(記・2019年 1月 20日)

 2019年2月23日には安倍首相は首相在任期間戦後第2位となり、11月20日まで在任していれば日本憲政史上最長の在 任期間となり、日本の国際的なプレゼンス向上に繋がっていると、細谷雄一・国際政治学者「安倍長期政権が迎える外交の大舞 台」『中央公論』は見ています。5月の新天皇即位、6月にはG20大阪サミット、8月末に横浜でアフリカ開発のための TICAD首脳会議、10月に新天皇即位の礼、と外交舞台で日本が主役となるとのことです。
 懸案の憲法改正については、福田康夫・元内閣総理大臣(聞き手:篠原文也・政治解説者)「平成日本の『閉塞感』を打ち破る ために」『文藝春秋』は、「戦後日本が抱えてきた安全保障の悩みが、新安保法をもって一応の解決をみたのなら、当分の間、憲 法には手を入れなくてもいいという考え方もできます」と急ぐ必要はないとしています。外交面では、「安倍首相はトランプ大統 領とも仲がよく、習近平とも率直に話ができる。こんなすごい関係はないですよ」と評価しています。ただし、「日露、日朝関係 については、慎重に進めてほしいです」と注文をつけています。また、国の借金と東京一極集中の放置を懸念しています。
 山崎拓・元自民党副総裁(聞き手:宮城大蔵・上智大学教授)「動乱期に求められる総理の器」『中央公論』は、国防族として の政治家人生と戦後日本の政治についての総括に取り組んでいます。軽武装・経済重視の吉田路線は池田総理時代まで有効だった とし、田中角栄の金権政治への反発・違和感を露わにしています。「日米同盟と日中協商」の両立を求め、「北方領土を日米安保 条約の適用外にする」のは現実的でないとし、「もう一度しっかりした野党ができることが日本の民主主義のためにも必要で、そ れはリーダーの力次第です」と力説しています。また、沖縄県民の意向を黙殺するような辺野古への新基地建設を憂慮していま す。

 「(安倍首相にとって)七月の参院選を乗り切り、その土台の上にレガシー(大きな功績)を残せるかどうかが勝負どころ になります」と、後藤謙次・政治ジャーナリスト「安倍首相『レガシー』追求の危うさ」『文藝春秋』は見立てています。 「(安倍首相は北方領土を二島に絞り)最初から最低ラインの目標を口にしてしまいました」と難じ、「(日ロ交渉は)蒲焼 の匂いをずっと嗅がされているだけ」で、「今回も蒲焼はその姿は現さないのではないでしょうか」とし、さらには参院選で は議席数を減らす可能性が大で、北方領土返還と憲法改正というレガシー作りのハードルは高いと断じています。
 同じ『文藝春秋』で、佐藤優・作家・元外務省主任分析官「衆参ダブル選挙で日露平和条約締結へ」が、「今年中に領土問 題が基本的に解決し、日露平和条約が締結される可能性もある」と述べています。対中戦略で利害は一致し、ロシアにとって も安全保障面でも、経済的側面でも期待できるからです。日本がめざすべきは、「二島返還+α」です。日本にとっては、大 きな政策変更です。民意を問う必要が生じるので、佐藤は、「七月に衆参ダブル選挙となる可能性が高い」と予見していま す。
 ロシアによるウクライナ艦船銃撃・拿捕事件が、緊張を高め、欧州安全保障の新たな脅威となり、ひいては米露関係が険悪 化し、「米露新冷戦は二〇二四年にプーチン大統領が退陣するまで続きそうだ」と、名越健郎・拓殖大学教授「ウクライナが 加速させる米露新冷戦」『Voice』は予測しています。その上で、「安倍首相はこうした米露新冷戦の最中に領土交渉を 決着させようとしており、タイミングとしては最悪だ。プーチン大統領は歯舞・色丹を引き渡す場合、米軍基地を置かないと いう文書による確約を求めている。その場合、日米地位協定に例外規定を設けることになり、米国務省や国防総省が抵抗する だろう」と展開しています。

 山内昌之・東京大学名誉教授「複雑化する中東、情緒に走る韓国」『Voice』は、中東と東アジアを世界に存在する 「二つの火薬庫」とし、東アジアでは「自己制御困難国家」の韓国の存在が危機的状況を生んでいると指摘しています。ゴー ルポストを動かすどころか、「(韓国は)もはやゴールポストを『消している』」とまで述べています。「韓国の存在は日本 だけの問題で済まない。彼らが北朝鮮に擦り寄っているからだ」、「核兵器廃棄やミサイル開発阻止は国際世論の総意なの だ。『火薬庫』を爆発させないためにも、一致団結して北朝鮮という脅威に立ち向かわなければならない」と提言していま す。

 「中国通信機器最大手、華為技術(ファーウェイ)の副会長兼最高財務責任者(CFO)、孟晩舟氏(46)が、米司法省 の要請によりカナダで逮捕された」事件を、大西康之・ジャーナリスト「米中戦争の引き金を引いたファーウェイの娘」『文 藝春秋』が解説しています。「今、米国にとっての最大の脅威はファーウェイである。孟氏はヒートアップする米中経済摩擦 の間に揺れる『深窓の令嬢』さながら。中国のハイテク産業も日本と同様に、衰退の道を歩むのか、それとも反撃の狼煙をあ げるのか。ファーウェイ問題からは当面、目が離せない」と結んでいます。
 「華為技術(ファーウェイ)」事件については、近藤大介・ジャーナリスト「習近平は米国に面従腹背か」『Voice』 も論じています。現在、「中国組」につく国は目立たず、中国は不利です。習近平主席は、「忍従の人」で、「臥薪嘗胆する タイプ」ですので、「何とか自らのメンツを保つ格好で、アメリカに面従腹背して矛を収めようとするのではないか」と予見 しています。

 『Voice』では、小笠原欣幸・東京外国語大学大学院准教授「台湾統一地方選の本質を見誤るな」が、民進党の大敗に 終わった、昨年11月24日の台湾統一地方選挙の結果を分析しています。「蔡英文政権の自滅」の一言に尽きるとのことで す。「選挙戦略の失敗」「蔡政権の失政」「民進党の位置付け」の三つが複雑に絡まっています。蔡政権は、民進党による政 治改革を強調しすぎ、経済的側面を無視しすぎたきらいがあります。台湾は中国との関係では、「繁栄と自立のジレンマ」に ありますが、「選挙民は『繁栄も自立も』要求する。四年前は『自立』が強く出て、今回は『繁栄』に振れた」と、小笠原は 言います。

 井上久男・ジャーナリスト「日産分裂 悪いのはゴーンだけか」『文藝春秋』は、「給与や人事など待遇面でルノーに搾取 され続けていることに不満を持つ現場の社員たちが、自分の会社の経営層に自浄能力がないと判断し、外部に情報を提供した り、内部告発を始めていた。日産社内では、ゴーンが追放される前から内部崩壊が始まっていた」ので、「日産の崩壊の原因 を、単に『ゴーン一人の行き過ぎた独裁』と結論づけるのには疑問が残る」と見ています。
 EV( 電気自動車)量産化への戦いが本格的に始まったばかりで、「自動運転やライドシェア」も進展しているので、「ゴーン前会長というカリスマ経営者を解任したなかで、日産の今 後を占う上で最も重要なポイントは、次のリーダーとしての経営者とその資質だろう」とし、「(次世代自動車産業は)社会 問題と対峙し、新たな価値を提供することが最も重要だ」と、田中道昭・立教大学教授「ゴーン解任で変わる自動車産業」 『Voice』は強調しています。

 10月には安倍政権は消費増税を実行しそうです。しかし、ノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマンは、「依然と してインフレ率が低い現在、私は消費増税には反対です」と明快です(「消費増税は景気回復を妨げる」『Voice』)。 「インフレ率が二%に達するまで待つ」べきとのことです。

 2030年には日本の全人口の1割近くが認知症になり、その金融資産は100〜200兆円に達し、マクロ経済政策の領 域となると、小林慶一郎・経済学者「『金融老年学』という新たな研究課題」『中央公論』は問題提起しています。一人一人 に後見人をつけるよりも、「一括して管理運用するファンド」が必要となりそうです。

 堺屋太一・作家は、『中央公論』での今谷明・帝京大学特任教授との対談(「〔中世〕戦国期の『高度成長』と『外国人受 け入れ』に学べ」で、「安心」「安全」「正確」「(汚職が少ない)清潔」「平等」の五つで、日本は世界一と断じ、「次の 二〇二五年の万国博は『楽しい日本』をコンセプトにしたいですね」と「楽しさ」を加えるべきと提唱しています。

 上記の対談は「常識が変わる!? 日本史の大論争」と題する特集の一環です。『中央公論』は、「ラーメン文化論―まんぷく日本・繁盛秘話」をも特集していて、ラーメンの起源・流行の様相に迫っています。

(文 中・敬称略、肩書・ 雑誌掲載時)