(記・2020年 1月 20日)

  大学入学共通テストが来年1月から実施されることになっていますが、予定されていた英語民間試験の活用と国語・ 数学の記述式問題の導入が見送られるなど、大混乱をきたしています。
 それらをふまえ、『中央公論』の特集は、まさしく「入試大混乱」です。
 巻頭の佐藤郁哉・同志社大学教授との対談(「迷走する大学改革 今必要なのは、撤退と決算だ」)で、竹内洋・ 関 西大学東京センター長は「撤退する勇気も必要です。まずは今進めている大学改革・入試改革を二、三年止めて、検 証することが必要だ」と力説しています。
 苅谷剛彦・オックスフォード大学教授「教育改革神話を解体する」は、「入試を変えれば授業が変わる→授業が変 わ れば『発展的に自分の考えを形成する』力が育つはずだというエセ演繹型のこうした危うい推論が、改革の屋台骨を 支えている」と難じています。
 今井むつみ・慶應義塾大学教授は、鈴木寛・東京大学大学院教授・慶應義塾大学教授(「それでも入試改革が必要 な 理由」)及び南風原朝和・東京大学名誉教授(「現場を惑わす曖昧な改変は止めよ」)との二つの対談をこなし、 「対談を終えて」で、「二次試験で論述を課すことこそを文部科学省は『指導』するべきなのではないか」、「すべ ての大学で記述試験が実施できるような支援こそを文科省はするべきだはないか」と提起しています。
 野党や政権党内の批判勢力に対し、砂原庸介・政治学者「入試改革、何を見直すか?」は、「将来において政権を 担 う意思があるのであれば、入試改革という現政権が設定した枠組みを超える構想を用意しておいた方がよいのではな いだろうか」と注文をつけています。

 日本人の十五歳の「読解力」がOECDの調査で世界十五位に転落しました。「(日本全体の)読書離れと教養 の低下」の結果だと、藤原正彦・お茶の水女子大学名誉教授「読解力急落、ただ一つの理由」『Voice』は 断じ、小・中学生のスマホ保有の制限、「(初等教育での)国語の圧倒的重要性の確認」を求めています。

 中曽根康弘・元総理大臣が昨年11月29日に百一歳で亡くなりました。
 渡邉恒雄・読売新聞グループ本社代表取締役主筆が、ヒラ記者の時代からの交友と元総理の人柄・事績につい て、『中央公論』に「私心なき勉強家 盟友との六十余年」を、『文藝春秋』には「わが友、中曽根康弘との六 十年」を寄せています。毎週三時間の読書会が付き合いの始まりで、「政治家は小さな家に住まなくてはいけな い」が元総理の信念だったとのことです。
 元総理の事績は、服部龍二・中央大学教授「生涯現役を自任し、最期まで悩みぬいた憂国の保守政治家」『中 央 公論』も綴っています。「国鉄、電電公社、専売公社の民営化は、中曽根政治の筆頭にくる業績」とし、外交面 では日米欧にとどまらず日中、日韓とも良好な関係を実現し、官邸主導の政治スタイルのルーツを築き、派閥対 立の時代から総主流派への転換をもたらした、と評価しています。

 『Voice』は「大国間競争の帰結」を総力特集として編んでいます。
 「内政と外交は表裏の関係にある。もし弾劾劇場で追い込まれた場合、トランプ氏は外交に活路を求める可能 性がある。一つは米中貿易戦争の激化、もう一つは日米貿易協議への波及だ」と、吉野直也・日本経済新聞政治 部副部長「トランプに迫る『予測可能』リスク」は予見し、「トランプ氏が車への追加関税など無理難題を吹っ かけてきた場合、即座に反応する必要はない。利害が相反する問題を灰色にしたまま時間を稼ぐというのも外交 だ」、「日米の問題はつねに米国の外交・内政の問題のなかで相対化される。無理難題は二者択一ではなく、そ のどちらでもない灰色を維持する―。日本にはこれまで以上に高度な外交が求められる」と展開しています。
 飯田将史・防衛研究所主任研究官「米中の偶発的軍事衝突に備えよ」は、「習近平の下での党内の団結を強化 す ることを狙って、中国が対米強硬政策に打って出る局面も想定されよう」、「中国軍による挑発的な行為が繰り 返されれば、意図しない衝突や事故が発生するリスクは高まらざるをえない」と危惧しています。
 「中東の不安定化が進むなか、日本が状況改善のためにできることは少ない」と、菅原出・国際政治アナリス ト 「『戦略なきイラン攻撃』の危機」は見ています。日本は、「有事の際に邦人を救出し自国の権益を守ることに 集中すべきであろう。自国の限界を知り、状況をしっかり認識するところから始めるべきである」と結んでいま す。
 畔蒜泰助・笹川平和財団シニア・リサーチ・フェロー「新段階へと突入する露中関係」は、「露中は『戦略的 パートナー』以上『軍事同盟』未満の『同盟的な関係』の様相をますます強めていく」と予想し、「日本とのあ いだにはまだ(領土問題の解決を伴う平和条約を締結しうる)十分な信頼関係がない」とのプーチン大統領の発 言の根底には、「米国に対する不信」と「日本の主権国家としての独立性に対する疑念」があると分析していま す。そのうえで、日本の「自由で開かれたインド太平洋構想」とロシアの「拡大ユーラシア構想」との「両方に 深く利害関係をもつインドを加えた日印露の枠組みでの戦略対話を試してみる価値はあるだろう」と提言してい ます。

 『文藝春秋』の巻頭は、山本太郎・れいわ新選組代表「『消費税ゼロ』で日本は甦る」です。「子どもの七人に 一人、高齢者の五人に一人、一人暮らしの女性の三人に一人が貧困状態」、「毎年二万人以上が自殺し、五十万 人以上が自殺未遂をしている。そんな地獄のような世の中はもう終わりにしたい」と熱く説いています。大企業 への優遇税制廃止、法人税への累進税率導入、所得税の最高税率と累進性復活・分離課税廃止、新規国債発行、 消費税廃止と最低賃金千五百円、奨学金チャラ等を提げています。政権奪還のため、「現実的なラインとし て」、野党が「五%への消費減税」を旗印に結集するようにと呼びかけています。

 『文藝春秋』の総力特集は、「2020年の『羅針盤』」です。 ジャレド・ダイアモンド・UCLA教授「人口減少社会を恐れるな」は、「人口が減少すれば、それだけ必要と する資源が減るのです。これは日本にとって悪いことではない」とし、高齢者や移民、女性を労働市場に迎え入 れれば「日本の経済力が大きく低下することはない」と見立てています。そのうえで、「中国と韓国が日本を信 用し、怖がらないように、絶えず話し合うこと」を勧めています。感情抜きの「台本のある謝罪」では、相手が 納得しないとも助言しています。また、「中国が民主主義を取り入れない限り、二十一世紀が中国の世紀になる ことはないでしょう」と予測しています。
 北京在住の王力雄・作家が「共産党独裁崩壊で中国は分裂する」を語っています。「遅かれ早かれ経済危機が 到 来し、経済成長によって隠されてきた社会的危機と政治的危機も露わになるでしょう」、「独裁体制によって抑 え込まれていた『民族対立』が激化」し、「ハイテク独裁は社会の隅々まで支配しますが、いつ破滅してもおか しくない危険性も孕んでいる」、「あと二〇年ほど長生きして、目の黒いうちに独裁体制の終焉を見届けたいも のです」とまで言い切っています。
 消費増税はすべきではなかったとし、またポイント還元制度も不可解とし、安倍総理の政策には一貫性がない と、ポール・クルーグマン・ノーベル賞経済学者「トランプ再選が世界経済のリスク」は論難しています。「彼 (トランプ)が再選されれば、世界経済はさらに混迷を深める」、「さらなる保護貿易主義に舵を切れば、世界 中で本格的な貿易戦争の時代に突入します」と心配しています。いまは「座して行方を見守るべし」だそうで す。
 佐々木毅・元東京大学総長「民主政は永遠ではない」によりますと、ポピュリズムの本質は、「反エリート主 義」と「選挙絶対主義」です。人々の生活が苦しくなり、移民・難民が増え既存の社会・文化が脅かされると、 エリートがその役割を果たしていないとみなされます。安倍政権は、選挙のための施策に傾斜し、保守でありな がら全世代型社会保障制度、教育の無償化、働き方改革など、左派のポピュリズムを取り込んでいるかのようだ とし、「『内なる』ポピュリズムには要警戒です」と警鐘を鳴らしています。

(文 中・敬称略、肩書・ 雑誌掲載時)