境家史郎・首都大学東京教授「自民党に塩を送り続ける『善戦した』野党」『中央公論』が、参院選の結果を分析しています。自民党は16年選挙とほぼ同等の成績で、かつ 「改憲容認勢力」が3分の2を超えなかったので、「あらゆる政党による非敗北宣言につながっている」とし、 ただ、自民党支持率が下がっても、無党派が増加するだけで、若年層の民主系政党支持は少なく、「政権交代が 起きる可能性は、今後さらに低下するという予測さえできるかもしれない」そうです。
　辛坊治郎・大阪綜合研究所代表「左派ポピュリズム台頭の萌芽」『Voice』は、「れいわ新選組」の政策 は 「左派ポピュリズムと軌を一にしている」、「既成政党に辟易した層を同党が取り込み、他の野党を巻き込 んで 左派ポピュリズムが結集したとき、思わぬ旋風を巻き起こすかもしれません」と見立 てています。
　細谷雄一・国際政治学者「なぜ日本ではポピュリズムが広がらないのか」『中央公論』も、日本は主要な先 進民 主主義諸国のなかでほぼ唯一、ポピュリズムの波から免れているとしながらも、「排外主義、人種主義、国家主 義、反エリート主義といったスローガンを駆使して、それを束ねる扇動的なデマゴーグが出現すれば、ポ ピュリ ズムの炎が燃え上がるかもしれない」と危惧しています。
　「参院選は投票率が低かったばかりか、政策論争がほとんど起きないままに終わってしまいました」と、三 浦瑠 璃・国際政治学者「政策論争なき参院選の教訓」『Voice』は慨嘆しています。政党支持を分けるのは依然 として憲法・安保ですが、「現実の潮流を踏まえた議論がまるで足りません」と難じています。「日米同盟 の信 頼性が揺さぶられる時代」だとし、「現状認識を与野党間で詰め、日本がどのような変化を迫られているのかを 議論すること」を、国会議員に求めています。

　三浦は、『文藝春秋』で、橋下徹・元大阪市長と対談(「トランプ『日米安保破棄』発言はチャンスだっ た」)しています。6月末、トランプ米大統領が日米安保破棄に言及したと報じられました。二人は、この 発言は、日本がただ乗りしているとの米国の民意を基盤にしていると案じ、日本の「専守防衛」の原則の見 直しを求めています。橋下は、「他国防衛の集団的自衛権の行使を完全に認めるには改憲が必要」と力説 し、さらにトランプに「（応分の負担をするから）地位協定は変えてくれ。沖縄の基地負担軽減にも協力し てくれ」、「日本の船舶は日本が守る」、「歯舞・色丹には米軍基地を作らないとロシアに確約することを 認めてくれ」などと「剛速球を打ち返せば良かった」と主張しています。

　三浦は、『中央公論』では、苅部直・東京大学教授と渡辺靖・慶應義塾大学教授との座談会(「徴兵制を議 論せずに、これからの平和は語れない」)に取り組んでいます。この座談会は、三浦の著書『21世紀の戦 争と平和―徴兵制はなぜ再び必要とされているのか』(新潮社)が軸となっています。三浦によりますと、 「国民が『血のコスト』というお金に換えられないものを共有することこそが、戦争の抑止につながるので はないか」との問題意識が底流にあるのです。

　細谷雄一・慶應義塾大学教授は、明石康・元国連事務次長との対談(「国際連合と日本国憲法」『中央公 論』)で、「集団安全保障があるべき姿で、個別的・集団的自衛権は国連を壊す」との丸山眞男の考え方を 否定し、「国連軍は現実的に実現が難しく、また国連軍が存在しない間は、各国が自助努力で平和を守らな ければならないからです」と続けています。それに、明石も賛同し、「（憲法）九条二項については私は、 基本的に維持するけれども、国連PKOに協力できるよう手を加え、自衛隊にも言及すべきではないかと考 えます」と述べています。
　「憲法論あるいは改憲論といえばイデオロギーに関するもの、神学論争だという認識が改まり、よりプラク ティカルな観点からのものに移行すること」を、曽我部真裕・京都大学教授「イデオロギー論争を乗り越え るために」『Voice』は、強く期待しています。「憲法は、その国の『国柄』、基本原則を定めるとい うイデオロギー的な側面はありつつも、政治のルールや国家と個人との関係の基本を定めるという側面がむ しろ重要であり、その意味では他のあらゆる法律と同様、プラクティカルな性格を本来もっているはずだか ら」です。

　佐藤優・元外務省主任分析官・作家は、手嶋龍一・外交ジャーナリスト・作家との対談（「ホルムズ海峡が 炙り出した日本の危機」『中央公論』）で、「有志連合に加わるのは避けるべきです。あの海域で海上警備 に加われば、アラブ諸国も刺激します」、「後方支援を含めて、ニッポンはできる貢献をします。イランの 中枢への情報伝達の役回りも引き受けますとトランプに持ちかける。要はホルムズ海峡危機の“御用聞き” に使ってください、ということですね」、「ニッポンは、慎重に決断し行動すれば、戦争の危険から世界を 救い出す十分な潜在力を持っていると自覚すべきなのです」と論じています。

　オーレル・ブラウン・トロント大学教授「プーチンの『次の大統領』を見据えよ」『Voice』は、「ロ シアには、妥協する意思はまったくありません」、「大統領は民主的サポートを得られないため、リスクを 取ることができない」とし、「北方領土問題の進展は、おそらくプーチンの次の大統領まで待たないといけ ないでしょう」と予見しています。

　韓国最高裁判所の「元徴用工訴訟」に関する判決は、「韓国の内政の結果、起きた問題」と、フランシス・ フクヤマ・スタンフォード大学シニアフェロー「半島統一を望むのは誰か」『Voice』は、断じていま す。また、「文大統領は、朝鮮半島統一を成し遂げた大統領になりたいと切望している」、「(金正恩の) 念頭にあるのは、レジーム(体制)の維持でしょう。そのため、北朝鮮が非核化することは絶対にない」と 言い切っています。日本へは、「韓国のいいなりになる必要はありませんが、理屈できちんと説明すること が重要です。感情的に反応することはやめるべきです」と助言しています。北方領土に関しては、「プーチ ンは領土を返還した大統領として歴史に残りたくないのです」と、ブラウンと同様、悲観的です。

　『文藝春秋』は「日韓炎上」を特集しています。
　黒田勝弘・産経新聞ソウル駐在客員論説委員「日韓基本条約を踏みにじる『歴史の恨』」は、「韓国人には 日本に対し根深い『歴史的ハン(恨)』がある」、「日本支配からの解放を自らの手で実現できなかったこ と」で、「その“鬱憤晴らし”(韓国語では“ハンプリ″という)が、今なお続く反日現象である」と説い ています。
　櫻井よしこ・ジャーナリスト「慰安婦『贖罪』が韓国に利用された」には、「慰安婦問題の歴史は、韓国が 何度も『ゴールポスト』をずらしてきた歴史でもあります」とあります。ただし、「日本発の情報によっ て、慰安婦問題が日本を不当に貶める材料となってしまったという現実は、日本人としてきちんと認識して おくべき」とのことです。
　牧野愛博・朝日新聞編集委員「文在寅『ひきこもり大統領』の危ない戦略」は、「国内で孤立していた文大 統領に思わぬ僥倖をもたらした。日本の強硬策に対する反発が文氏の支持層以外にも広がっているからだ」 と見ています。「日韓は防衛費の負担増を求める米国の前に、十分な情報交換や連係が取れずにいる。トラ ンプ大統領は安倍首相と文大統領を仲裁するとは言っている。ただ、それがどれだけ高くつくのかわからな い。日韓が争えば、喜ぶのは北朝鮮や中国だけではないかもしれない」と牧野は結んでいます。

　『文藝春秋』には、「第161回芥川賞発表」(受賞作・今村夏子「むらさきのスカートの女」)がありま した。

(文 中・敬称略、肩書・ 雑誌掲載時）