(記・2020年 4月 20日)

  新型コロナウイルスの感染者急増を受け、4月7日、7都道府県に緊急事態宣言が発令されました。その3日後の 10日に、編集作業は3月末に終えていたと想定される月刊総合雑誌5月号が、店頭に揃いました。いずれも感染症 関連の論考を中心に編まれています。

  『文藝春秋』は「日本の英知で『疾病』に打ち克つ」を総力特集しています。 巻頭は、塩野七生・作家・在イタリア「人(国)みな本性を現わす」です。ビジネスで中国頼みの傾向が強まる 一方だったので北イタリアが直撃されたとし、「(上下水道を完備していたので)古代のローマ人は実に三百年 もの間、疾病の流行を知らないで生きていた」と記し、「一帯一路もけっこうだが、まずは中国全土に上下水道 網を張りめぐらせてはいかが?」と結んでいます。
 舛添要一・元厚生労働大臣・前東京都知事「安倍官邸『無能な役人』の罪と罰」は、安倍政権の初動が遅れた とし、その背景には、「八年も続いた長期政権の弛緩がある」、「安倍首相は専門家にも諮問せずに一斉休校を 決めており、まるで占い師のご託宣のよう」と難じています。
 一方、「吉村洋文大阪府知事『医療崩壊も想定内だ』」は、「(安倍首相の一斉休校を)すごく重い決断を政 治判断でされた」と評価しています。「感染爆発も防がなければいけないし、経済も元に戻していかなければな らない。そのバランスをどう取るか。その判断は職員にはできないし、感染症の専門家にもできません。彼らの 意見を聞いた上で、最後は政治家が判断するしかない」と断じています。
 「都道府県知事にできるのは、住民への外出自粛要請などに留まります。海外のような強力な『私権制限』は 選択肢に入っていませんし、公共交通機関を停止させられるわけでもありません」ので、「国と自治体が緊密に 連携を取っていくしかありません」と、「小池百合子東京都知事 すべての疑問に答える」は吐露しています。 また、オリンピック延期の追加コストなどについては、今後、IOC、国、組織委、東京都の四者で話し合うと のことです。
 橋下徹・元大阪府知事・弁護士「安倍総理よ、今こそ日本に『強い決断』を」は、「科学的根拠がないなかで 休校の決断を下すのが政治家の役割。その後、措置を解除するかしないかの判断をするための科学的根拠を提供 することが専門家の役割」と明快です。さらに、「感染者数に注目しすぎているため、社会活動の抑制がかなり 強いです。ここを『死亡者数を抑えればいい』という発想に転換し、医療体制の整備に注力すれば、社会活動を 徐々に通常運転に戻すことが可能になります」などと展開しています。

 『文藝春秋』には、中国で発売と同時に回収された医師へのインタビュー記事の全文の日本語訳が掲載されて います(アイ・フェン・武漢市中心病院救急科主任「武漢・中国人女性医師の手記」)。また、金敬哲・フリー ジャーナリスト「韓国『パンデミック』でも反日は死なず」もあります。

 『Voice』では、「新型肺炎・緊急提言」として、上記の『文藝春秋』掲載の論考と同趣旨の「政府は結 果責任から逃げるな」を、橋下徹が自らの新著(『交渉力』PHP新書)を紹介しつつ論述し、かつ改憲を求め ています。

 「どうする! コロナ危機」が、『Voice』の総力特集です。 野口悠紀雄・早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問「連鎖倒産を助長する政府の愚」が特集巻頭 で、「一刻も早く欧米並みの大規模・無条件の納税延期措置を宣言すべきだ」、かつ「源泉所得税の納税も延 期」すべきと提唱しています。なお、消費税減税は、「商店などの現場に著しい混乱をもたらす」とのことで す。「安全のためには自由は抑圧されても仕方がない」という価値観が広がることを阻止するためにも、「日本 をはじめとする自由主義国は、民主的な措置で新型コロナのような危機を封じ込められることを内外に示さなけ ればならない」と力説しています。
 岡本隆司・京都府立大学教授「日中韓の差を生む『歴史の刻印』」は、朝鮮半島にとって中国こそ「文明の中 心」、「畏怖すべき存在」であり、「大都市をまるごと封鎖し、短期間にいくつもの病院を建設するなど」、 「強権で断行してしまうのが、中国政治」で、「日本が『官民一体』なら、中国は『官民乖離』」であり、 「(中国は)内には強権を発動し、外には強硬な態度をとって、居丈高にならざるを得ない。かつての中国の皇 帝政治の専制体制も、民間を把握できなかったがために、かえって至上の権威・権力をもたざるを得なかった」 と分析しています。
 「グローバル化によって、国家間の競争が新しい次元に進んだのである」とし、「感染症の拡大抑制のため、 さらには経済状況を好転させるために十分なパワー(を備えること)」、「(これまで以上の)自助(セルフヘ ルプ)の精神」、「(米中対立構造のなか、自らの日中・日ロ関係を位置付けるなど)地政学的な思考を有する こと」を、細谷雄一・慶應義塾大学教授「政治経済の『免疫力』を備えよ」は、日本に求めています。

 「パンデミックが収まったとしても、当面、石油がだぶつく状況は変わりそうにない」、「中東諸国が疲弊す るようなことがあれば、エネルギーの安定供給に支障が出る恐れもある。日本が中東の経済改革を支援すること で、プレゼンスを拡大できれば、長期的なエネルギー安全保障の確保には有効であろう」と、保坂修司・日本エ ネルギー経済研究所研究理事「『石油価格戦争』からOPEC体制崩壊へ」は論じています。

 『中央公論』の特集は、「コロナ直撃 世界激変」です。
 武田徹・専修大学教授が、特集巻頭で、岡部信彦・川崎市健康安全研究所所長(「ゼロリスクの感染症対策は ありえない」)と森田朗・津田塾大学教授(「公衆衛生と医療データの後れが命取りに」)にインタビューして います。「(都市封鎖などにならないよう)少しでも多くの人に『感染症を防ぐ、うつさない』ことを理解して いただければ、この日本方式(一定の『自粛』)でしのぐことができ、重症者への必要な医療が届くのではない か」と岡部は願っています。森田によりますと、「最先端の科学的な知見を可能な限り取り入れた決定を行うた めには、やはりデータに基づいた透明度の高い議論ができるようにすることが大切です。そのような観点から、 日本の審議会制度は革新が求められている」とのことです。
 「新型コロナウイルスの蔓延は新しい世界的危機のきっかけとなったようである」とする、白石隆・熊本県立 大学理事長「米中対立時代、日本の生存戦略」は「危機にうまく対処できない国では、国民の政府への信頼が大 きく揺らぐ」、「経済危機が拡大すれば、特にアジアでは豊かな生活への期待が膨らんでいるだけに、これも政 治の不安定化に繋がる」と予見しています。
 鼎談「どうなる? コロナ後の習近平体制」で、阿古智子・東京大学教授は「中国の強さは、民主主義社会が 大事にしているものを破壊していく強さです。そして、中国はプロパガンダに力を入れることによって、世界の 中でも中国はすごいという言説を作り出しています」、「日本もすでに単独では勝てないという自覚を持ったほ うがいい」と述べています。宮本雄二・元駐中国大使によりますと「以前から中国は過度に自信を持ちすぎてい たし、世界は過度に中国を評価しすぎていました。今回のことで、ようやく実像に近づいていくかもしれませ ん」とのことです。川島真・東京大学教授は「日本が可能な限り中国を既存の秩序、自由で開かれた国際秩序に 入れるようにする努力を諦めないこと」、「(日本一国では無理なので)他国と協力して努力を続けていく」べ きなどと提言しています。
 阿南友亮・東北大学教授は、森聡・法政大学教授との対談(「米中安保最前線 日本に求められる外交と は」)で、「中国との経済関係が日本国民の自由や安全とどこまで両立するのかについて、国レベルでの議論を 活発化させるべき」と問題提起しています。森は「習近平訪日ありきで協調案件をひねり出すという発想ではな く、日本の追求する国際秩序や価値規範という根本に立ち返って対中外交の基本方針を具体的な形で国民に示 し、中国にいかなる考え方に立ってどう向き合うのかを説明していただきたい」と「安倍首相や関係閣僚」に求 めています。
 伊藤亞聖・東京大学准教授「新型肺炎がもたらした中国経済のジレンマ」は世界経済への影響を危惧していま す。

(文 中・敬称略、肩書・ 雑誌掲載時)