(記・2019年 2月 20日)

 「自衛隊関係者の多くは、経済制裁を受けている北朝鮮の漁船―しかも日本のEEZ内で密漁していた漁船を、韓国は軍艦まで も出動させて、いわば国家ぐるみで助けている。しかも『韓国軍艦』は北朝鮮漁船を事実上、“護衛”している。その光景を見ら れたので苛立ち、腹立ちまぎれにFCレーダーを照射した―との推察をしている」と、麻生幾・作家「レーダー照射事件全真相」 『文藝春秋』にはあります。さらに、「『ミリミリ』(軍隊と軍隊)の関係だけは維持され、安定していた。しかし、その関係 は、ムン・ジェイン(文在寅)氏が大統領に就任してから、劇的に変質した、とする自衛隊関係者が数多い」とあります。
 「国際規則を破り、軍事常識から外れた行為に及び、さらにはプロとしての資質を問われる基本的ミスを連発したことは、まさ に韓国海軍に内在する問題点を白日の下にさらす結果となった。本件が韓国軍全体の氷山の一角の公算があることに加え、文在寅 政権の、面子を最優先して嘘を塗り重ねる手法は、民主主義国家としての韓国の尊厳と信頼感を根本から損なうものと危惧され る」とまで、香田洋二・元自衛艦隊司令官・海将「軍事の『イロハのイ』も守れていない」『Voice』は酷評しています。

 木村幹・神戸大学教授「なぜ文在寅は『発言』しないのか」『Voice』は、日韓両国の紛争が長期化するのは、韓国に おいて、経済面・安全保障面で、日本の重要性が著しく低下しているからだ、と見ています。また「文在寅政権は左派政権だ から、反日政策を取っている」という単純なものでもなく、「歴史認識問題や領土問題、さらには安全保障をめぐる問題にお いてすら、日本に対してより強硬な姿勢を求める雰囲気が存在している」ので、日本は、「より長期的な観点からわが国の国 家戦略を考え直す必要があるのではないだろうか」と説いています。
 「日本人は韓国政府の国際的なPR能力を舐めすぎている」、「本来は日本も韓国に対して過度の配慮を行なう必要がなく なっている」、「日本政府が取るべき行動は、潜在的に軍事的脅威と化しつつある韓国の防衛産業の成長を徹底的に阻害する ことである」と、渡瀬裕哉・パシフィック・アライアンス総研所長「韓国の防衛産業弱体化を狙え」『Voice』は、言い 切っています。

 『中央公論』での蓮池薫・新潟産業大学准教授との対談(「日本は北朝鮮に『信頼』と『緊張』で臨め」)で、辺真一・ 『コリア・レポート』編集長は、「(米朝間にあって)文大統領は『仲裁者』として頑張った。今の日韓問題はさておき、戦 争を止めたことは大きい」と評価しています。蓮池は、「日本側は過去の清算のビジョンを具体的に北朝鮮に伝えなければな りませんし、北朝鮮も『拉致問題は解決済み』を撤回して、誠実な態度で日本に被害者を返すことを確約すべきです」と力説 しています。

 2015年5月に中国が国家戦略として発布した、2025年までにハイテク製品の主要部品70%を自給自足とする「中 国製造2025」は実現できる可能性が高いと、遠藤誉・東京福祉大学国際交流センター長「『中国製造2025』が対立の 根源」『Voice』は予見しています。中国は1月3日に探査機の月面裏側への軟着陸を成功させました。月のレアメタル だけでなく、ヘリウム3を採取し、エネルギーとして使用し、かつ月を軍事化する可能性があると指摘しています。「習近平 がいま日本に秋波を送っているのは、あくまでもアメリカの制裁によって半導体事情が困難を来しているからであって、 [2025]を完遂させれば日本は用無しとなる。中国にとって日本が主敵であることは永遠に変わらない。そのことを見 誤ってはいけない」と警鐘を鳴らしています。

 『文藝春秋』には、座談会「トランプvs.習近平『悪』はどっちだ」(宮家邦彦・キヤノングローバル戦略研究所研究主 幹×呉軍華・日本総研理事×ケビン・メア・NMVコンサルティング上級顧問×富坂聰・ジャーナリスト)があります。宮家 によりますと、「アメリカの最終的な標的は中国の政治システム」ですから、「どちらかが完全に白旗を上げるまで『米中ス ター・ウォーズ』のエピソードは続く」とのことです。共通して「台湾」が「危険なスイッチ」になると見立てています。富 坂は「(安倍外交は)経済を重視して対中独自外交を本格的に始めています」と論じています。メアは、日本に日米同盟を礎 としての中国への「強い立場」での対応を勧めています。呉は、「日本も“当事国”として、米中対立が無用にエスカレート しないよう努力するとともに、構造改革を通じて国内で経済を引っ張るエンジンをきちんと作ることが大事だ」と提言してい ます。

 佐藤優・作家・元外務省主任分析官「遅延戦術を取り始めたロシアの本音」『中央公論』は、「(日ロ)両首脳が日ソ共同 宣言を基礎にした北方領土問題解決に向けて強い意欲を持っていることは間違いない」と断じています。しかし、「ロシア外 務省は、交渉がまとまらなくてもロシア(少なくともロシア外務省)が失うものはないと考えている」と分析しています。 「歯舞群島と色丹島が日本の主権下、国後島と択捉島がロシアの主権下にあることを明示的に認めた上で、両国の国境線を画 定すればいい」のであり、佐藤の結論は「重要なのは、解決することは可能だが、そのために時間がかかる問題を多数提示 し、交渉の引き延ばしをロシア外務省が図っていることだ。この現実を正確に認識した上で、首相官邸と外務省が連携して、 巻き返し外交を展開する必要がある」です。
 1月22日、モスクワ・クレムリンで日ロ首脳会談が行われましたが、領土問題での具体的な進展はみられませんでした。 実は、首脳会談が成功することを前提に、通常国会冒頭での「衆院解散説」があったと、赤坂太郎「『冒頭解散』を封じられ た安倍の痛恨」『文藝春秋』は明かしています。厚生労働省による「毎月勤労統計」の不正調査問題が炎上し、アベノミクス も心もとなく、原発輸出計画の頓挫、米中貿易摩擦による経済の下振れリスク等々があり、「総理の『悪運』も尽き始めたの ではないか」との声もある、と紹介しています。

 常井健一・ノンフィクションライター「厚労省『ブラック官庁』の研究」『文藝春秋』によりますと、厚労省は、一般会計 予算の30%が集中しているのに職員数は全省庁の10%、残業時間は1位の、「日本最大のブラック企業」です。「肥大 化、硬直化した組織」となっていますので、「橋本行革から二十年経つので、一度、厚労省のあり方を考えるべき」との元厚 労省幹部の訴えを詳述しています。

 日本政府は、昨年12月26日、国際捕鯨委員会(IWC)からの脱退と商業捕鯨再開を表明しました。この件に関し、 『Voice』に、八木景子・映画監督「反捕鯨プロパガンダに屈するな」があります。IWCは、本来、鯨資源の「利用」 を可能とすることを目的として発足したはずなのに、「鯨の保護のみが強調される組織に変質してしまった」と難じていま す。日本政府は、従軍慰安婦問題を含め、「事態が大きくなる前に『スピード感をもって海外発信対策』をすべき状況」にあ り、「さまざまなプロパガンダに対して、一度発表したから良いではなく、国内外に向けての発信を継続することが鍵だと思 います」と強調しています。

 『中央公論』の特集は、佐藤智恵・作家・コンサルタントのハーバード大学の10教授へのインタビューを主にした「ハー バードが注目する『新しい日本』」です。「日本のアニメがロボットを友達として描く理由」、「村上春樹と東野圭吾はなぜ 世界で愛されるのか」、「なぜいま日米で『若冲人気』なのか」、「平均寿命の明暗分ける日米の食生活」、「長寿企業大国 の根底にある神仏の教え」、「エリート米国人学生が共感する武士の人生」等々があります。
 世界的投資家であるジム・ロジャーズは、『Voice』で、「品質、勤勉、貯蓄こそ強みであることを忘れるな」と題す る日本への助言を寄せています。さらに、「エンジニア育成にもっと国費を投じる必要があります」と付言しています。

 福田康夫・元総理大臣「東京一極集中の是正に動け」『中央公論』は、災害に備えるため、また安全保障上も、リスク分散 が必要で、早急に各企業・中央省庁も各地への移転をはかるべきとし、「夢を描けるような国土づくりの政治が必要です」と 提唱しています。

 『文藝春秋』に第160回芥川賞(上田岳弘「ニムロッド」、町屋良平「1R1分34秒」)発 表、『中央公論』に新書大賞2019(吉田裕『日本軍兵士』中公新書)発表がありました。

(文 中・敬称略、肩書・ 雑誌掲載時)