「安倍総理が『桜を見る会』の人数が増えたことなどの不適切と思われる点について、率直に丁寧に謝られれば、こ
こまで批判は拡大しなかったのではないか」と、石破茂・自民党元幹事長「安倍総理よ、このままでは日本が滅ぶ」
『文藝春秋』は難じ、かつて自民党を離党したのは、「当時の河野洋平総裁が憲法改正に後ろ向きだったから」であ
り、「(安倍総理が憲法九条の)三項に自衛隊の存在を明記するだけ」との考えなら異議がある、と述べています。
同じ『文藝春秋』の「森喜朗『五輪と政局』に吠える」は、「(次の自民党総裁は)安倍さんに続けてもらうこと
が、最も国益に適う」と断じています。石破には「情がない」、岸田には「育ててあげたいという気持ちがある」と
し、小泉進次郎に関しては、「まぁ“へそ下”については、DNAに関係しているのかな」と評し、「オリンピック
という国家的行事を終えたタイミングで、思い切って」解散をし、「安倍さんが本当にやりたい人事をやればいい。
五輪を花道に、なんてあり得ませんよ」と力説しています。
「トランプ劇場 2020 次はメキシコの壁だ」『文藝春秋』は、11月の大統領選に向けてのアメリカの
政治動向についての座談会です。宮家邦彦・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹は、トランプにとっては株
価維持が重要で、「(そのため彼は)中国とケンカしていると見せつつ、交渉が上手くいっているとアピールす
る」と見ています。峯村健司・朝日新聞記者は、トランプの四割前後の支持率の原動力は、「掲げた公約をほと
んど実行」していることと指摘しています。「前回選挙の目玉公約」たる「メキシコ国境の壁建設」も、横江公
美・東洋大学教授によりますと、「難航しながらも、国防予算で」進められています。また、トランプが再選さ
れますと、「やりたい政策を押し付けてくる」ので、「想像できないほど手強い交渉相手になる」と横江は危惧
しています。
「アメリカ経済を盛り上げているトランプ大統領が再選される見通しが強くなっている」と、日高義樹・ハド
ソン研究所首席研究員「大楽観時代の2020年」『Voice』は断言しています。「Bull
Runという言葉がある。西部劇でよく見られる、牛の大群による大暴走である」、「トランプ大統領の『強いアメリカ』はこれから、アメリカ中を巻き込んだ大暴走(Bull
Run)となって、世界の体制を変えようとしている」とまで、言い切っています。
アメリカで選挙戦が本格化するなか、「社会主義」という言葉を聞く機会が増えたと、渡邊裕子・ビジネス・
コンサルタント「米ミレニアル世代が社会主義に見出す『希望』」『Voice』は解説しています。「ミレニ
アル世代(一九八一〜九六年生まれ)の過半数が資本主義より社会主義を好む」などとメディアで報じられてい
るそうです。民主党候補のサンダースは「民主社会主義者」で、ウォーレンも「富の再分配を政策の中心に据え
る候補者」です。「社会主義」は、「資本主義が生み出す不平等を修正する手段と広く解釈されるようになって
きている」のです。「誰が民主党からの大統領候補になるにせよ、サンダースやウォーレンの支持層を取り込み
たければ、彼らの政策案をある程度盛り込まなくてはならないだろう」と渡邊は見立てています。
片山杜秀・思想史研究者「『日本沈没』を座して待つのか」『Voice』は、「アメリカはいまや、中東か
らの石油なしでも生きていける」、「その現実一つとっても、私たちはまったく新しい時代に突入したことを認
識すべきです」、「『日米の絆』は共産主義のソ連など共通の敵がいた時代には有効だった幻」、「日米同盟の
賞味期限切れが少しずつであるが迫っている」と熱く説き、「中露と並ぶ大陸の大国、インド」を「次のパート
ナー」として挙げています。
杉田弘樹・共同通信特別編集委員「米・イランは再び衝突する」『Voice』の提言は、「選挙戦の行方次
第でトランプ氏が再び(イラン革命防衛隊コッズ部隊の)ソレイマニ司令官殺害のときのような『最も極端な』
軍事行動をとり、世界を『仰天させる』懸念はある」、「自衛隊を中東に派遣した日本も、きな臭さがつねに漂
うペルシャ情勢を心しておくべきだろう」です。
上の殺害はドローンを用いてのことでしたが、「現代は戦場と戦場以外が区別されない。それは戦争行為と治
安
維持が区別されず、政治と社会問題が区別されないということでもある。米国は今回、あたかも麻薬の売人や性
犯罪者を取り締まるように、仮想敵国の要人を『排除』した。ソレイマニ殺害には、そのような統治権力の変化
がはっきり刻まれている」と、東浩紀・批評家・作家「ソレイマニ殺害事件が突きつける現代の『戦争』問題」
『中央公論』は分析しています。
自衛隊の艦艇の中東派遣に孕む危険を、田中浩一郎・慶應義塾大学教授「正面衝突は回避されるも火種は燻り
続ける米・イランの対立構造」『中央公論』は詳述しています。「中東の近海で有志連合国の軍艦と合同訓練を
することになれば、日本政府の説明は破綻」し、「アメリカとイランが交戦状態に陥るような事態になった時
に、どう対応するのかも課題」です。「(中東が不安定になれば)最も困るのは日本だ。日本は、原油の八〇%
以上をペルシャ湾沿岸から輸入し、サウジアラビアとUAEだけで三分の二に及ぶ」、「日米同盟が大事だとし
ても、ペルシャ湾地域の安全保障に関して日本とアメリカの利害関係は一致しているとはいえない」とも心配し
ています。
エマニュエル・トッド・歴史人口学者「イランの『核保有』は日本と同じく問題ない」『文藝春秋』は、識字
率・出生率などから、「(イランは)『近代化』のプロセスを着実に歩み、結果として、政治的には、アラブ圏
より三〇年も先に行っています」と説き、「サウジの国家崩壊のプロセスは、すでに始まっています」、「地政
学的に見れば、『サウジの国家崩壊』は、今よりひどい無秩序状態をもたらすことは確実」と予見し、「イラン
の核保有は、日本のそれと同じように何ら問題ではなく、むしろ地域の安定につながります」と明言していま
す。
カルロス・ゴーンが国外逃亡しました。「逃亡劇が、『人質司法』として批判される日本の刑事司法の問題点
を国際的な文脈の中で焦点化する」と、砂原庸介・政治学者「身体拘束の政治学」『中央公論』は問題視してい
ます。
佐藤優・作家・元外務省主任分析官は、『中央公論』での手嶋龍一・外交ジャーナリスト・作家との対談
(「ゴーン逃亡の真相が迷宮入りする本当の理由」)で
「日本政府は、これを外交問題にはしたくないのだと思います」、「レバノンが関わっていてもらっては、困る
のです」、「レバノン政府が加担していたということになると、北朝鮮の拉致と同じ性格を帯びてきます」と
し、「『人質司法』がクローズアップ」されたと憂えています。手嶋の「(日本には)アジアの野蛮国のイメー
ジがすっかり刷り込まれている」との問題提起には、「どれだけ日本の国益を損なっているか、もっと真剣に考
えるべきでしょう」と佐藤は応じています。
久保田るり子・産経新聞編集委員「文在寅が脅える韓国『自由右派』」『文藝春秋』は、韓国の保守派の多く
は依然として反日感情を持っているのですが、「(韓国政府の主張が)いかに虚偽であるかを実証的に提示し
た」「反日種族主義」の出版の衝撃により、「(従来の反日から脱し)『保守』という言葉は捨てて、自由主義
右派という言葉を使うようになった」動きを紹介しています。
野嶋剛・ジャーナリスト「リベラルこそ台湾・香港を守れ」『Voice』は、日本のリベラル勢力の「(対
中国の)定見が伝わってこない」と批判しています。
同じ『Voice』で、市原麻衣子・一橋大学准教授「シャープパワーの拡大と香港民主主義の危機」は、
「香港のデモで特徴的な点は、中国政府が、情報・印象操作によって対象の政策変更を促すシャープパワーを用
いて民主派を中傷し、社会を混乱させ、民主主義の価値に疑いをもたせようとしてきたことである」と中国政府
を非難し、「市民社会の一人ひとりが香港民主派への支持を表明し、民主主義規範の維持に努めることが望まし
い」、「日本政府は、国内からのこうした声を日本政府への突き上げ圧力として『利用』し、民主主義規範に
則った行動を一貫してとるべきだ」と提唱しています。
『文藝春秋』に第162回芥川賞の発表(受賞作・古川真人「背高泡立草」)があり、『中央公論』では
「2020新書大賞」の発表(大賞・大木毅『独ソ戦』)がありました。
(文
中・敬称略、肩書・ 雑誌掲載時)