(記・2020年 10月 20日)

  安倍内閣の最大のレガシーは安保法制の成立と戦後70年談話と評価し、9月16日に発足した菅義偉内閣への国民 の期待は、まさしく「継続の中の改革」だと、北岡伸一・東京大学名誉教授「新政権に求められる『継続の中の改 革』」『中央公論』は断じています。そのうえで、東南アジア、ASEAN地域との関係を強化し、「西太平洋連 合」を目指すべきとし、「広く意見を聞き、熟慮して目標を設定すること」、「問題のありそうな人物を近づけない こと」、「あらゆる資料を残すこと」を新政権への三つの希望としています。
 「コロナの感染拡大防止対策について国と都の言い分が食い違い、連携がうまくいかなかった。ここから見えてき たのは、東京都の“歪み”です」とし、アメリカのワシントンD.C.のように、東京を日本政府直轄にし、都所有 の資産を売却し資産市場を活性化し、国際金融センターにすべきと、竹中平蔵・東洋大学教授「東京を『政府直轄 地』にせよ」『文藝春秋』は提言しています。
 さらに『文藝春秋』では、橋下徹・元大阪府知事「『縦割り打破』はコロナ対策から」が、「無駄を削減するだけ ではなく、経済成長のための新陳代謝を促す。そのことで国民生活を向上させていく」、「そのための規制改革だ と、菅さんは国民に向かってメッセージを発するべき」と説き、公文書改竄、「森友・加問題」、「桜を見る会」な ど、「安倍政権の負の遺産は継承しないというメッセージを強烈に発し、国民からの支持を盤石にする」ことを求め ています。
 日本が将来的に財政破綻に陥る可能性があると、大前研一・ビジネス・ブレークスルー会長「ポスト・アベノミク スの要諦はこれだ」『Voice』は危惧し、「個人と法人の資産に課税し、消費税はそのままで、法人税、所得 税、相続税はゼロにするという大胆な税制改革」を訴えています。「毎年七五兆円の税収が確保できる。これだけあ れば国債を増発する必要はない」というのです。

 森本敏・拓殖大学総長は、三浦瑠麗・国際政治学者との『中央公論』での対談(「米中対立の今こそ日本の主 体性を示せ」)で、「国内経済、黒人差別問題、コロナ対応の三つで(米)大統領選挙が決まる」としながら も、「いままでのように米国の足らない部分を日本が補うのではなく、日本の足りない部分を米国に補わせる。 日本が主体の安全保障体制を作り直していかなければいけません」と説いています。
 「バイデンか、トランプか? 変質するアメリカの選択」と題する『中央公論』での久保文明・東京大学教授 との『中央公論』での対談で、宮家邦彦・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹は、「トランプは中国叩きが 票になるという考えだけで動いていますが、幸いアメリカ議会や安全保障のスペシャリストも、今は超党派で中 国を問題視しています。よってバイデン政権になったとしても、中国に対しては厳しく臨むことが基本路線」と 指摘しています。久保の見立ては、「(中国外交に関して)日米で緊密な話合いが必要になる」、「中長期的に アメリカ外交の将来に不安がある以上、日本自身の努力が必要」です。

 待鳥聡史・京都大学教授「政策よりも再選を優先するトランプ」『中央公論』は、「(トランプは)政策とし て実現するかどうかは二の次で、支持者に自らの姿勢をアピールすることを最優先に行動する」、「政策よりも 再選のための支持固めに専心している」と決めつけています。
 「(トランプとバイデン)両候補の公約は、いずれも『大きな政府』への傾斜を感じさせる」、「もう一つの 共通点がある。自国第一主義である」と、安井明彦・みずほ総合研究所欧米調査部長「大統領選挙で問われる米 国経済再建への道」『中央公論』は分析しています。「異なるのは、外交・通商政策の手法」で、トランプは 「二国間交渉を多用し、関税の引き上げを脅しに使いつつ、同盟国にも譲歩を迫った」で、バイデンは「同盟国 との協調を重視し、国際舞台における米国のリーダーシップの回復を掲げる」と展開しています。
 ジョセフ・ナイ・国際政治学者「米国はソフト・パワーを回復する」『Voice』は、各大学や財団など、 市民社会に依存してのことですが、「トランプ政権のお粗末なコロナ対応がマイナスの影響を与えたソフト・パ ワーは、五年、十年後にはおそらく回復している」と、また、安井と同様、「(外交政策に関し)トランプは米 国の過去七十五年間の伝統的路線を転換させました」が、「バイデンが大統領になれば、主流の方針への回帰が 見られる」と予見しています。

 三牧聖子・高崎経済大学准教授「民主党は労働者の党になれるか?」『中央公論』は、「二〇一六年大統領選 時の民主党はブルーカラーや中産階級を蔑視する、高学歴のインテリの政党というカラーを濃くしていた」、 「低学歴の労働者層の支持を遠ざけてきた、民主党リベラルたちの傲慢なエリート主義は今日、克服されている だろうか」と疑問を呈しています。
 渡辺靖・慶應義塾大学教授は、上の三浦と佐々江賢一郎・日本国際問題研究所理事長兼所長との座談会(「民 主党バイデンとは何者か」『文藝春秋』)で、「バイデンの大きな強みは、さまざまな苦労を体験して共感力が あること」と述べています。佐々江も「非常に親しみやすい。情熱的で、しかも気さく」、「知的な感じが加わ る」、「演説が本当に上手い」と応じています。三浦は、BLM(「黒人の命も大事」)運動が黒人の投票率上 昇には結びつかず、運動が盛り上がれば、かえって「法と秩序」重視を説くトランプ有利になると予測していま す。
 「私が米国人だったらと仮定すれば」、「『民主党左派』の立場から、民主党に“自己変革”を促すために、 抵抗を覚えながらトランプへの投票を考えざるを得ない。民主党は、『黒人を擁護する』と言いながら、肝心の 経済政策において『黒人マジョリティの利益』を代弁せず、実質的に『アンチ黒人』と化しているからです」 と、エマニュエル・トッド・歴史人口学者「それでも私はトランプ再選を望む」『文藝春秋』は吐露していま す。

 野嶋剛・ジャーナリスト「新政権は『親日・香港』の現実を視よ」『Voice』は、日本は歴史的に香港に 「多くの『借り』があり」、かつ「香港人の親日度は世界トップレベル」であり、「中国内部に香港という親日 の橋頭堡が存在することは戦略的にも大きな価値がある」し、「中国に『香港を殺してしまうことは得策ではな い』と明確に伝えることが日本の国益にもなる」と、菅新政権に注文を付けています。
 安田峰俊・ルポライター「中国VS.世界Gスリナム」『Voice』は、「客家、経済支配、華人大統領、 秘密結社……と、南米の小国スリナムと中国の関係は胸焼けするほど密接だ」とし、人口57.6万、四国より やや小さい南米の小国は、「日本にとって縁遠い国ではあるものの、今後も注視していきたい国のひとつであ る」と結んでいます。

 ジェレミー・リフキン・文明評論家「『グリーン・ニューディール』を実行せよ」『Voice』は、「(日 本は)エネルギー部門だけは中国やEU(欧州連合)の後塵を拝している」と問題提起しています。「グリー ン・ニューディールは『ゼロ炭素社会』への移行を目的とした一連の政策・対策」で、それらを「(日本には) 実行に移す技術が揃っています」ので、早急に取り組むべきと力説しています。

 川勝平太・静岡県知事「国策リニア中央新幹線プロジェクトにもの申す」『中央公論』は、「本県の“命の 水”を確保し、大井川に生活・生業を全面依存している『流域県民』を守り、大井川の源泉『南アルプス』は保 全しなければなりません」と、リニア新幹線の建設に異を唱えています。「迂回ルートへの変更なり部分開業な りを考えるのは『国策』をあずかる関係者の責務でしょう」と主張しています。

 及川彩子・在米スポーツライター「大坂なおみが世界に『愛される理由』」『文藝春秋』と、渡邊裕子・コン サルタント・ライター「大坂なおみが問いかけた7つのマスクとBLM」『中央公論』が、大坂が全米オープン テニス女子シングルスにBLM運動を支援するTシャツに黒いマスク姿で臨み、2度目の優勝をとげたことへの 反響・称賛を詳述しています。

 『中央公論』に、「第56回谷崎潤一郎賞発表(受賞作・磯ア憲一郎「日本蒙昧前 史」)がありました。

(文 中・敬称略、肩書・ 雑誌掲載時)