(記・2019年 3月 20日)

 「陛下の謝罪まで要求する常軌を逸する国家といかに戦略的に対峙すべきか。五人のプロフェッショナルの見解は―」と銘打っ て、『文藝春秋』は「『日韓断交』完全シミュレーション」を掲載しています。高杉暢也・韓国富士ゼロックス元会長は、「日韓 経済は複雑に絡み合っていますから」と断交・制裁は困難だと指摘しています。浅羽祐樹・新潟県立大学教授は、「近年、韓国に おける日本の位相は顕著に下がっています」と見ています。「位相」とは「ステータス」のことです。寺田輝介・元駐韓国特命全 権大使の見立ては、「日韓関係は、上部構造が『政治・外交』で、下部構造が『経済・文化』」なのですが、「上部はガタガタ動 きやすいのですが、下部は比較的安定しているんですよ」です。福山隆・元陸将は、「隣接する国同士が“仲良しこよし”になる というのは幻想だ」とし、「日本は遠慮せず強気に出ればいい」と説いています。黒田勝弘・産経新聞ソウル駐在客員論説委員 は、「(韓国には)『国際ルールを守ってくれ!』と言い続け、国際社会に根気強く、日本の正当性を主張し続ける」、「韓国の 対日非常識・暴走を国際圧力で制御コントロールする」、「征韓論ではなく、“制韓論”です」と展開しています。

 「日韓確執の深層」が『Voice』の総力特集です。
 木村凌二・東京大学名誉教授「『平和憲法』が融和を阻害している」は、日韓確執の最大要因は価値観・文化の違いとしま す。韓国の人々にとって、謝罪とは降伏・屈服に近く、日本側がいかに謝罪しても、降伏・屈服に感じられなければ、「誠意 がない」ことになります。逆に、自らの非を認めて謝罪するのは屈服することになるのです。また、「日本は『平和憲法』に 縛られている。軍事力というオプションがないのならば、いくら挑発しても怖くはない。韓国に足元をみられても致し方がな い」、だから憲法九条第二項を早期に削除すべきだと主張しています。
 三浦瑠璃・国際政治学者「戦争と平和のコストを認識しているか」は、北朝鮮からの攻撃に対し、韓国がハト派的態度に終 始してきているのは、徴兵制が抑制効果となっているからだと見ています。
 「(文政権は)『対日政策能力に乏しい政権』と定義づけることが適当」とまで、牧野愛博・朝日新聞ソウル支局長「レッ テル貼り論争から脱却せよ」と言い切っています。「文政権は三月末から四月にかけて金正恩氏のソウル訪問を実現させよう と必死になっている」のですが、それが実現しない可能性があり、「困った文政権は、代わりに対日批判を加速して民族の同 質性を強調し、北朝鮮の歓心を買おうとしている」との韓国の元政府高官の言を紹介しています。
 西野純也・慶應義塾大学教授「米朝会談で再編される朝鮮半島」の結びは、「悪化した日韓関係を立て直すことなしに、朝 鮮半島でいま起きているプロセスに日本が能動的かつ建設的に関与するには限界がある。その事実を踏まえた上で、新たな日 韓関係をどう構築していくかをも日本は考えていかなければならない」です。
 古川勝久・国連安保理北朝鮮制裁委員会専門家パネル元委員「進まない非核化と『トランプ劇場』」は、「米朝実務レベル 協議は、本格的に始まったばかり」で、「日本としては、非核化が思ったように進まなくとも、少なくとも後退はしないよう に、あらゆる外交努力を尽くすべきである」と強調しています。
 「無理な世襲など支配構造の問題もあり、財閥主導の成長モデルは韓国でもそろそろ限界に来ている」と韓国経済の先行き を不安視し、「これまで日韓関係が悪化したときでも、企業同士は冷静に対応し、良好な関係の基盤だった。今回の徴用工問 題は、そんな日本企業が当事者になってしまったという点において、きわめて深刻な問題なのだ」と、玉置直司・在韓ジャー ナリスト「成長モデルを失った韓国経済」は心配しています。

 木村幹・神戸大学大学院教授「特異な実務派・文在寅のリーダーシップ研究」『中央公論』は、「文在寅は信頼する狭い範 囲の人脈を直下の大統領府を中心に配置し、自らの豊富な実務経験を武器に政務の細々とした部分にまで介入する」、「対外 関係に関わる文在寅の関心は北朝鮮との関係に集中しており、その他の部分への関心は限定される」、「彼の関心から外れた 部分に対して興味を持たせることは難しい。結果、政権と外部との意思疎通は貧弱なものとなることを運命づけられる」と分 析しています。

 福島香織・ジャーナリスト「エネルギー覇権を狙う中国」『Voice』によりますと、2030年までに新たに建設され る原発は300基で、その多くが中国製造になりそうだとのことです。中国が原発に固執するのは、「原発輸出によって他国 のエネルギーの根幹を押さえれば世界を支配できる、という考え方からだ」そうです。「一党独裁の国内ですさまじい人権弾 圧を行なっているような国が覇権を確立すれば、それは日本の国家安全にとって脅威だ。日本が原発技術を手放さず、中国の 原発覇権の前に立ちはだかる存在であり続けることが、日本の安全にとっても、国際社会の安全にとっても利益ではないか」 と力説しています。

 「この三十年間で資本主義そのものが変質し、データを持ったものが覇権を握るという『データイズム』の時代になってい ます。日本はその流れに乗れなかった。世界時価総額ランキングを見ればそれは明らかです」と、小林喜光・経済同友会代表 幹事「日本経済 平成は『敗北』の時代だった」『文藝春秋』は慨嘆しています。平成30年の時価総額では、トップ10は 米中のネット系企業で、トヨタが四十数位とのことです。「(日本の強みは)鉄道や公共システム、コンビナート、素材分 野、精密な医療など、『リアル』な世界での膨大な知の集積です。このような『実』の部分と、GAFAやアリババなどが得 意とするバーチャルな世界を“ドッキング”することが新しい道になるのではないでしょうか」と提言しています。

 「小選挙区制を導入した平成の政治が、以前に比べ目に見えてやせ細ったことは、否定しようがない事実である」と、御厨 貴・東京大学客員教授「小選挙区制、二大政党制の改革で劣化した“政治家気質”」『中央公論』は言います。「先の見えな いまま平成の政治は終わる。政党政治の危機的状況と時代の終わりが重なるというのは、私には不気味でならない」そうで す。
 橋下徹・弁護士は、民進党の政策作りに参画していた井手英策・慶應義塾大学教授との『中央公論』での対談(「日本の再 建に待ったなし 政権奪取の策はこれだ!」)で、道州制の導入をうったえています。

 『文藝春秋』は、「完全保存版 平成31年を作った31人」を編み、時代を動かした人物を取り上げています。後藤謙 次・政治ジャーナリスト「平成元年 竹下登」に始まり、立花隆・評論家「平成7年 麻原彰晃」、五木寛之・作家「平成 10年 宇多田ヒカル」、菅義偉・内閣官房長官「平成24年 安倍晋三」、岡野弘彦・歌人「平成31年 皇后美智子さ ま」などがあります。

 「ゴーンショックの陰に隠れて目立たないが、実はホンダも四輪事業が振るわない」、「部品メーカーの連携を図るために は『親企業』の日産、三菱、ホンダの連携は欠かせない」、「ゴーンショックとホンダの凋落が、自動車産業の大再編を誘発 することになるかもしれない」と、井上久男・ジャーナリスト「『日産・ホンダ連合』が誕生する日」『文藝春秋』は予見し ています。

 『中央公論』は、「文系と理系がなくなる日」を特集しています。
 巻頭は、上田紀行・東京工業大学教授×新井紀子・国立情報学研究所教授「文理融合教育でAIに勝つ」です。高校でクラ スを文系・理系に分けて、片方しか勉強させないことを問題視し、大学のリベラル・アーツ教育の前段階としてのリテラシー 教育は、文理融合でなければならない、と論じています。隠岐さや香・名古屋大学大学院教授「複数の分野を見渡せる人材が 求められるようになる」は、文系・理系を数学ができるかどうかで単純に二分化していることを難じています。
 「経団連は、就職して直ぐに役立つ技術を持つ学生を求めているという印象論による批判は間違っている」と、経団連が昨 年12月に発表した「今後の採用と大学教育に関する提案」などを引用し、佐藤優・作家・元外務省主任分析官「経団連の提 言を大学は真摯に受け止めよ」は述べています。小林慶一郎・経済学者「未来が見えない『大学という病』」は、博士号取得 者の生活が安定しないことや大学の教育環境の悪化を嘆いています。

(文 中・敬称略、肩書・ 雑誌掲載時)