(記・2020年 11月 20日)

  アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)が「新型コロナ対応・民間臨時調査会」を立ち上げ、1月15日 から半年間の政府の対応について当事者にヒアリングをし、その結果を船橋洋一・API理事長が『文藝春秋』に寄 稿しています(「検証 2020年のコロナ対策」)。小池都知事の「ロックダウン発言」が混乱を招き、緊急事態 宣言を遅れさせたようです。死亡率は低いのですが、「(対応は)泥縄だったけど、結果オーライだった」に過ぎな いとのことです。

 「真の標的は、日本共産党系の『民科(民主主義科学者協会)法律部会』でした」、「三人が、さしたる吟味 もなしに加えられてしまった」、「下品な言い方をすれば、“まぶした”わけです」と、佐藤優・作家・元外務 省主任分析官「権力論―日本学術会議問題の本質」『文藝春秋』は解説しています。「みずからの“欲動”をう まくコントロールする“知恵”や“懐の深さ”が『権力』の側に、いまこそ求められているのではないか、と思 います」と結んでいます。
 「官房長官から総理大臣になって、菅さんには大きな夢を語ってほしいんですが、彼は絶対それを語るタイプ ではありません」、「官房長官時代のあの喋り方でいくらメッセージを出しても、国民には受け入れられないで しょう」、「新内閣発足の今、何も学術会議に手を出さなくてもよかったのに……、というのが僕の正直な思い です」と、御厨貴・東京大学名誉教授は、『中央公論』(「官房長官論(聞き手=吉田清久・読売新聞編集 員)」)で語っています。

 「最近の新型コロナ対策において、日本政府の新しい政策を上手く実施する能力は、予想外に低いことが明ら かになった。これには、日本の官僚が政治的調整に関心を集中させ、政策実施への関心が相対的に低かったこと が関係している。これからは、実施過程を適切に管理できる官僚が求められている」、「調整型官僚だけではな く、分析型の官僚や、組織管理型の官僚が、昇進の望みをもって職務に邁進できるような、複線型人事も導入さ れるべきであろう」が、飯尾潤・政策研究大学院大学教授「調整型官僚から政策立案型官僚へ」『Voice』 の提言です。

 藤原正彦・作家・数学者「亡国の改革至上主義」『文藝春秋』は、「彼(菅新首相)はしばしば『実務型政治 家』と称されるが、これは『国家観がない』の婉曲表現なのだ。コロナは終息せず、世界的不況が忍び寄り、米 中摩擦が武力衝突に発展するかの瀬戸際にある今日、国家観のない首相でやっていけるか懸念される」とし、こ こ二十年間の改革は、GDPも日本だけが低迷するなど、失敗であり、「改革には改悪もあるのだ」、「近年の 改革のほぼすべては、新自由主義という悪魔のイデオロギーをアメリカに強要されたもの、あるいは自らアメリ カを模倣したものであった」と断じています。

 新政権に求められるのは、「低金利に胡坐をかいた財政運営や企業経営を止めさせる政策だ」と土居丈朗・経 済学者「コロナ後は『低金利の罠』からの脱却を」『中央公論』は強調しています。「高い収益率を上げなくて も債務の返済が滞らずに経営ができるようになっていた」状態から脱し、「高収益の源となる無形資産(特許、 商標、データ等)の開発を促す規制改革や税制改革、そうした事業に携わる人材の育成や産業間の移動を支援す る政策」を求めています。
 飯田泰之・明治大学准教授「無形の資源を守る有事の経済政策」『中央公論』は、「大規模な予算策定に躊躇 することなく、あらゆる雇用とビジネスを守る必要がある」、「コロナ危機に際して十分かつ絶え間ない支援を 惜しまないこと、日本を再び長期経済停滞に突入させないための不況対策をとる準備があること―これらの決意 を経済政策に関する基本ビジョンの中心に据えることで、菅政権はもとより、日本経済はコロナ危機を乗り越え ることができよう」と説いています。
 「コロナ禍だけが日本の危機ではない。これに続く危機は人口減少と高齢化だ」、「デジタル化の遅れや生産 性の低さ、産業の新陳代謝の欠如などの経済構造問題を見直さない限り、現場は疲弊してコロナとの持久戦には 耐えられない」と見立て、「第一次世界大戦前は世界で十指に入る豊かな国だった」アルゼンチンの失敗の轍を 踏むのでないかと、佐藤主光・一橋大学教授「日本経済のアルゼンチン化を回避せよ」『中央公論』は危惧して います。
 「少子化の最大の原因が、いまの若者の『将来の経済生活への不安』であり」、「コロナ禍がその不安を増幅 させ、終息後も、その不安は強まりはすれども、弱まるとは思えない」と予測する、山田昌弘・中央大学教授 「欧米モデルの少子化対策から脱却せよ」『Voice』は、「男女交際の活性化への支援や奨学金返済の半額 免除、第二子以降の大学授業料無償化、子育て世帯には最低保障収入を設定し政府が不足分を出すなどの『思い 切った、かつ若者に対してインパクトのある』政策プランが必要なのである」と主張しています。

 『中央公論』で、伊藤元重・学習院大学教授が「カリスマ経営者に迫る」と銘打って二人と対談しています。 新浪剛史・サントリーホールディングス代表取締役社長(「需要喚起のアベノミクスから企業活性化のスガノミ クスへ」)は、新首相の突破力を評価し、「最低賃金の引き上げ」の重要性を説いています。ハロルド・ジョー ジ・メイ・新日本プロレスリング前社長(「日本企業が“3カウント”を取られないための経営術」)は、 「『モノ』に加えて『コト(体験)』が大きなビジネスになる」、「『コト』で輸出に成功した代表例はアニメ やゲーム」で、「『コト』を世界に打ち出していく仕掛けはまだまだ必要」と述べています。
 中野剛志・評論家「アベノミクス継承では『賃上げ』できない」『文藝春秋』は、「菅政権が『賃金上昇』を 実現したいのであるならば、過去二十年以上に及ぶ『利潤主導型成長戦略』と決別し、『賃金主導型成長戦略』 へと大転換を図らなければならない。その時、『最低賃金の引き上げ』は、『賃金主導型成長戦略』の一連の政 策の一つとして位置づけられることとなる。同時に、デフレ脱却を達成するまで財政支出を拡大することも必須 だ」と提唱しています。

 渡辺靖・慶應義塾大学教授「米大統領選を揺るがす『Qアノン』の正体」『文藝春秋』の解説によりますと、 「端的にいえば陰謀論の信奉者」、「機密情報を知る当局者と自称する『Q』なる存在が、インターネットの匿 名掲示板で発信した情報を信じている人たち」が「Qアノン」です。「エスタブリッシュメントたちが『闇の国 家』を形成してグローバル化を推進するなか、アメリカの労働者が犠牲になっている」という世界観がQアノン の陰謀論の骨格をなしていて、「Qアノンの被害者意識、現状を拒絶する感覚が、トランプ氏の支持基盤の持つ 意識と重なっている」と分析しています。

 田中明彦・政策研究大学院大学学長「アメリカ民主主義の強靭性の行方」『Voice』は、「バイデン大統 領のアメリカは、少なくとも世界の民主主義国に対してはポジティブな影響を与えるだろう」、「米中対立の構 造が大きく変化することはない」と予見し、「菅政権はインド太平洋地域の国々と安全保障面で連携しつつ、政 治的能力と意思を明確に示したうえで、『責任ある海洋国家』としてグローバルリーダーシップを発揮していく べきである」と力説しています。
 「リベラルな国際秩序を力強く牽引する盟主アメリカはもう戻ってこない。しかし、それは決してアメリカの 国際協調外交の終わりではない。むしろ新たな始まりになりうる。菅義偉新政権のもとで展開される日本外交に は、このようなアメリカ外交の長期的な趨勢を見極めながら、アメリカとより平等な立ち位置で手を携え、国際 協調を力強く立て直していく外交を期待したい」と、三牧聖子・高崎経済大学准教授「『例外国家アメリカ』は 終焉するか」『Voice』は冷静です。

 「中国は海上警備の組織を再編し、日本を上回る警備と装備体制を整えています」、「海上保安庁が自衛隊と 連携して海上警備活動をおこなえるようにするべきです」、「(中国は)国際法よりも、自国の繁栄を優先する のです。私達はそれを認識した上で『尖閣は日本の領土である』と、堅い決意をもって中国に立ち向かうべきで す」と、山田吉彦・東海大学教授「『尖閣奪取』中国に王手をかけられた」『文藝春秋』が警鐘を鳴らしていま す。

 『Voice』に岸信夫・防衛大臣「自主防衛と同盟の両立で国を守る」、『中央 公論』に河野太郎・行政改革・規制改革担当大臣「『脱ハンコ』から始まる日本経済再生」がありました。         

(文 中・敬称略、肩書・ 雑誌掲載時)