「輸出管理問題をめぐって日韓関係が必要以上にこじれている」と細川昌彦・中部大学特任教授「日韓輸出管理問
題、何がこじれる元凶か?」『中央公論』は説き始めています。「個別許可が求められるのは、『兵器に用いられる
恐れがある』との個別具体的な情報がある場合に限られる」ので、「懸念のない取引に対して個別許可が順調に下り
始めれば、沈静化していくはずだ」と予見しています。ただ、日本をWTO協定違反で提訴、GSOMIA破棄など
の韓国の対応は、「感情的で稚拙」ですが、「(韓国経済は)今後さらに状況の悪化が予想され、それを日本のせい
にされる恐れもあり要注意だ」と危惧しています。
「WTO紛争の行方は予断を許さない」と川瀬剛志・上智大学教授「輸出管理問題に不可欠な国益の観点」
『Voice』は警鐘を鳴らしています。安全保障のための例外が規定されているGATT21条への適合性の
立証は、「不適切事案の確実な捕捉と明確な証拠」が必要ですし、「徴用工問題とは無関係であることを、客観
的に示すこと」が求められます。
川瀬の論考は、『Voice』の「総力特集 日韓衝突の処方箋」の一環です。
巻頭は、武藤正敏・元在韓大使「『NO文在寅』を叫ぶとき」です。武藤は、文大統領を医者に例えれば、
「“ヤブ医者”レベル」、政治・外交・安全保障に至るまで、診断が間違っていると酷評し、日本製品の不買運
動は「戦略的無視」をし、その一方で、「民間交流は絶対に閉ざしてはならない」、「彼ら(韓国人)の背中を
押す意味で『NO文在寅』を叫ぶときなのです」と説いています。
篠田英朗・東京外国語大学教授「国際法の日本vs歴史認識の韓国」は、日韓の対立の構図は、まさしくタイ
トル通りだとし、日本は韓国大法院判決を国際法違反だとするが、韓国内・国際世論への踏み込んだ説明やア
ピールをすべきであり、国家責任法に基づいた損害賠償請求や国際司法裁判所への提訴をすべきとし、「戦前の
日韓の歴史について、事実を記述する研究を推奨し、歴史を語る機会を増やすべきだ」、「守りの意識の程度
で、淡々と、英語で、歴史を語っていく機会を増やしたい」と展開しています。
文大統領が信じている三つの「主義(原則や思想)」を、呉善花・拓殖大学教授「『南北統一』という空論」は
挙げ、論難しています。それらは、「法よりも道徳を上位に置く道徳至上主義」、「『反日無罪・反日正義』が
結果する非民主主義」、「現実を疎かにする強固な理念主義」です。「南北経済協力で平和経済が実現すれば、
われわれは一気に日本の優位に追い付くことができる」との文大統領の表明を「まさしく絵に描いた餅、願望を
そのまま綴った夢物語」と断じています。結びには、「天皇に謝罪させたくて仕方がない。それなのに日本は、
そうしようとはせず、国家の道徳責任を回避し続けている……というのが、道徳至上主義の国韓国の言いたいこ
となのである」とあります。
牧野愛博・朝日新聞編集委員「対立を招いたのは『外交の没落』だ」は、「日韓関係が燃え上がっている」が、
「責任は日韓双方の政治指導者にある。理念や理想を忘れ、世論に迎合し、政治家としていちばんやってはいけ
ない、エスカレーションの道を選んだ罪は重い」と指弾しています。牧野の提言は、「日韓関係を改善できるの
は外交官ではなく、世論を背負った政治家だけだ。とくに、関係が悪化した以上、安倍晋三首相と文在寅大統領
は自らの責務を一日も早く自覚すべきだろう」です。
『文藝春秋』は、「日韓断絶」を総力特集として編んでいます。
巻頭の藤原正彦・作家・数学者「日本と韓国『国家の品格』」は、韓国人に根強い「華夷秩序」が「中国に対
する『卑屈』と日本に対する『軽蔑』」という感情につながっていると指摘しています。ただし、「韓国人は
『惻隠の情』を持っている。そこにこそ希望があります。新渡戸稲造は著書『武士道』において、『惻隠の情』
を『武士道精神』の中核と位置づけています。韓国人がこの心を持っている限り、日本と韓国には分かりあえる
可能性が残されているのです」と見ています。
佐藤優・作家・元外務省主任分析官「『軍事協定破棄』文政権は外交戦に敗れた」の見立ては、米国が望まな
い協定の破棄を韓国から言わせれば責任は百パーセント韓国側にあることになるので、「まさにこうしたシナリ
オ通りに事態が動いたわけです。その意味で、短期的に言えば、日本外交の“大勝利”」です。なお、「当面
は、(日韓で)武力衝突だけは起きないようにする。万一起きても拡大は阻止し、現場レベルで問題を封じ込め
る、という細心の注意が必要となってきます」と警告しています。
「『正義は我にあり』『日本は心地よい消費先』と見る傾向のため、『政治的立場を問わず、多くの日本人が韓
国に失望し、心が離れている』ということが、頭に入らないのだ」などと、道上尚史・前釜山総領事「韓国を覆
う危険な『楽観論』の正体」は、韓国人の認識を難じています。今後、日本側は、しっかりとした自ら立場の発
信・説明、「国際スタンダードに即し、客観性のある姿勢」の維持を心得るべきとのことです。
小谷哲男・明海大学准教授「ホルムズ海峡『有志連合』に日本はいかに関与すべきか」『中央公論』には、「安
倍首相はトランプ大統領との親密な関係を維持しながらも、イランの最高指導者ハメネイ師にも会える世界でも
数少ない指導者である。有志連合に積極的に参加すれば、この外交上の強みを失うかもしれず、さらに日本関係
船舶が攻撃の対象となる可能性を高めることになるかもしれない」とあります。ただし、万が一を想定し、「商
船の護衛のために必要な法整備と対処方針を検討しておく必要はある」と力説しています。
常井健一・ノンフィクションライター「れいわ新選組・山本太郎の研究」『文藝春秋』が「結党以来の約四ヵ月
間で四億円超」を集め、「参院選の比例区で(個人最多の)九十九万票を獲得」し、「重度障碍者二人を国会に
押し上げた」「四十四歳の山本」を分析しています。彼は、若き日の細川護熙に擬せられることが多いのです
が、常井によりますと、むしろ「カンパとボランティア」で議席を得、総理にまで昇りつめた菅直人を彷彿させ
るそうです。『文藝春秋』には「山本太郎独白『安倍さんの選挙区でも私は闘う』」もあり、山本は、「野党が
固まって闘えるのなら、安倍総理の選挙区でも菅官房長官の選挙区でも、私の力が一番発揮できるようなところ
に行きますよ」と意気軒昂です。
細谷雄一・国際政治学者「終わりつつある『上級国民デモクラシー』」『中央公論』は、橘玲の『上級国民/下
級国民』(小学館新書)を紹介し、「社会の主流層が『上級』と『下級』に分断される」ようになり、「われわ
れは恐ろしい時代に入ってきた。『下級国民』による逆襲である。これまで当然視してきた『上級国民』による
デモクラシーが、終わりつつあるのだ」と結んでいます。
同じ『中央公論』で、吉川徹・大阪大学教授「『上級国民』と『アンダークラス』の分断が始まった」が、「サ
イレント・マジョリティとして潜在する非大学卒層を政治に動員することができれば、今まで『上級国民』の独
壇場であった政治アリーナの状況は変わりうる」、「分断社会日本の新しい状況を反映した「上級国民」と「ア
ンダークラス」。令和日本の上層と下層へのまなざしの行方が注目される」と述べています。
現世代のみならず将来世代にまで影響を及ぼす環境問題や財政赤字などは、現今の「民主制」や「市場」では解
決し難いとの問題意識のもと、「将来世代を取り組む仕組みのデザインとその実践を目指して誕生した」
「フューチャー・デザイン」を、西條辰義・高知工科大学教授「フューチャー・デザインとは何か?」『中央公
論』が、詳述しています。松本市の市庁舎建て替えに、「自己を将来世代におき、そこから意思決定をする」
「仮想将来人」に検討してもらうなどの実践例があります。
もっとも早く取り入れた自治体は岩手県矢巾町で、吉岡律司・矢巾町企画財政課長・未来戦略室長が、原圭史
郎・大阪大学大学院准教授と対談(「40年後の住民と作る岩手県矢巾町の創生戦略」)し、2060年の町の
目標作りの実例・経緯などを説明しています。
(文
中・敬称略、肩書・ 雑誌掲載時)