新元号「令和」の考案者とされている中西進・国文学者が、「令和とは『うるわしき大和』のことです」を『文藝
春
秋』に寄せています。「『令和』は、『麗しき平和をもつ日本』という意味です。麗しく品格を持ち、価値をおのず
から万国に認められる日本になってほしいという願いが込められています」と綴っています。
上野誠・奈良大学教授「『令和』の出典をめぐって」『中央公論』は、出典の漢文序文を解説しています。「初春
令月、気淑風和」の読み下しは、「初春の令月にして、気淑(よ)く風和(やはら)ぎ」で、「あえて二字を訓む
と、和すべし→和をなすのがよい令(よ)き和→すばらしき和ということになろう」とのことです。
河合雅司・作家・ジャーナリスト「超高齢化日本の『令和二十四年問題』」『文藝春秋』は、団塊世代
(1947〜49年生まれ)と団塊ジュニア世代(71〜74年生まれ)がすべて65歳以上の高齢者になる
2042年、つまり令和24年に、日本は最大のピンチを迎えると、警鐘を鳴らしています。「低年金や無年金
の老後を迎える高齢者が激増するのです。一方で、若者の数はより少なくなっており、その構造が顕在化するの
が、この二〇四二年」だからです。賑わっている街を拠点として、住民が集中的に住む「拠点型国家」作りや少
量生産で付加価値をつけるビジネスモデルへのシフトを提唱しています。また、出生数減の歯止めのため、育て
る子ども数が多い夫婦への経済的支援を厚くする「多子加算」施策を取り入れるべきと力説しています。
エマニュエル・トッド・歴史人口学者「『日本人になりたい外国人』は受け入れよ」『文藝春秋』は、「人口
減少は日本にとって最大にして唯一の課題」であり、外国人の受け入れ拡大以外「他に選択肢がない」とし、
「肝要なのは、流入を賢明に管理すること」で、「犯しがちな6つの過ち」を列挙しています。@少子化対策を
おろそかにすること、A外国人労働者はいずれ国に帰ると思い込むこと、B移民を単なる経済的現象と考えるこ
と、C多文化主義を採用すること、D非熟練労働者の移民のみを増やすこと、E移民の出身国を特定の国に集中
させてしまうこと、です。多文化主義は、「移民隔離」政策になり、受け入れ国にとって持続可能な解決策とは
ならないのです。主流の言語と文化が主流であり続ける必要があるのです。「日本なら、日本語と日本文化を主
流として、『同化主義』を採ればよいのです」となります。ただし、「移民に時間的余裕を与えるべき」だそう
です。
橘玲・作家「令和の『言ってはいけない』不都合な真実」『文藝春秋』は、「平成の三十年間をひと言でまと
めるなら、『日本がどんどん貧乏くさくなった』だ」と断じています。一人当たりGDPは世界26位で、日本
のサラリーマンの「エンゲージメント」(会社への関与の度合いや仕事との感情的なつながりを評価する基準)
は極端に低く、また労働生産性は米国の3分の2、つまり、「日本のサラリーマンは世界(主要先進国)でいち
ばん仕事が嫌いで会社を憎んでいるが、世界でいちばん長時間労働しており、それにもかかわらず世界でいちば
ん労働生産性が低い」ことになるそうです。
『中央公論』の特集は「労働開国の衝撃」です。
巻頭の佐伯啓思・京都大学名誉教授「『反』ないし『半』グローバリズムという選択肢」は、「グローバリズ
ムを推し進めていけば、徐々に欧米に近い病理が表面化してゆくでしょう」と予見し、「全面的な反グローバリ
ズムではなくても、そこから距離を置くという『半グローバリズム』にもっていってもいい。その具体策は難し
いですが、少なくとも意識の上で戦略的に『内向き』の方向にいかざるをえないかもしれません」と見立ててい
ます。
宇野重規・東京大学教授は、会田弘継・青山学院大学教授との対談(「国際社会の荒波を“包摂”の理念で迎
え入れる」)で、「日本は、海外から労働者を呼び寄せる政策に舵を切りました。しかし、今の日本は海外から
人々を受け入れる態勢が整っていないし、賃金も安く、魅力的な働き場所には映っていないでしょう。やってき
た外国人を日本社会の一員として包摂し、統合する仕組みが重要となってくると思います」と述べています。
小井土彰宏・一橋大学教授「後発的移民受け入れ国スペインに学ぶ政策革新」は、スペインの事例を紹介して
います。政策の急激かつ体系的な整備の中心となったのは、関連官僚機構・自治体の代表、移民団体の代表、
NPO、それに専門研究者を加えた「移民社会統合のための全国フォーラム」との円卓会議です。さらに「異文
化間の境界を超えていくことを促進する政策理念」たる「通文化主義」を掲げ、言語の翻訳を超え、それぞれの
文化で特定の行為や表現がいかに解釈されるかを伝えることを役割とする「通文化媒介者」の育成と制度化をし
たのです。
岡ア広樹・芝園団地自治会事務局長「芝園団地『共生』への挑戦」は、住民の半分以上が外国人(その9割以
上が中国人)の団地で、2013年に調査を開始し、その後の「開かれた自治会構想」を掲げての交流活動の体
験記です。「中国人住民が五年連続で自治会役員を担ってくれたり、ゴミ捨て場などの住環境がだいぶ改善し
た、という声を聞いたりするようになりました」そうです。
『Voice』は、「新しい国際秩序と令和の日本」を総力特集として編んでいます。
巻頭は、田中明彦・政策研究大学院大学学長「大戦後の歴史的位相と米中新冷戦」です。アメリカの対中姿勢
は強硬であり続けると、田中は見ています。「いまの中国は、アメリカにとってかつてのソ連でもあり日本でも
ある」からです。さらに、「中国が権威主義体制を強めつつ、世界最先端の産業競争力を獲得し、これを背景に
サイバー・宇宙・電磁波なども含む軍事力増強を継続するとすれば、これは日本にとっても脅威である」と展開
しています。
中西寛・京都大学教授「冷戦後の三十年とは何だったか」は、「近代日本は、明治期や昭和戦後期のように、
目標とすべきヨーロッパ文明やアメリカ文明が明確な分類と体系をもつときには、それを巧みにかつ急速に吸収
した。対して大正・昭和戦前期や平成期のように、世界全体が流動的な時代には方向感覚を喪失した。令和の時
代はこのサイクルから抜け出すことが課題となりそうである」と問題提起しています。
「(トランプ大統領は)朝鮮半島対応を最優先とはしない」と戦略変更し、米軍の戦略は対南・東シナ海、対
中国が焦点になってきていると、麻生幾・作家「トランプ×文在寅“2分間会談”の真相」『文藝春秋』は指摘
しています。
『Voice』では、「中国はアメリカに対して、ロシアとは違った方法でサイバー戦争を仕掛けています。
中国のやり方はとても凝っているので、本当に懸念すべきことです」と、ティモシー・スナイダー・歴史学者
「インターネットに必要な規制」が強調しています。
小泉進次郎・衆議院議員「いまこそ非連続の変革を」『Voice』は、「日本は分断や格差が小さく、政治
の安定性も高い。しかし、私たちに立ち止まっている暇はありません。いまこそスピードを上げて非連続の変革
を矢継ぎ早に繰り出し、世界における日本の確固たる地位を築くべきでしょう」と声高らかです。
安倍晋三・内閣総理大臣が、『中央公論』(聞き手:田原総一朗・ジャーナリスト「地方経済と格差に敏感に
対応」)で、「日本は、格差拡大による社会的な不安定からは距離を置くことができている。我々の政権におい
ても、結果として政策的なバランスが取れている」と自画自賛し、かつトランプ大統領と信頼関係を構
築していることなどを誇示しています。
「自らのルーツを初めて綴った」との惹句が付された、村上春樹「猫を棄てる―父親について語るときに僕の
語ること」『文藝春秋』は、雌猫を父と共に棄てに行った思い出で始まり、子猫が松の木から降りられなくなっ
たエピソードで終ります。90歳で2008年に亡くなった父親とは、20年以上、絶縁に近い状態だったこと
を明かし、父親の戦争体験を辿っています。「一度だけ父は僕に打ち明けるように、自分の属していた部隊が、
捕虜にした中国兵を処刑したことがあると語った」、「僕は当時まだ小学校の低学年だった。父はそのときの処
刑の様子を淡々と語った。中国兵は、自分が殺されるとわかっていても、騒ぎもせず、恐がりもせず、ただじっ
と目を閉じて静かにそこに座っていた。そして斬首された。実に見上げた態度だった、と父は言った」とありま
す。
(文
中・敬称略、肩書・ 雑誌掲載時)