(記・2020年 7月 20日)

  「第二波に備えよ」を総力特集として、『文藝春秋』は編んでいます。
 巻頭は、「ノーベル賞学者からの『警告』」と銘打った、本庶佑・京都大学特別教授「東京五輪までに『ワクチ ン』はできない」です。急ぐべきは、「全自動のPCR検査システムの導入」と「検査試薬の国産化」で、さらに 「日本の叡智を結集し、ワクチンや治療薬の開発にも力を注いでいくべき」と説いています。
 昨年四月に全国最年少知事(39)として就任し、休校要請と独自の緊急事態宣言で注目を集めた鈴木直道・北海 道知事が取材に応じています(構成=広野真嗣「北海道知事『伝える力こそリーダーの命です』」)。緊急事態宣言 のさい、メッセージを「危機的な状況にあること」、「外出を控えてほしい」の二つに絞ったのですが、それは「専 門家から適切な提言を受け、正しい選択肢に到達しても道民の具体的な行動につながらなければ、政策としての意味 はゼロに等しいから」とのことです。「自治体の長は『伝える力』が命だ」と力説しています。

 『中央公論』は、「知事の虚と実」を特集しています。
 砂原庸介・神戸大学教授が、黒岩祐治・神奈川県知事(「小池・吉村両知事のように国を批判すれば済むの か」)と平井伸治・鳥取県知事(「感染症対策にパフォーマンスはいらない」)に取材し、その結果をまとめて います(「国の『政治主導』、地方の『政治主導』」)。黒岩は、「特措法が抱える大きな問題」として、休業 要請の権限は知事にあるのに、補償の規定と罰則規定がないことを挙げています。平井は、「政府も知事の意見 に率直に耳を傾けるようにもなっています」と答えています。砂原は、7月に東京都知事選、秋に大阪都構想の 住民投票があり、「政権党に支えられて立場が安定した知事ではなく、『チャレンジャー』という性格を持つ二 人の知事が大都市にいたからこそ、今回のような政治過程が実現した」と評価しています。ただし、大都市が 「国が揃える専門家とは異なるタイプの専門家を自前で揃え」、「専門性を標榜するかたちで党派的な競争が行 われることになると、何より肝心な専門家への信頼が損なわれる」と危惧しています。
 北海道知事の独自の外出自粛・休校要請は、特措法は改正されていず、国の緊急事態宣言が出されていない時 点だったので「法的裏付けは何もなかった」、県(道)議会に県(道)独自の条例の制定してもらう必要がある と、片山善博・早稲田大学教授「『社長』が自らを『中間管理職』に貶めるな」は指摘しています。また「そも そも首相には全国一斉休校を要請する権限などない」のに、自治体が従ったのは、地方分権改革の成果が生かさ れていないと難じています。さらに「(特措法による緊急事態宣言を出した国と法律上の権限を行使する都道府 県知事の関係について)東京都は知事の権限行使について国と三日間も協議した」と問題視し、「助言を受けた 知事は国に協議してもいいし、しなくてもいい。主体的に判断すればいい」、他の知事からも「『ほどほどにし ては』との声が出なかった」、「他の知事たちも、協議を義務だと錯覚した上、自らを『社長』ではなく『中間 管理職』に貶めているということか」と展開しています。
 西村康稔・経済再生担当大臣が「コロナ第一波の総点検 総力あげて第二波に備えよ」(聞き手=田原総一 朗・ジャーナリスト)で、「第一波の対策の効果を徹底分析し、ノーベル賞受賞者の山中伸弥教授にも評価して いただくなど新たな知見を総動員しながら第二波に備えたいと思います」と述べています。

 「『新常態』を制すリーダーの条件」が『Voice』の総力特集です。
 河野勝・早稲田大学教授「政治における委任とリーダーシップ」は安倍政権のコロナ対応に関し、「安倍首相 を周りの人びとが支えていないだけでなく、安倍氏自身が彼らを仕切れていないという側面からも、そのアドバ イザー体制が確立されていなかったことを浮き彫りにしてしまった」と断じています。
 村田晃嗣・同志社大学教授「トランプは米国分断の『拡大鏡』」は、「パンデミックを通じて、トランプ大統 領はアメリカの抱える矛盾や困難をより鮮明にする政治的『拡大鏡』となった。しかも、彼が拡大して見せた矛 盾や困難こそが、彼を台頭させた要因であった」とし、「(ウイルスと不況と人種差別という)三重の危機より もさらに米国社会にとって脅威なのは合衆国大統領その人なのである」との田中明彦の言を引用・紹介していま す。

 『文藝春秋』の「マティス前国防長官『トランプはアメリカの脅威だ』」は、トランプ政権下で2018年ま で国防長官を務めたジェームズ・マティスの『アトランティック』誌上での声明文(「アメリカは団結すること でその力を発揮できる」)の翻訳に解説を付したものです(訳・解説=横田増生)。横田の解説には、「(トラ ンプ大統領が望んでいるのは)支持基盤を維持することにある。再選のために必要なのは、国民を団結すること ではなく、分断させることなのだ」、「マティス氏の声明は、これまで国内を分断することで支持を固めてきた トランプ大統領に対し、強烈なカウンターパンチとなり、十一月に行われる大統領選挙の投票の行方にも影響を 及ぼすことになりそうだ」とあります。
 前嶋和弘・上智大学教授「黒人抗議運動と大統領選挙の行方」『中央公論』は、「黒人にとってトランプ政権 は『人種平等に向かっていた時代の流れを逆にした反動政権』そのものである」、「トランプ大統領は、暴徒や 州政府を批判することで自らの正当性を主張すると同時に、自らの強力な支持基盤である警察組織や白人優位主 義者を立てているようにも見える」と論じ、「ブラック・ライブズ・マター(Black Lives Matter : BLM)」を合言葉にする差別抗議運動は、「“第二の公民権運動”にまで広がっていきそうだ」と予見しています。

 峯村健司・朝日新聞編集委員「習近平の『台湾併合』極秘シナリオ」『文藝春秋』は、「(習近平は党内の反 発が強かった国家主席の任期撤廃を台湾)『統一のためには二期十年では足りない』(と押し切ったので)、何 が何でも統一を実現しなければならない」旨の中国共産党関係者の言を紹介し、「世界で最も危険な『火薬庫』 を爆発させないために、今眼前にある中国の脅威にどう向き合うのか議論し、早急に対策を進める時が来てい る」と結んでいます。
 高口康太・ジャーナリスト「“デジタル中国”の医療改革」『中央公論』は、中国でインターネット健康相談 が発展している様相を描いています。大病院は混雑しているので、薬をもらえるわけではありませんが、少なく とも症状が危険かどうかのアドバイスがもらえるので重宝なのです。医師にとっても、「空き時間を使って回答 が可能で、手軽な副業」となっているのです。
 安田峰俊・ルポライター「中国VS.世界Dオーストラリア」『Voice』は、オーストラリアと中国の関 係が2020年春から「最悪に近い状況に陥っている」背景に取り組んでいます。中国当局の対コロナ流行に関 する初期対応についてオーストラリア側が国際調査を求めたことが発端で、中国は「ヒステリックな非難」を繰 り返し、オーストラリア産品の輸入制限などを取ったのです。

 五味洋治・東京新聞論説委員「金与正 毒舌プリンセス『冷たい仮面』の裏」『文藝春秋』は、韓国と北朝鮮 間の軍事境界線近くの南北共同連絡事務所の爆破を指示したとされる、金正恩・朝鮮労働党委員長の実の妹・金 与正・党第一副部長の素顔に迫ろうとしています。今年32歳になり、子どもが二人いるとされています。「与 正は対米関係でも中心的な役割を担っているという。朝鮮半島の今後を、三十代前半の彼女が握っているのは間 違いない」ようです。
 「文在寅政権が北朝鮮との対決路線をとるとは考えていない。北朝鮮の脅しに耐えられなくなった文在寅政権 が、北朝鮮の軍門に降るという計算のもとにやっている」、「韓国市民を傷つけるような行為は避けながら、執 拗に文在寅大統領を個人攻撃し、韓国が音を上げるのを待つだろう」が、牧野愛博・朝日新聞編集委員「やはり 絵空事だった南北朝鮮融和」『Voice』の見立てです。「南北融和路線を捨て去ることは、『アイデン ティーの崩壊』を意味する」文政権が「反米闘争を選ぶ」可能性があるようです。
 柳錫・ジャーナリスト「元慰安婦の叫び『韓国政府は切腹せよ』」『文藝春秋』 は、韓国最大の元慰安婦支援団体(「正義連」)が元慰安婦に告発された問題の報告です。なお、元慰安婦と正 義連との「手打ち劇」もありましたが、混乱は続きそうとのことです。

(文 中・敬称略、肩書・ 雑誌掲載時)