(記・2020年 8月 20日)

  安倍晋三・総理大臣が『中央公論』でインタビューに応じています(聞き手=橋本五郎・読売新聞特別編集委員「拉 致問題は任期中に結果を出したい」)。「(北朝鮮による拉致問題は)各国首脳の協力も得ながら、なんとしても結 果を出したい」、「コロナ対策を最重視していますので、解散は頭の片隅にもありません」とのことです。

 『中央公論』の特集は、「指導者たちの『失敗の本質』」です。
 その巻頭は、小池百合子・東京都知事「内向きの対立を超えて地方のトップに委ねるべき」で、コロナ問題に 関連し、「都が発出するメッセージの『てにをは』まで細かに『指導』されます」と国の対応を難じています。
 石破茂・元自民党幹事長「九条改正は急ぐ必要はない」は、憲法改正は「国民は緊急性のあることだとは思っ ていないし、実際そうだろうと思います」とし、日米安保条約の非対称的な状態を解消すべきと談じています。 「役職を重ねて、総裁選挙に三回も出た人間が、『浅学菲才の私にはできません』とか『もうやめます』とは言 えません」と、自民党総裁選への出馬を表明しています。
 前原誠司・衆議院議員「合流への挑戦に後悔はなし そして臨む野党再編(聞き手=井出英策・慶應義塾大学 教授)」は、3年前の民進党の分裂劇の経緯を語り、「維新と希望の党と一緒になり、凹凸をうまく組み合わせ て巨大な自民党をひっくり返そうとしたチャレンジについては、何の後悔もしていません」と明言しています。

 『文藝春秋』には「小池都知事との攻防、GoToキャンペーン批判、安倍総理との関係……」との惹句が付 された「菅義偉官房長官 すべての疑問に答える」があります。コロナの感染拡大防止と同時に社会経済活動を 引き上げていかなくてはならないがゆえのGoToキャンペーンですが、その過程で東京の感染者数が突出した ので看過できなくなり、「圧倒的に東京問題」と発言したと説明しています。国が財源負担する療養用ホテルを 都が解約してしまったことや、都と23区の連携不足なども「東京問題」だそうです。「(安倍総理との間の) 隙間風」を否定し、「安倍政権を作った一人として、責任を果たしていきたいと思っています。何より今回のコ ロナショックは、百年に一度の危機。感染拡大の防止と社会経済活動の活性化の両立を進めていく。私はそのこ とに全力を注いでいきます」と結んでいます。
 「河野太郎防衛大臣『中国の暴挙を放置するな』」も『文藝春秋』にはあり、中国の国防予算や保有する戦闘 機の急増や中国公船の尖閣諸島周辺の領海への侵入、接続水域へ入域、香港など「『中国』を巡る問題」を懸念 しています。河野は、「初当選の頃から総理を目指してきました。この国はどうあるべきか、どのような立場で も常々考えてきたつもりです。そして、これからも国民のために考えていきたいと思います」と謳い上げていま す。

 安田峰俊・ルポライター「香港は習近平に屈しない」『文藝春秋』は、6月30日、香港で国家安全維持法 (国安法)が施行されましたが、「国安法によって香港の活動家たちの姿勢は揺れ、より深刻化した事態は日本 を含めた世界を揺るがしている。長引くデモに業を煮やした習近平政権が採用した強硬策は、香港情勢により大 きな騒動をもたらしていくかもしれない」と予見しています。
 益尾知佐子・九州大学准教授「習近平 土着共産主義者の皇帝化」『中央公論』は、「香港で民主化デモが始 まり、中国はこれを共産党体制に対する『テロリズム』と見なしていく」、「言論はさらに抑圧された。そこに やってきたのが、新型コロナの決定打だった」、「指導者の権威擁護を目的化した政治が正しいわけはない」、 「政治が誤った方向に進んだとき、民主主義体制には選挙という制度的な軌道修正の機会がある。真の意味での 選挙がなく、しかしわが国の体制は民主主義に優ると誇る中国共産党は、その必要が生じればどうこれを実現す るのか。あるいは一四億の人民は、指導者の天命が尽きるまで待つしかないのか」と展開しています。

 フランシス・フクヤマ・スタンフォード大学シニアフェロー「古代王朝からひもとく習近平体制の実態」『中 央公論』は、「習近平率いる中国共産党が目指す『全体主義』の徹底ぶり」を過去の諸王朝との「見落としては ならない相違点」だと断じています。「中国がより一般的な権威主義国家になるまで、あるいは自由主義国家へ の道を歩み始めるまで、我々はこの国とは距離をとるべき」だが、現在のアメリカ大統領を「味方にも敵にも本 気で相手にしてもらえなくなるような人間」と難じ、「中国を変えることについて考える前に、世界の民主主義 のリーダーの地位に再び立つことができるよう、まずはアメリカを変える必要がある」と力説しています。
 フランシス・フクヤマは「失われた民主米国のリーダーシップ」を『Voice』に寄せています。「中国に 対抗するためには民主主義国家の同盟を築くべきですが、トランプは中国を攻撃するのと同時に、アメリカの同 盟国も攻撃しています。まったく筋が通りません」と説き、「中国を孤立化させることは重要だと思います。習 近平の国賓来日は、中国の国としての名声と国際的地位を間違いなく上げます。いまの中国に対してそれを許し たいと思うでしょうか」と習の国賓来日の中止を日本に求め、「私を含めて、ほとんどの人がもっと若い候補者 を望むでしょうが、トランプのひどさを考えると、多くの人は喜んでバイデンに投票すると思います」と11月 の米大統領選を予想しています。

 坂元一哉・大阪大学教授「日米『グローバル・パートナー』への軌跡」『Voice』は、「日米両国の地政 学的利害の一致も再び明確になった。日本がいま、米国と協力して国の進路を切り開いていくのは、あまりにも 当然のことである。米中対立の激化は日本に安全保障上の厳しい試練を与えることになりそうである。そしてそ の試練は同時に、日本が『ウイルス戦争』後の世界において、世界経済だけでなく、世界の安全保障にも相応の 責任を果たす国になるかどうかを試す試金石にもなる」と分析しています。
 「ジョン・ボルトン『私が見たトランプの正体』」『文藝春秋』で、前アメリカ大統領補佐官への取材・構成 を担当した古川勝久・国連安保理事会・北朝鮮制裁委員会専門家パネル元委員による「インタビューを終えて」 には、「ボルトン氏は日本を理解し、日本に深い信頼を寄せていた。ただしその前提として、彼は日本に対し て、米軍の対北朝鮮武力行使への協力を期待していた点を理解しておく必要がある。もしトランプ大統領が落選 したとしても、日本が安泰になるわけではまったくない。日本は米国からより一層重要な役割と覚悟を求められ ているのである」とあります。
 三浦瑠麗・国際政治学者「敵基地攻撃能力の実体」『Voice』は、「私たちがまず議論すべきは、いま日 本が有していない反撃能力を持つべきか否か」だと指摘しています。

 「(コロナ禍のもと)恐ろしいまでの『自粛』が行なわれた」、「政府もマスメディアもポピュリズムによる 過剰同調事態・社会をつくらないようにするために、優れた専門家の養成・選出・駆使に何よりもエネルギーを 注ぐべきである」と、筒井清忠・帝京大学教授「『緊急事態』で伸張するポピュリズム」『Voice』は、問 題提起しています。
 「コロナ禍以降のアメリカをみれば明らかですが、現在の世界の民主主義国で非常に大切なことは、国内の分 断を起こさないこと」、「あらゆる問題は国民の分断を起こさせないかたちで議論を進めていく必要がありま す。もはや昂った観念的あるいは情念的な議論とは訣別しなくてはならないのです」が中西輝政・京都大学名誉 教授「歴史観と合理主義精神に目覚める夏」『Voice』の提言です。

 李大根・成均館大名誉教授は、「徴用工に日本が補償する道理はない」『文藝春秋』で、「(1965年の協 定により日韓)両国間の請求権は完全かつ最終的に解決しています」と述べています。

 『文藝春秋』には「第163回芥川賞発表(受賞作・高山羽根子「首里の馬」、遠 野遥「破局」)がありました。

(文 中・敬称略、肩書・ 雑誌掲載時)