(記・2020年 6月 20日)

  『文藝春秋』は「コロナ後の世界」を総力特集しています。
 その中で、岸田文雄・自民党政調会長「リーダーには『聞く力』が必要だ」は、「自民党の政策責任者として現段 階で政府に強く申し上げたい点が二つあります」、「分かりやすい説明」と「『スピード感』が欠けている」と述 べ、「検察庁法改正案」と「黒川弘務東京高検検事長(当時)の賭け麻雀」の一連の問題も、「よほどしっかり、そ して分かりやすく説明しないことには、政府への厳しい視線は今後も続くのではないでしょうか」と展開していま す。
 一方、石破茂・自民党元幹事長「安倍総理は国民を信じていないのか」は、検察庁法改正関連では「検察庁法は憲 法体系の一翼を担っているに等しい出自をもっている」ので「『国民主権で選ばれた政府が人事を掌握するのは当 然』と断じるのも危険」としています。「私が掲げる『地域分散・内需主導型』の国家像については、二階俊博幹事 長も理解を示して下さっていると仄聞します」、「秋田出身の菅義偉官房長官も地方への熱い思いを持っておられ る」と意気軒昂です。
 岩田明子・NHK解説委員「安倍晋三対コロナ『150日戦争』」によりますと、安倍は「テレワークやオンライ ン教育など日本の立ち後れている部分が可視化された」、「私権を制限することなく、医療体制を維持し、感染者数 を抑えることに成功した」、「ただ世論調査などでは、危機における私権制限の必要性を認める声も出ている。こう した点は中長期的に議論を進める必要があるだろう」と「アフター・コロナの日本」について周辺に語っているとの ことです。
 「(中国は)人権に気をとられている民主主義より全体主義の方が、人の命を救うという点ですぐれている、と必 ず主張します」と、藤原正彦・作家・数学者「『日本人の品格』だけが日本を守る」は断じています。そのうえで、 「(日本が)自粛要請だけでコロナを抑えこんだというのは中国の牽強付会に対する最大の反撃となります」、「中 国とも欧米とも違う、民度の高さと静かな決意で抑え込んだ、というのは世界史的意義のあることなのです」と結ん でいます。
 エマニュエル・トッド・歴史人口学者「犠牲になるのは若者か、老人か」は、「新型コロナの被害を最小限に抑え た日本ですが、唯一にして最大の危機は、『少子化』です」、「少子化対策は、安全保障政策以上の最優先課題」と まで言っています。
「今後は、経済回復と感染防止を両立」させる道を目指すべきと、小林慶一郎・東京財団政策研究所研究主幹「『検 査・追跡・待機』こそ最大の景気対策だ」は提唱しています。PCR検査の拡大、人員を大量に雇用しての濃厚接触 者の追跡、陽性者の待機・療養生活の「三点セット」の徹底です。

 検察庁法改正関連では、「選挙で選ばれた代表である国会議員で構成される政府が最終的な人事権を持つの が、むしろ健全だ」と、佐藤優・作家・元外務省主任分析官「エコロジー的思考で捉える検察と官邸のなわばり 争い」『中央公論』は説いています。

 『中央公論』の特集は、「コロナ・文明・日本」です。
 巻頭は、山崎正和・劇作家・評論家「21世紀の感染症と文明」です。「悲劇が近代人の秘められた傲慢に冷 や水を浴びせ」たと評しています。
 村上陽一郎・東京大学名誉教授「近代科学と日本の課題」は、「現在の政権も含めて、二つの、矛盾した『誤 り』への非難に晒されることが必然となる」、その二つとは、「なすべきであったことをなさなかった」、「な すべきでなかったことをなした」だと指摘しています。「この二つの落とし穴を同時に避けることは不可能」 で、「為政者には、それだけの責任を負う義務」があり、「(誤りが起こった際)合理的な批判を行うこと」と 「そのことに、少なくとも理解を以て臨むことは、国民の義務ともなる」そうです。
 堀成美・東京都看護協会危機管理室アドバイザー「医師の心を折る“診療以前”の問題群」は、「医師はコロ ナ患者が発生したら、FAXを保健所に送る。保健所はそのFAXを見て端末に入力。そうしてようやく、都道 府県、厚生労働省、感染研がデータを見られる」という日本の状況を、オペレーション、データ処理を含め、韓 国・台湾の進んだ仕組みと比し、嘆いています。
 台湾では大規模感染もなく、政権の対応に大きなミスはなかったようですが、何思慎・輔仁大学教授・国立台 湾大学兼任教授「ポストコロナ 米中台トライアングルのゆくえ」は、「(台湾で)非常事態の名のもと不問に 付される法律軽視の心理や姿勢が、将来の民主政治に良くない影響をもたらすことを強く懸念している」とのこ とです。「中国は台湾に対して威嚇や恫喝も交えつつ、今後も米中の力関係の推移をにらみながら徳川家康のよ うに自分にとって有利な時期の到来を待つだろう」、「中国は日本との関係を重視しており、トランプ再選でな くても、日中関係改善に向けた模索は続くだろう」が、何の見立てです。

 特集外ですが、高口康太・ジャーナリスト「疾病と健康の中国現代史@監視社会と感染症」がギャラップ・イ ンターナショナル・アソシエーションによる世界30ヵ国を対象の「新型コロナウィルスに関する世論調査」 (今年3月、4月)を紹介しています。感染防止のためなら人権をある程度犠牲にしても構わないとの意見を、 日本を除く調査対象国すべてで過半数が支持しています(米国68%、日本40%)。「日本以外の国とて、な にも独裁体制になっても構わないという意見ではないだろう。むしろ民主主義への信念があるのではないか。新 型肺炎のために一時的に国家の権限を強化したとしても、万が一暴走したならば国民の力で抑止し、強化した権 限を取り上げられるという信念が」と、高口は解しています。

 「コロナ時代の新・日本論」が『Voice』の総力特集です。
 中西寛・京都大学教授「世界が迎える大転換と日本の課題」は、「日本モデルの成功」との評価がある一方、 「防疫体制の混乱やPCR検査の絞り込みなどを批判して、日本の失敗を難ずる声もある」ので「情緒的な成功 失敗の評価」ではなく、「客観的な分析を踏まえた教訓」の必要を訴えています。
 「必要だったのは、途中から専門家重視に移行するのではなく、最初に専門家中心で対応し、その後により多 くの観点に基づいて行う政策判断であった」と待鳥聡史・京都大学教授「『強い官邸』が賢い選択をするには」 は難じています。今後の回復期には、雇用・所得の維持、社会の安定という観点からの最善策の提言を得た後、 医療・財政の観点も交えての総合調整が必要だと説いています。
 「自粛による行動の統制は、道徳を呼び込んだ」、「自粛による行動統制は一定の成功を収めた」、ただ、 「道徳は無限拡大する。そこでの善悪の基準は流動的でかつ恣意的な場合が少なくない」と、苅谷剛彦・オック スフォード大学教授「『自粛の氾濫』は社会に何を残すか」は危惧しています。
 「二〇〇八年の金融危機と、二〇一六年に端を発するブレグジット、トランプ選出、そして今年のパンデミッ クによって、グローバル化の波は急速な退潮に向かっている」、「(コロナショック後の)不況は、世界が脱グ ローバル化に向かいつつあるなかで起きる、最初の大きな危機となるだろう」、「大国の強い影響力の下で域内 の取引費用が最小化される、『新たな帝国主義』とも呼べる状況が出現することになる」と、柴山桂太・京都大 学准教授「世界経済の試練と『新たな帝国主義』」は予見しています。

 以下、総力特集から離れます。
 小黒一正・法政大学教授「検査拡充が『経済正常化』の鍵」は、対ウィルスに「命」か「経済」かではなく、 「命も経済も守る出口戦略」を提言しています。「感染の状況を定期的(二週間に一回程度)に知ることがで き、継続的に陰性の人びとは安心して外出や仕事を再開できるような体制を、遅くとも半年以内につくること」 を求めているのです。相当数の人員と資材の確保が必要です。検査体制の確立にあたっては、衆議院総選挙の実 施方法をも参考すべきとのことです。
 安田峰俊・ルポライター「中国VS.世界Cカザフスタン」は、カザフスタン政府 が中国との友好的関係を構築したいとの意向があっても、新疆問題の影響などもあり、庶民層の中国に対する警 戒心や不快感が根強いので、容易ではない様相を描いています。

(文 中・敬称略、肩書・ 雑誌掲載時)