自民党総裁選が行われた9月14日の4日前の10日に店頭に並んだ『文藝春秋』に、三人の総裁候補者が登場して
いました。
「菅義偉『我が政権構想』」は、「感染防止と社会経済活動の両立」、「地方創生」を力説しています。また「毎
朝四十分のウォーキングや百回の腹筋など体調管理と規則正しい生活」をしてきたので、「体調は万全」とのことで
す。
「岸田文雄『アベノミクスの格差を正す』」も、「十キロのダンベルを使ったトレーニングや腹筋、腕立て、スク
ワット」を毎日こなしているとし、安倍政権でGDPが伸び、雇用も改善されましたが、格差が広がったことは認め
ています。
「石破茂『総選挙でしっぺ返しを食らう』」は、「健康管理も危機管理のうち」と「毎月の定期健診、年に一回の
人間ドッグ」は受けていると明かし、「党執行部が『簡易総裁選』を決定されたのはと残念なこと」と述べていま
す。
赤坂太郎「二階俊博 その男、面妖につき」は、菅独走への流れを作った二階の動きを詳述し、「新政権は衆院を
解散し、『十月十三日公示・二十五日投開票』へと進む」と予言しています。
『中央公論』では、御厨貴・東京大学名誉教授「史上最長政権の功と罪」が、安倍政権の「功」は、トランプ
政権との蜜月関係、平成の天皇の生前退位など、すべて「受け身の『功』」と断じ、スキャンダルを問題視し、
「権力行使のあり方に対する緊張感を極端に失っていた」ことと、コロナ感染症対策に見られたような「国民の
現場との乖離」を「罪」と難じています。
『文藝春秋』でも、橋下徹・元大阪府知事「コロナ対策『国家の動かし方』の失敗」が、「(コロナ対策で)
国と地方自治体の連携不足、すなわち国家の機能不全が起きている状態」、「社会経済活動のアクセルとブレー
キについては知事に任せて、地域単位でもっと細やかにおこなっていくべき」であり、「知事が休業要請、場合
によっては休業命令をおこなえる法的根拠」を与えるようにし、その場合、「『補償』は、必ずセットにしなけ
ればならない」と展開しています。
「無駄の排除や効率化の観点から、行政はスリム化を推進され」、「コロナ禍が電子化の遅れなど『目詰ま
り』を露わにした」と、『中央公論』は、「公務員『少国』ニッポン」を特集しています。
巻頭は菅義偉・内閣官房長官(聞き手=竹中治堅・政策研究大学院大学教授)「国と地方の権限には再検証が
必要」です。菅は、「(コロナ対策は)多くの省庁にまたがっている」、「地方自治体もこれだけ大規模な感染
症は初めてなので、どう動いていいかわからなかったのでしょう」と吐露し、「中央と地方の権限を考える際に
災害対策が参考になります」と権限の再検証の必要性を認めています。
加藤勝信・厚生労働大臣も竹中を聞き手として「厚生労働省の分割についても不断の議論を」で、「これから
先に何をするか、そのために組織をどう変えるかが重要です」、「想定以上の陽性者数と、受け入れのキャパシ
ティの限界があり、実際の運用において問題が生じました」と率直に語っています。
竹中は、「取材を終えて コロナ対策の『キャパシティ』と行政の国会対応」で、「キャパシティ」と「連
携」に問題があった、さらに「国家公務員執務環境には、国会の質問通告の問題が関係している」、「野党が省
庁をヒアリングで問い糺し、公務員を疲弊させている」と指摘し、「国会法改正を含め、国会議員の省庁に対す
る質問のあり方を再検討する必要がある」と強調しています。
北村亘・大阪大学教授「日本の行政はスリムすぎる」は、「ここ一〇年、業務量は増加しているにもかかわら
ず、それを支える公務員の数は減少しており、一人当たりの公務員の業務負担は増加している」と分析し、
「(地方・国家公務員の専門性などの)人事情報プールを事前に整備しておき、そこから緊急事態や環境の激変
などの規模に応じて人的派遣を通じて公共セクター内部での人材再配分を行うという提案は傾聴に値する」、
「政策の実施体制にもっと投資が必要である」と提言しています。
『文藝春秋』に「茂木敏充外務大臣 私は日本を守り抜く」、『Voice』には河野太郎・防衛大臣「世界
に『言うべきことを言う』国に」があります。
「『米国と中国の対立』は、すでに過去の話だ。現在進行しているのは、『(米国主導の)海洋同盟と中国の
戦い』」と、エドワード・ルトワック・米戦略国際問題研究所上級顧問「『新冷戦』米海洋同盟VS中国 勝者
の条件」『文藝春秋』は見ています。「米国の大統領選の結果がどうであれ、日本の次の首相は、防衛費を大幅
にアップしなければならなくなるだろう」と予見しています。
佐橋亮・東京大学准教授「トランプ政権内部から読み解く米中貿易戦争」『中央公論』の見立ては、「(日本
は)安全保障を中心に米国の動きを見る傾向がある」、「(トランプ政権の)政策形成は安全保障だけでは決ま
らない。再選したとしても、支持層を満足させるように、製造業の米国回帰や穀物輸出を図る。とすれば中国叩
きの一方で、取引主義への衝動も残るだろう」、「(バイデン当選の場合)対中関税や貿易戦争といった方法は
放棄されると言われている。しかし、中国経済の改革や市場開放が遅々として進まず、むしろ逆行しつつあるこ
とに、米国には広く不満がある。経済摩擦は形をかえて米中関係において表面化する」です。
『Voice』は、「中国の限界」を総力特集しています。
巻頭は、野口悠紀雄・早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問「『不寛容の中国』に覇権は握れ
ない」です。「その国の価値観、制度を、世界の人びとが望ましいものであると認めて追従することで、初めて
覇権国は誕生する」、「中国の外への不寛容さを列挙すれば、枚挙に暇がない」ので、中国には覇権国になる条
件がないと断言しています。日本は工場を東南アジアに分散するなどリスク分散をはかり、かつ「(情報技術面
での遅れなど)コロナ禍で露わになった課題を克服し、国力を増強しなければならない」と警鐘を鳴らしていま
す。
「技術力と中国のIT適応の進み方には、瞠目すべきものがある。もはや『中国はどうせパクるだけ』といっ
た驕った思い込みは危険である」と、津上俊哉・現代中国研究家「『チャイノベーション』を侮るなかれ」には
あります。
遠藤乾・北海道大学教授「『切り下げの帝国』が世界を劣化させる」は、「世界中で既存のスタンダードを劣
化させてゆく、いわば『切り下げの帝国』の様相を呈している」と中国を難じ、「軍事的な対応、政治外交的な
連携が欠かせない」、「自らの社会を高い水準に保ち、それによって中国などの権威主義国に対して逆浸透を図
るよう、中長期的な戦略を練っていかねばならない」と説いています。
「(香港の)『一国二制度』の共産党による解体は、台湾問題の平和的解決の可能性を低減させ」、「中国と
日米同盟の対峙の度合いを一段と高める」と、阿南友亮・東北大学教授「香港の陥落と日本の安全保障」は危惧
しています。
益尾知佐子・九州大学准教授「『軍民統合』で描く社会主義中国の夢」は、「中国で各種『軍民融合』プロ
ジェクトが継続中」であり、「中国政治は急激に急進化し、国家主義、全体主義の方向に歩みを早めている」、
「『新冷戦』による世界の分断は、避けられそうにない」と断じています。
楊海英・静岡大学教授「反人類的ジェノサイドを座視するな」は、「北京当局は内モンゴル自治区において、
今秋からモンゴル人が母語で教育を実施する権利を禁止した。文化大革命中は何万人ものモンゴル人を虐殺し
て、現在では文化的ジェノサイドを強行している」と糾弾しています。
宮本雄二・元駐中国大使「コロナ禍で先鋭化した『戦狼外交』」は、「中国の対外強硬的な路線は『戦狼外
交』とも称されますが、コロナ禍によって先鋭化し」、「ますます国際社会から孤立」し、「(中国は)いま以
上に『扱いにくい』国家になってしまいます」と懸念しています。
7月30日に97歳で亡くなった李登輝・元総統の追悼文が三誌にありました(『Voice』に河崎眞澄・
産経新聞論説委員兼特別記者「日本よ、李登輝氏の言葉に立ち返れ」、渡辺利夫・拓殖大学学事顧問「李登輝、
消えゆく」、『中央公論』に杉山祐之・読売新聞編集委員・台北支局長「『悲哀』を『誇り』に変えた偉大なる
台湾人」、『文藝春秋』に櫻井よしこ・ジャーナリスト「追悼 李登輝―日本人より日本人らしく生きた97
年」)。
(文
中・敬称略、肩書・ 雑誌掲載時)