(記・2020年 5月 20日)

  「緊急事態でなお人権・私権を守り抜くというのであれば、人権・私権それ自体が修復不能なほどに毀損されてしま いかねない」、「コロナ収束後、その時こそは国家緊急事態を憲法条項に盛り込もう」と、渡辺利夫・拓殖大学学事 顧問「国家緊急事態とは何か」『Voice』は呼びかけています。
 同じ『Voice』で、三浦瑠麗・国際政治学者「緊急事態条項と立憲主義」は、「緊急時においても、国家が最 低限守らないといけないものは何なのか。逆に、曲げてもいいのは何か。それを切り分けるために緊急事態条項があ るのです」、「なぜ緊急事態条項の創設に慎重でなければならないのかといえば、各国の憲法秩序において乱用され てきた歴史を背負っているからです」と静かです。

 『文藝春秋』での対談「ウイルスVS.日本人」で、コロナに関し感染者数よりも死亡者数に留意すべきでは ないかとの橋下徹・元大阪府知事・弁護士の問いに、山中伸弥・京都大学iPS細胞研究所所長は、「インフル エンザとは段違いの恐ろしさがある」、「元気だった方が、二、三週間で急に亡くなるんです」と強調していま す。山中は「(事態の対策は)『やり過ぎ』のほうがいい。やり過ぎの失敗はあとからカバーできます」、橋下 は「安倍首相には、思いっきりリーダーシップを発揮してもらいたい」と述べています。

 「コロナに本格的に立ち向かうためには、『真水で五〇兆円程度の財政出動』が必要」と、加谷珪一・経済評 論家「戦時国債50兆円で連鎖倒産を防げ」『文藝春秋』は提言しています。具体的には、「個人所得補償 が約二〇兆円」「中小零細企業への補償が約一五兆円」「感染症に対応するための社会インフラ整備が約一五兆 円」です。
 松井一郎・大阪市長・日本維新の会代表「安倍総理、減税せんと国民は飢える」『文藝春秋』は、「安倍総理 のやることなすこと全てを批判している野党は、あまりに無責任」とし、消費喚起のために、「全ての商品や サービスに軽減税率を適用し、実質的に消費税を八%に減税」することを求めています。さらに、「六月末で終 了予定のキャッシュレス決済のポイント還元制度も延長した上で、還元率を二%から五%に引き上げる」ことも 困難ではないとしています。
 「(政府の緊急経済対策は)基本方向は合っているのだから、決めた以上はできるだけスピード感を持って円 滑に手続きを進めていってほしい」とする小峰隆夫・大正大学教授「日本経済を襲うコロナショック」『中央公 論』は、「消費税は所得の多い人ほどたくさん払っている(消費金額が多いから)。その消費税を引き下げれ ば、所得の多い人ほど得をすることになる」と断じています。今後、歳出は拡大し、税収は減少し、成長率も大 減速するので、「財政金融政策の中長期的課題が振り出しに戻る」し、「構造的課題」に取り組みざるを得ない ようです。「構造的課題」としては、今後同様のウイルスに襲われたさいの対応策、リモートワークの進め方、 IT技術の実装、中国依存度の高いサプライチェーンやインバウンド頼みの地方の活性化戦略の見直し、等々が あるとのことです。

 佐藤優・作家・元外務省主任分析官「国内の行政権が強まりグローバリズムは後退する」『中央公論』は、 「新型コロナウイルスの脅威が去っても、未知の感染症に脅かされる可能性は常にある。そのような状況に備え て、国家は、その生き残り本能から、AI技術を駆使して、国民に対する監視を強める」、かつ「(感染症を克 服した後の世界では)『ほんとうの幸せとは何か』『人間の生死はどのように決まるのか』『人生の意味は何な のか』というような人間の内面に対する関心が深まるようになる」と予見しています。
 鼎談「アフターコロナの地政学」『中央公論』で、細谷雄一・慶應義塾大学教授は「(感染症問題が)米中の 地政学的な対立と連動してしまっている」と指摘しています。鈴木一人・北海道大学教授は「国家が強権を発動 できる権威主義的な仕組みが有効だという認識が高まる」、「(中国のイタリア支援は)中国版マーシャルプラ ン」であり、「中国が本格的に工場を再開して経済を動かし始めると独り勝ちです」とみています。詫摩佳代・ 東京都立大学教授の見立ては「中国の強権的な体制のもとで感染が隠蔽され、世界への感染を招いたとの批判も 多い」、「覇権国が存在しない、やや不安定な時代になる」、「アメリカの覇権の低下が長期的に及べば、(日 米同盟を)見直さざるをえなくなります」です。「スペイン風邪に始まったパックス・アメリカーナがコロナで 終わる、ということになるのかもしれませんね」との細谷の言で鼎談は終っています。

 峯村健司・朝日新聞編集委員「米中コロナ戦争 CIAと武漢病毒研究所の暗闘」『文藝春秋』の結びには 「中国の『独走』を食い止めるには、感染を一刻も早く抑えることが急務だ。政府と国民が一丸となって、新型 コロナとの戦いに打ち勝ち、民主主義の強靭さを証明できるかどうか。その成否によって『ポスト・コロナ』の 世界秩序は確実に変わってくるだろう」とあります。
 金子将史・PHP総研代表「『戦略的不可欠性』を確保せよ」『Voice』も、「中国が感染抑制に成功す れば、人権よりも公共の利益を優先して強権的な封じ込め政策をとり、監視技術を実装化する中国の社会体制の 優位性が感じられるようになるかもしれない」と危惧しています。そのうえで、「日本がめざすべきは、培って きた技術力を活かして、他国からみて死活的なハイテク領域で代替困難なポジションを獲得すること、すなわち 『戦略的不可欠性』の確保である」、「対中国では、安全保障上の脅威を増し、人権抑圧につながるような分野 では技術流出を厳格に管理することが必須である」と展開しています。
 『Voice』では、大澤淳・中曽根平和研究所主任研究員「デジタル・シルクロードの野望と現在地」が、 「(中国には)『一帯一路』をサイバー空間で実現しようという、『デジタル・シルクロード』構想が存在す る」、「(その目的は)ユーラシア大陸の情報データを囲い込むことにある。そして最終的な目標は、米国のデ ジタル覇権からの脱却およびデジタル覇権の奪取にあるようだ」、「山登りでいえば六合目まで登ってきている ことになる」と分析しています。「『自由で開かれた通信基盤・IoTプラットフォーム』を旗印に掲げ、自由 と人権が保障されたデジタル社会の実現を後押ししていく。これが、ポスト・コロナの世界において、日本に求 められる大きな役割である」が大澤の結語です。

 安田峰俊・ルポライター「人種差別で岐路を迎える友好関係」『Voice』は、「新型コロナウイルスの流 行にともない(中国で)表面化したアフリカ人差別事件」の報告です。中国はアフリカ諸国との友好関係構築に 熱心であるにもかかわらず、広州で、現地在住のアフリカ人が「家を突然追い出される、ホテルから退去を言い 渡される、レストランへの入店を拒否される」、「路上生活を余儀無くなくされた」などの事件が頻発したので す。広州では、アフリカ人のなかでもナイジェリア人が多く、中国からのナイジェリアへの援助・借款ラッシュ により、急接近した両国ですが、友好関係は「大きな岐路を迎えつつある」そうです。

 「発生源の中国だけでなく」、「感染症予算を削減したトランプも問題だ」とのリードが付された、村中璃 子・医師・ベルンハルトノホト熱帯医学研究所研究員「WHOはなぜ中国の味方なのか」『文藝春秋』は、 「WHOは大きく重たい体質を一刻も早く改善し、中国に情報共有を促すことを通じて、世界に安全で効果の高 いワクチンを平等に届ける必要がある」と説いています。

 「特別寄稿一八年を経て掉尾を飾る」として、『中央公論』に馬立誠・『人民日 報』元論説委員「新時代に踏み出す中日関係―対日新思考を五たび論ず」があります。「対日新思考は、民族主 義を抑え、中日の和解を実現させようと主張している。困難ではあるが、実現可能な歴史的目標だ。私は、中日 両国の人士が、十分な智慧によって未来の複雑な局面に対応すると信じている。そして、新思考が、新時代にお ける中国の対日政策の主流になることを信じている」と、謳っています。杉山祐之・読売新聞編集委員「訳者解 説『対日新思考』の歴史的価値」には「(馬は)中国が反日一色に染まる中、国民に『もう一つの異なる声』を 伝え続けたのだ」、「事実に即し、中国の真の利益に合致していたということだ。さもなければ、新思考にこれ ほどの生命力はなかった」、「五つの論文は、疑いなく、歴史的な価値を持っている」とあります。

(文 中・敬称略、肩書・ 雑誌掲載時)