(記・2019年 7月 20日)

  香港で逃亡犯条例改正をめぐって返還後最大規模のデモ(6月9日)が発生しました。「条例に真に脅えているのは 反中的な活動家よりも」親中財界人で、「中国と何らかの利害関係を有する人たちが、何かのきっかけで罪に陥れら れることが最も現実に起こりうる恐怖なのである」、「『中国への拉致を合法化する条例』という喩えは誇張ではな い」と、遊川和郎・亜細亜大学教授「香港デモが暴いた一国二制度の限界」『Voice』は断じています。

 クレムリンでの中ロ首脳会談(6月5日)で、「アメリカが中国の5G(第五世代無線通信システム)覇権を 喰い止めようとしているなか、中ロはどこ吹く風で『科学技術イノベーション年』を定め、近未来の宇宙開発ま で二人三脚で進めるとしたのだ」と、近藤大介・講談社特別編集委員「ファーウェイ叩きは成功しない」 『Voice』は分析しています。「ファーウェイなしに人類の5Gはないといっても過言ではない」、「いま やファーウェイ潰しは不可能だ。わが社が潰れるより、アメリカが諦めるほうが先だろう」とファーウェイの幹 部社員は豪語しているそうです。
 李智慧・野村総合研究所上級コンサルタント「アメリカの締め出しに対抗するファーウェイの意地」『中央公 論』の結論は、「中国は、世界の中で、他に類を見ない巨大な市場を抱えている。この優位性を背景に、中国は 米国のテクノロジーから脱却するための努力をさらに推し進めていくだろう」です。

 村田晃嗣・同志社大学教授「トランプ再選のシナリオとプロレス外交」『Voice』は、来年の米大統領選 を見据え、アメリカ外交の動向を探っています。「北朝鮮とイランに同時に『最大限の圧力』をかけ続けること は危険だし、どちらかで武力衝突に至れば、トランプ再選には大きなマイナス材料となろう。また、一方で『最 大限の圧力』が機能しなければ、他方でも信憑性を失う。北朝鮮にしてもイランにしても、共和党系の外交・安 全保障エリートたちの積年の不信感とトランプ大統領の強気のショーマンシップ、プロレス外交が融合してい る」が、村田の見立てです。
 安倍首相がテヘランに乗り込んで、アメリカとイランとの間の仲介外交を試みましたが、日本のタンカーが攻 撃されたことから、失敗だったとの声もありました。しかし、手嶋龍一・外交ジャーナリスト・作家との対談 (「イラン政府の日本語声明″が示す最高指導者らの本音」『中央公論』)で、佐藤優・元外務省主任分析 官・作家は「最高指導者ハーメネイまで引っ張り出した。それ自体が大きな成果です。日本外交にとって近年に ない“金星”」と評価しています。イラン政府のプロパガンダ媒体は、記事の日本語訳まで発信しているとし、 「驚くべし、情報大国イランの基礎体力」と付言しています。
 「(はじめてG20サミットの議長国をつとめ、データ・ガバナンスに関する国際的合意をとりつけた)日本 外交の努力を、より積極的に評価すべきではないか」とし、「トランプ大統領とも習近平主席とも、そしてEC 首脳とも信頼関係を持つ安倍首相の強みを活かした歴史的快挙というべきだ」とまで、細谷雄一・国際政治学者 「新しいルールと秩序を模索する日本外交」『中央公論』は言っています。

 参議院選挙は7月21日投開票ですが、月刊総合雑誌8月号は、7月10日に店頭に並びました。
 『中央公論』のコラム「永田町政態学」には、「大騒ぎした『衆参同日選』狂騒曲は、尻すぼみに終わっ た」、「(首相が)見送りを決断したのは、『老後に二〇〇〇万円の資金が必要』とする金融審議会の報告書が 決め手となった」とあります。
 赤坂太郎「『解散せず』安倍の決断が促す政界再編」『文藝春秋』は、「年金二〇〇〇万円問題の展開次第で は、安倍自民は参院選で思わぬ逆風にさらされるかもしれないが、仮に大敗しても、維新を政権に組み入れるこ とで当面の政局は乗り切れる。一方、二〇〇〇万円問題をかわし、事前の情勢調査どおり自民堅調の結果となれ ば、安倍四選の声も高まり、維新の政権入りは加速するだろう」と予見しています。

 『文藝春秋』の座談会「年金崩壊 すべての疑問に答える」で、諸星裕美・社会保険労務士は、「『二千万円 不足』という数字が一人歩きしました。これは、高齢の無職夫婦の場合、退職後の三十年間で、毎月約五万円の 赤字が発生することを前提に単純計算したものです」と述べています。駒村康平・慶應義塾大学教授によります と、金融庁の報告書には、「(若い世代の資産形成や高齢者の資産管理のための)仕組みを考えようというメッ セージが込められていたのです」。また、橋本岳・自民党衆議院議員は、「百年安心」は「百年後も破綻しない 制度」と説明しています。長妻昭・立憲民主党代表代行は、「(金融庁の報告書を)改めて受け取った上で、与 野党で腰をすえた議論を行い、年金制度や資産形成・管理について新たな報告書を作るしかない」と提言してい ます。
 小林慶一郎・経済学者「老後資金『二〇〇〇万円不足』から炙り出される問題」『中央公論』は、「どういう 前提のもと、どういう生活のために必要なのか、という分析の詳細な情報を最大限に有効活用することによっ て、公的年金をどう変えるのがベストか、与党はもちろん野党も含めてみんなで議論するべきだ、というのが本 当の正論だろう」と展開しています。
 河合雅司・ジャーナリスト「老後資金問題、『共助』の政策を」『Voice』によりますと、報告書は当然 のことを語っているだけで、「(平均寿命が延びているので)資産寿命を延ばす努力が必要になると訴えている のだ」ということです。資産寿命とは、「預貯金などの資産が底をつくまでの期間」です。報告書の最大の欠点 は 「公助」である年金の不足を資産運用という「自助努力」に求めたことにあると指摘し、「(政府に)高齢者同 士による助け合う仕組みをメインにした『共助』の制度化に向けた政策サポート」を求めています。低家賃の住 居に高齢者が助け合いながら集まり住むことなどを検討すべきとのことです。

 『文藝春秋』での対談「野党は『ゼニ』と『夢』を語れ」で、後藤謙次・政治ジャーナリストの「(野党に は)『夢を語れよ』と言いたい」に対し、岡田憲治・専修大学教授は、「野党は銭金の話をしろ」と力説してい ます。つまり、「将来に不安を持っている若年層や、子育てに奮闘する母親たちにもっと寄り添って、『私のこ とを言っているんだ』と感じる言葉を選択するべきです」なのです。

 川崎・登戸の殺傷事件のあと、元農水次官が子息を刺殺する事件が生じました。橋下徹・元大阪市長・元大阪 府知事「僕は元農水次官を責められない」『文藝春秋』は、「他人の命を犠牲にしないために、熊沢氏が我が息 子の殺害を選んだとすれば、僕には彼を責めることはできません。きれいごと抜きで、『他人の命』を第一に考 えた決断だと思うからです」と綴っています。

 「『ひきこもり』状態とされる人の大半は、現にひきこもっているというよりは、『家族以外に行き場所がな い』状態にあると表現した方が適切」だと、関水徹平・立正大学准教授「『ひきこもり大国』日本に必要な脱 『家族主義』」『中央公論』は説いています。「働ける人の生活保障は企業による雇用が担い、働きづらさを抱 える人たちの生活保障は家族が担う」が、「日本の家族主義の基本的な仕組み」です。「家族・会社・学校以外 の居場所、『生きていていい』と思える場所や関係性を、地域の中に、あるいはオンライン上に」を増やすこと を、行政にも求めています。
 広野真嗣・ノンフィクション作家「『就職氷河期世代』孤独と悲哀の事件簿」『文藝春秋』は、「氷河期世代 の社会参加がなければ、二〇四〇年の未来はない。『終身雇用は維持できない』と言い出した日本の組織が意欲 のない人材の退出に本気なら、代わりに、希望に飢えた中年人材を真面目に採用すればよい」と結んでいます。  
 「就職氷河期世代の子どもと、働ける高齢の親が、一緒に同じ職場で働くことを可能にする」支援を、玄田有 史・東京大学教授「親子ペア就業″でSNEPと社会をつなぐ」『中央公論』は提唱しています。SNEPと は、「他者と一切交流を持たない働き盛りの未婚無業者」のことで、「ひきこもり」問題とつながります。

 藤原正彦・作家・数学者「ヨーロッパの轍」『文藝春秋』は、移民受入れ政策に、ヨーロッパの混乱を引合い に反対し、労働力不足なら、賃金を上げ、正規雇用を増やすべきだと主張しています。

(文 中・敬称略、肩書・ 雑誌掲載時)