮮』以上に『中国に支配された朝鮮半島』の方が日本にとって脅威」であることを、日本は冷静に認 識しなくてはなりません。また、北朝鮮は「反中」、韓国は「親中」というねじれが顕在化してきていているので、「(日本 は)焦ってはいけません」。「米中冷戦の結末は、中国の現政権が崩壊する以外のシナリオは考えられない」し、日本にとっ ては日露関係も重要です。シベリアへの投資は「中国への効果的な対抗策」になり得ます。日米同盟を戦略の軸に、ラオス、 ミャンマー、マレーシア、さらにはオーストラリア、インド、ベトナムなどと「緩やかな連携」を求めるべきなのです。イン ドとベトナムを結ぶ道路建設に陸上自衛隊が関与する「戦略的ODA」などをも実施すべきとのことです。

 「中国で連続して起きている国際的著名人の失踪、民営起業家や官僚の不審死などを高所から眺めてみると、いずれも資金 洗浄と資金移動の問題が背景にありそうで、これに公安部旧周永康派や上海閥・曽慶紅派の残党と習近平の権力闘争が絡んで いそうだ」と、福島香織・ジャーナリスト「著名人失踪を巡る権力闘争」『Voice』は推測しています。「追い詰められ たいまの習近平政権ならば、国際的メンツなど気にせずに、外国人も拉致して尋問するかもしれない」ので、「失踪したり不 審死したりする人間は中国人だけに限らないかもしれない」そうです。

 安田峰俊・ルポライター・立命館大学人文科学研究所客員研究員「カナダの『悪意なき反日』の正体」『Voice』は、 北米の中国系市民団体のうち、中国や台湾との政治的なつながりは比較的薄い団体もあり、その活動の根底に悪意も反日感情 もないのに、「出入りする日本人活動家を通じて、不正確な歴史認識がカナダの政治家や教師、中高生らに刷り込まれる結果 が生まれている」と憂慮しています。

 自民党総裁選での安倍三選は、「保守本流=ハト派の惨死」を意味すると、赤坂太郎「総裁選がもたらした『宏池会』消滅 危機」『文藝春秋』は断じています。宏池会は、「軽武装・経済優先」の吉田路線を継承してきたはずですが、岸田文雄・宏 池会会長の安倍支持により、保守本流が消滅したと言うのです。しかし、「(安倍には)来年の選挙に向けた政権浮揚の一手 が見えない。『移民』政策を決する出入国管理法改正、消費増税と、山積する難題によって支持率が下がれば、選挙を控える 地方から安倍離れが進んでいく」と予測しています。
 「政治を評価するときの基準として国際的にスタンダードなものは、失業率」で、安倍政権の最大の強みは失業率を下げて いることだと、橋下徹・前大阪市長・元大阪府知事「野党よ、国民の声を聞け」『Voice』は、力説しています。「自ら の思想や信条、価値観は脇に置いて、国民の感覚を細かく汲み取る『政治マーケティング』を実践している」安倍首相に対 し、「野党は自分たちの信条、価値観に凝り固まったままだから」太刀打ちできない、とも強調しています。中央・地方政府 の役割分担の明確化や、野党には政権与党とは別の選択肢を提示することを求めています。また、予備選での野党候補者一本 化を提唱しています。

 『中央公論』の「常に選挙の可能性がある国でどうやったら改革ができるのか」は、大田弘子・政策研究大学院大学教授・ 元経済財政政策担当大臣が、土居丈朗・慶應義塾大学教授の問いに応じ、小泉・第一次安倍・福田内閣での経験からアベノミ クスを検討しています。「(安倍内閣に)残されている大きな課題は、社会保障制度改革、税制改革、労働市場改革」です が、「厳しい改革は成果が出るまでに時間がかかりますし、かつ不人気」なので、「常に選挙の可能性がある国で、どうやっ たら構造改革ができるのか、私はいまだにわかりません」と吐露しています。

 小池百合子・東京都知事(聞き手=田原総一朗・ジャーナリスト)「パイの奪い合いはやめ、東京と地方の共存共栄を」 『中央公論』によりますと、「地方法人課税の偏在是正措置」により、唯一の地方交付税不交付団体の東京都は国に召し上げ られ、年間5000億円の減収とのことです。小池は、国の施策に反対し、「成長に向けた投資により、首都東京が世界から ヒト・カネを呼び込み、日本全体のパイを広げる役割を果たしていく」必要性を説いています。

 宮下洋一・ジャーナリスト「欧州移民政策の失敗から見えたこと」『Voice』は、「EUの共通移民政策は、約二十年 という時間を経て、事実上、失敗した」、「福祉国家として知られる北欧諸国も、今では自国ファースト主義へと移行しつつ ある」、「背景には、治安の悪化、失業問題、そして伝統文化の崩壊に対する危機感の表れが露呈している」状況を詳述して います。しかし、宮下は、日本は、「隠れ移民大国」と呼ばれていますが、「欧州類似型の移民問題は発生しないのではない か」と楽観的です。「他人に謝る」行為を怠らない日本人に対しては、外国人は攻撃的になる必要性がないからだそうです。
 森健・ノンフィクション作家「日本一多国籍な教室の子供たち」『文藝春秋』は、「百三十カ国以上の人々が暮らす街(東 京都新宿区)の教育現場を訪ねた」報告です。「多文化共生として個々の違いを尊重しながらも、結果的には日本を好きに なっていく子どもたちが増えていく」、「若い人たちからは、いろんな言語が混じった会話が聞こえてくる。それは猥雑に響 く一方、時代を開く新しい言葉のようにも聞こえた」と、森も楽観的です。

 「リーダーの条件とは何か?」と、『中央公論』は「名君と暴君の世界史」を特集しています。本村凌二・東京大学名誉教 授、井上寿一・学習院大学学長との座談会(「良い指導者、悪い指導者」)での岡本隆司・京都府立大学教授の言によります と、中国の理想のリーダー像は「自分は無能でも人を使うのがうまい指導者」です。井上は、「高度な専門知識と、リアリズ ムが不可欠」とし、本村は、民衆を説得する資質の重要性を語っています。

(文 中・敬称略、肩書・ 雑誌掲載時)