(記・2019年 10月 20日)

  9月の内閣改造・自民党役員人事をふまえ、「永田町政態学」『中央公論』には、「ポスト安倍レースの基本的な構 図が見えてきた。麻生氏が後押しする岸田氏に対し、二階氏と菅氏が連携して対抗する、という形だ」とあります。
 『文藝春秋』には、自民党の実力者六人を相手にした「連続インタビュー『ポスト安倍』に問う」(聞き手=田ア 史郎・政治ジャーナリスト)があります。河野太郎・防衛相は、康京和(韓国)外相とは「意気投合した」が、「青 瓦台の認識は違っていた」と明かし、茂木敏充・外相の「(日露領土交渉が解決に向かうなど)政治状況によって、 二一年までの(安倍の)総裁任期を一年、二年延長することは十分に考え得る」、岸田文雄・自民党政調会長の 「(禅譲は)制度としてありえません。総裁を目指すなら、総裁選を乗り越えなければならない」、加藤勝信・厚労 相の「総理が四選を頭に置きながら政治スケジュールを組んでおられるかというと、そうではないんじゃないか」な どの発言が続きます。野田聖子・元総務相によりますと「アベノミクスも立ち往生しているし、この政権が終わった 時、大きな反動が出てくる」そうです。石破茂・元自民党幹事長は「自衛隊は最高、最強の実力集団です。だからこ そ司法、行政、立法の三権が厳しくコントロールする仕組みを憲法に書き込まないといけない」と明快です。
 田アは、「『ポスト安倍』を展望すると、この六人以外に菅義偉官房長官、小泉進次郎環境相がいる。(中略)彼 らが名乗りを上げたなら、総裁選の様相は一変するだろう。以上の八人のうち誰かが、向こう二年以内に総理総裁の 座に就いているに違いない」と見ています。

 フィリップ・リプシー・トロント大学准教授・同大日本研究センター所長「安倍政権に残された課題」 『Voice』は、「日韓関係が悪化するのは、北朝鮮や中国に漁夫の利を与える」、「憲法改正には、『われ われは自分たちの手で憲法を改正することができる』という象徴的な面があります」が、「政策上の問題を解決 したり、国民の生活に直接影響するようなものではないので、このことが改正に対する支持を弱めると思いま す」と述べ、「日本が前進する明確な道は、再生可能エネルギーに重点を置くことです」と展開しています。

 小林哲郎・香港城市大学准教授「『抗議の街』香港から―ストリートとサイバー空間での攻防」『中央公論』 は、スマホでの撮影動画がシェアされるなど、香港市民が抗議行動にソーシャルメディアを駆使していること や、「前線で警察と衝突する『勇武派』」と「警察との対決までは行わない『和理非派』」との協力の様相を紹 介しています。「『香港に再び栄光あれ』という歌や様々なフラッシュモブ的なイベント」が「つなぎとめる役 割を果たしている」ようです。
 問題の改正逃亡犯条例の撤回が表明されましたが、抗議活動は終息しませんでした。「(背景には)香港の自 治を守り、中国の支配を極端に恐怖する香港市民の心理と、いま一つは、若者たちが従来の『反共』という政治 信念に基づく全体主義打倒ではなく、国家の介入をなくし、自由を最大限に享受しようとするリバタリアンに共 鳴している現実、思想の変化がある」と、宮崎正弘・評論家「指導者なき香港市民の暴発」『Voice』は指 摘しています。
 安田峰俊・ルポライター「香港デモ『あさま山荘化』する若者たち」『文藝春秋』は、「習近平としては、抗 議運動が先鋭化した末に香港版の『あさま山荘』のような事態が発生し、運動から市民の支持が失われる展開を 静かに待っているのかもしれない。催涙弾と火炎瓶が飛び交うなかで、十代の少年少女が街を破壊しながら戦う 光景はあまりに危うい。空前の規模で展開した香港の抗議運動は、大きな山場を迎えつつある」と結んでいま す。

 『文藝春秋』での中澤克二・日本経済新聞編集委員、阿古智子・東京大学大学院准教授との座談会「習近平が 毛沢東になる日」で、宮本雄二・元中国大使は、 「習近平にかなりの権力が集中した形の『新たな集団指導体制』ができつつある」が、「決して一枚岩ではな い」、「『コップの中の嵐(権力闘争)』は常に吹き続けているから」との見方を披瀝しています。中澤は、 「(アメリカが求めた)中国市場の構造改革」を、中国が受け入れなかったのは、「中国共産党が仕切る経済体 制が崩れる可能性がある」と恐れたからだと論じています。阿古は、「共産党は『法の支配』を行う気は全くあ りません。『法』より『党紀』をタテに自分たちに都合の悪い存在に次々圧力を加えている。そんなやり方で香 港を統治されていいのかという危機感は、富裕層から低所得層まで共有されています。デモがこれだけ長期化し ているのは、階層を超えて協力する基盤があるからです」と断じています。

 文正仁・韓国大統領府統一外交安保特別補佐官「安倍首相よ、なぜ韓国が敵対国なのか」『文藝春秋』は、日 韓請求権協定は合法的なものに対する「補償」に関してであり、不法なものに対する「賠償」は残っていると し、「各個人の請求権は生きている」と主張しています。また、日本は無償・有償・商業借款、計8億ドルの支 援をしましたが、それ以降、日本が韓国から稼いだ貿易黒字は6800億ドル、供与した金額の850倍も儲け た、と言っています。金正恩・朝鮮労働党委員長については、「決断力があって、世界情勢に明るい、カリスマ 性のある若い指導者という印象を受けました」とのことです。
 佐々江賢一郎・日本国際問題研究所理事長(聞き手=田原総一朗・ジャーナリスト)「日韓は一九六五年、九 八年の取り決めに立ち返れ」『中央公論』は、日韓関係を良好するには、日韓請求権協定(六五年)、(小渕恵 三首相と金大中大統領による九八年の)日韓共同宣言の原点に立ち返るべきだとの提言です。「(協定で)法的 な世界では決着はついた」のであり、「徴用工問題は韓国側で処理する問題」ですし、九八年には「もう謝る必 要はないという意見が多かったけれど、日本はもう一度謝罪したわけです。韓国は日本側の原則的な立場を確認 し、これをよしとして、和解して前に進むことが時代の要請だと言った。だから今回は、韓国が原則の確認で英 断を示す番だ」と説いています。

 日韓の対立が深刻化する一方で、韓国で、日本を「悪」とする通説を覆す『反日種族主義』が七月初めに出版 され、10万部を超えるベストセラーになっていて、その共著者6名のうち代表的な筆者である李栄薫・元ソウ ル大学教授が『中央公論』でインタビューに応じています(聞き手・構成=豊浦潤一・読売新聞ソウル支局長 「私が『反日種族主義』を書いた理由」)。「(日本の統治時代は)韓国の歴史教科書に書かれているような朝 鮮総督府による土地、食糧の収奪はなく、むしろ近代の制度が移植された時代だった」と述べています。「韓国 が露骨な反日政策をとるのを見て、種族(部族)主義的な特質を発見することになった」のだそうです。日本に は、「(慰安婦は)公娼制度の一環だった」のに、「日本は正確な歴史認識がないまま謝罪してしまい、その後 三〇年近くたっても解決していません」と、「謝罪よりも歴史を客観的、正確に見直すこと」を求めています。 李は、『文藝春秋』にも登場しています(聞き手=黒田勝弘・産経新聞ソウル駐在客員論説委員「『反日種族主 義』と私は闘う」)。

 高安雄一・大東文化大学教授「誤解だらけの韓国経済論」『中央公論』の見立ては、「(日本の)輸出管理適 正化措置によって韓国経済の足が引っ張られることはない」し、「(韓国の対日政策は)日本の経済的な影響力 とは関係がなく」、「(短期で)韓国が日本の素材・部品を代替することは不可能」で、「(不買運動は)相手 国のマクロ経済に影響を与えることは難しく、基本的には国民の自己満足で終わる」、「(日韓経済のつながり は)短期的には大きな変化はなさそう」です。

 中西輝政・京都大学名誉教授「韓国を『敵陣営』に回してよいのか」『Voice』は、「東アジアが真に危 機的状況」にあり、「日韓、さらには日米韓で足並みを乱している余裕など、さらさらありません」ので、「目 先の利害や感情に支配されず、慎重の上にも慎重に考え、いまや大きく出遅れてしまっている『日本外交の再 起』を図るべきときなのです」と提唱しています。

 『文藝春秋』は「新天皇・雅子皇后『65人の証言』」を編んでいます。
 『中央公論』には「令和元年 谷崎潤一郎賞発表」(受賞作・村田喜代子『飛族』)がありました。

(文 中・敬称略、肩書・ 雑誌掲載時)