(記・2020年 3月 20日)

  「あの船(ダイヤモンド・プリンセス号)でやっていたのは『隔離』ではなく『待機』」と言う乗客や、「英国人乗 客が『浮かぶ監獄』と嘆いた船内隔離の実態」を取材し、「日本の検疫体制の脆弱さを浮き彫りにした」とし、「感 染拡大と不安の増幅という悪循環を許した」と、広野真嗣・ノンフィクション作家「豪華客船『船内隔離』14日間 の真実」『文藝春秋』は、政府の対応を難じています。
 同じ『文藝春秋』で、麻生幾・作家「最前線の医師が見た『失敗の本質』」は 横浜に寄港したクルーズ船に、防護服などの十分な装備なしに、マスクやガウンだけで、しかも感染医療ではなく、 災害医療の専門家たちが投入された、と指摘しています。厚生労働省に、感染症対策で大きな権限がなく、医師や病 床の直轄運用ができないからだとのことです。超大型客船の構造に精通している海上保安庁にも、なんらアドバイス が求められなかったとのことです。

 赤阪清隆・フォーリン・プレスセンター理事長「なぜ中国寄り? WHOの正体」『中央公論』は、 WHO(世界保健機関)は「中国を敵に回すことはできません」、「分担金は世界第二位、感染症に対する自発 的な拠出金も中国から多額を受け取っています」と明言し、テドロスWHO事務局長の記者会見(1月30日) 時の発言は「『中国はうまくやっている。感染は封じ込められるだろう』という間違った印象を与え、世論をミ スリードしてしまった」、「信頼を損ねてしまった」と非難しています。 
 村中璃子・医師・ジャーナリスト「新型コロナ蔓延、WHOの無策」『Voice』によりますと、WHOの 対応には三つの理由があります。「(大騒ぎして)オオカミ少年呼ばわりされることを恐れた」、「WHOの本 部のあるジュネーブが、中国とは地理的にも歴史的にも遠く、武漢からの直行便の少ないヨーロッパにあるこ と」、「中国の『国威』への気遣い」です。
 『Voice』には、安田峰俊・ルポライター「WHO事務局長『忖度』の背景」もあります。テドロス事務 局長はエチオピアの保健相、外相の経歴を有していますが、「中国が彼(テドロス)らの階層全体の利益に大き く関係していることは想像に難くない」、「テドロスのWHO事務局長への就任を強く後押ししたAU(アフリ カ連合)も、中国の強い影響力下にある」とまで言い切っています。

 城山英巳・ジャーナリスト「習近平『恐怖支配』が招いた感染爆発」『文藝春秋』は、武漢市の眼科医が感染 の事実を発信し、衛生当局に自己批判を迫られ、院内感染で亡くなってしまった経緯とその実相に迫ろうとして います。「なぜ、武漢市から習近平に『正確な情報』が届かなかったのか。その背景には、習自らが敷く『恐怖 独裁政治』がある」、「ネガティブな情報を中央に上げれば、自分が失脚ばかりか逮捕されかねないという恐怖 感が蔓延している」、「さらに恐ろしいのは、習の『鶴の一声』を過剰に『忖度』して拡大解釈する役人が多い ことだ」と分析しています。

 山本太郎・長崎大学教授「感染症と文明社会」『中央公論』は、黒死病、スペイン風邪などの歴史を踏まえ、 「流行した感染症は、時に社会変革の先駆けとなる。そうした意味で、感染症のパンデミックはきわめて社会的 な現象であり、その時代、時代を反映したものとなる」と断じています。
 山内昌之・東京大学名誉教授は、『中央公論』での座談会(「疫病という『世界史の逆襲』」)で、「習近平 体制の下で盤石の長期政権が築かれたかに見えていた『帝国』が、突如発生した現象によって、その権力構造を 突き崩されかねない事態に見舞われています」と説いています。中国での強権的規制を取り上げ、「自由主義陣 営では限界のあるそうした行動により『見えざる脅威』を封じ込めることができたということなれば、現代の独 裁の持つ強みのようなものが、新しく世界史に提示されることになるかもしれません」と本村凌二・東京大学名 誉教授は述べています。メディアや世論の反応を見て、「生物兵器を使って脅迫するテロリストが出てきたら、 社会全体がパニックに陥ってしまう。まさにテロリストが望む事態です」と、佐藤優・作家・元外務省主任分析 官は心配しています。
 梶谷懐・神戸大学教授は、岡本隆司・京都府立大学教授との対談(「中国は『AI×中華思想』のネオ強権国 家か?」『中央公論』)で、習近平政権下で自由な空間が一気に萎んでしまったとし、「インターネットをコン トロールする技術が高度化したこと」に因を求めています。岡本も、「現在のインターネットは、政権側、ガバ ナンス側に有利に働くような方向になりつつある」と応じています。
 高口康太・ジャーナリスト・翻訳家「新型肺炎で顕在した“ピーキー”な中国」『中央公論』は、「肺炎流行 に関して、中国政府には二つの失策があった」と断言しています。第一の失策は「早期封じ込めの失敗」で、 「過剰すぎる規制の連鎖」が第二の失策です。「ピーキー」とは、「(自動車やバイクが)高性能なのだが扱い づらくて普通の人には乗りこなせないことを意味する」のです。「習総書記と中国共産党はこのじゃじゃ馬をう まく乗りこなしてきたと評価することができようが、しかし気を抜けば一気にリスクが噴出する。外見とは裏腹 の不安定さ、ピーキーな中国は今後も続きそうだ」が、高口の見立てです。
 三浦瑠麗・国際政治学者「『コロナ危機』で団結する中国」『Voice』は、「(中国は)新型肺炎にまつ わる状況を『国難』と位置付け」、「一致団結し、中央が統制を強化する、というのが最もありそうなシナリオ です」と予見しています。

 岡部信彦・川崎市健康安全研究所所長「新興感染症への備えを強化せよ」『中央公論』は、「必要以上に怖れ ない」と記しながらも、「新興感染症が発生した場合の備え」を充実すべきと提唱しています。また、日本は 「(対応などについて)国際的にあまり情報発信していない」ことを問題視しています。
 櫻井よしこ・ジャーナリスト「安倍総理よ、『国民を守る』原点に帰れ」『文藝春秋』は、法的整備ととも に、アメリカに倣ってのCDC(疾病予防センター)の設置を提言しています。また、日本の「広報力」の欠落 を慨嘆しています。「武漢ウィルスは習近平政権の『終わりの始まり』なのかもしれません」、「武漢における 半導体事業のように、日本の経済界は中国主導の国際秩序に、事実上入りかけています。安倍政権の産業政策 は、そのような流れに乗ってはなりません」と力説し、「国民の命は自らの国の力で守るという当たり前の心構 えを持ち、憲法も改正し、強さと優しさを実現する国となることです。国難の真っただ中にいるからこそ、前を 向かなくてはなりません」と結んでいます。
 塩野七生・作家・在イタリア「コロナヴィールスで考えたこと」『文藝春秋』は、オリンピックは予定どおり 開催したらよいとしていますが、ただし「完璧な予防対策」、「完璧な治療をほどこす体制」の完備を求めてい ます。

 「新型コロナウイルスによる中国経済の減退は米国にも影響し、米国民の雇用に対して深刻な被害をもたらす 可能性がある」、「大統領の政治的な勢いを削ぐ可能性もなくはない」と、渡瀬裕哉・パシフィック・アライア ンス総研所長「トランプ再選は『確実』ではない」『Voice』は見ています。また、「(大統領、上下両院 を民主党が制する)トリプルブルー政権が誕生したならば世界恐慌の引き金を本当に引く可能性がある」と危惧 しています。

 宇山卓栄・著作家「『反日種族主義』の陥穽」『Voice』は、『反日種族主義』は日本でも高く評価され ていますが、「日本の朝鮮統治が不法な植民地支配であった」とする解釈に拘泥していること、竹島を「日本の 固有の領土」と書いていないことなどをもって、「日本に対する痛烈な批判をも含んでいることを留意しなけれ ばなりません」と警鐘を鳴らしています。

 「岸田(文雄・宏池会)会長を総理総裁にして、保守本流の政治を担ってもらう。その時に菅(義偉)さんは 幹事長なのか、官房長官なのか。いずれにしても、菅さんの力を引き続き国政で生かして頂きたい」、「自民党 が掲げる改憲項目はどれも重要だと思っています。ただ一点、憲法九条に自衛隊を明記するという案を除い て」、「清和会が目指すように国家の力を強くしていくと、分断や格差の拡大に繋がりかねない」と述べ、橋下 徹の決断力・実行力を評価し、「私の資金管理団体にはまだ約六億円の繰越金があります」と、「古賀誠『岸田 総理を菅さんが支える』」『文藝春秋』は意気軒昂です。

(文 中・敬称略、肩書・ 雑誌掲載時)