(記・2020年 12月 20日)

  月刊総合雑誌2021年1月号は、2020年12月10日に店頭に揃いました。

 『文藝春秋』の表紙には、「総力特集 日米中激突」などとありました。
 巻頭の「徹底討論 日米中激突」で、中西輝政・京都大学名誉教授、中林美恵子・早稲田大学教授がバイデン 氏の外交力などを高く評価しています。呉軍華・日本総研上席理事は「台湾危機が起きる可能性」を心配してい ます。竹中平蔵・東洋大学教授は「(中国はバイデン当選で)ホットしている」、「日本は世界の秩序を作りだ す『ルール・メーカー』にはなれないですが、秩序を整備して維持する『ルール・シェイパー』にはなれるので はないか」と述べています。
 「『保護主義』『孤立主義』『中国との対峙』『ヨーロッパからの離脱』というトランプが敷いた路線は、今 後の米国にとって無視し得ないもの。その意味で“トランプは歴史的な大統領”」と、エマニュエル・トッド・ 歴史人口学者「それでもトランプは歴史的大統領だった」は見ています。
 「バイデンの超党派で政策をまとめていく能力を強く信じており、期待している」とする、ミッキー・カン ター・元アメリカ通商代表「中国には『日米統一戦線』で」は、「最も重要なのは、日本を中心とする同盟国、 友好国と共通のアジェンダをもって中国に対処していくことである。そのためにもアメリカがTPP(環太平洋 パートナーシップ協定)への再参加を通じて地域でのプレゼンスを示すことは非常に大切である」と説いていま す。
 城山英巳・北海道大学教授「バイデンを籠絡した『習近平親密企業』」のリードには「四十年来の『親中派』 活動の陰でバイデンは中国には大きな借りがあった」とあり、バイデンの中国の自動車部品製造の最大手「万向 集団」との癒着や習近平との深い関係を詳述し、「バイデンは中国が関与を強めるア ジアのルールに逆に従わされる立場になりかねない」と危惧しています。
 「バイデン父子の『ウクライナ・ゲート』はまだ解明されておらず、共和党側が追及するだろう」と見ながら も、米国は対露強硬になると、名越健郎・拓殖大学教授「『反プーチン』加速で北方領土が遠ざかる」は分析 し、「対露政策で『同盟諸国の結束』を重視するバイデンは、日本にも共同歩調を求め、抜け駆けを許さないだ ろう」と、北方領土交渉の進展は望めないと予見しています。

 『文藝春秋』には、「2021年 日本を動かす21人」もあり、藤井聡太、大坂なおみ、似鳥昭雄などが取 り上げられています。その中で、田原総一朗・ジャーナリストが菅義偉・内閣総理大臣について「やると言った ら絶対やる頑固な男」とのタイトルで語り、「(弱点は)政治家としての『言葉』が足りない」ことだが、「逆 に言えば、駆け引きやハッタリは使わない人間」と評価しています。
 赤坂太郎「『桜捜査』菅が目論む『安倍封じ込め』」は、「菅VS安倍の確執はもはや覆い隠せない」と断じ ています。

 『Voice』は、「2021年の世界」を総力特集しています。 巻頭論文は、中西輝政・京都大学名誉教授「米国の難局と『責任ある保守』の使命」です。「英仏独など NATO諸国は対中国ではアメリカの立場に近づき、他方の対ロシアではバイデン政権がこれら欧州諸国の対ロ 強硬に立場に接近する」と予測し、「RCEP(東アジア地域包括的経済連携)の中国支配を阻止し、二つの枠 組みのあいだのバランスをとるためにも、アメリカをTPPに引き入れることが日本にとっての最善の目標とな る」と提唱しています。
 「中国式の監視型独裁政治は行き詰るでしょう。人間は最終的には自由を求めるからです。しかも中国は、食 糧を輸入に頼らないと賄えない構造的な問題を抱えています」、「(中国が)新型コロナの情報を隠蔽したこと がパンデミックの根本的な原因です。そんな無責任な国に超大国になる資格はありません」と、ジャック・アタ リ・経済学者「団結する欧州諸国、無責任の中国」は断言しています。
 秋田浩之・日本経済新聞コメンテーター「対中劣勢を挽回する準大国の役割」は、「(日本は)他の準大国 (ミドルパワー)と組み、民主主義を中心とする世界秩序が壊れないよう、もっと積極的に貢献していかなけれ ばならない」とし、防衛力強化とインド太平洋での網状の安保協力の拡大、インド太平洋が中国のデジタル勢力 圏になることの阻止を求めています。
 「対中抑止力を静かに高めるべきである」と論じながら、松田康博・東京大学教授「台湾海峡の地殻変動を座 視するな」は、「対中抑止力強化と対中関係の安定化は必ずしも矛盾しない。日中関係の安定は、米中関係の悪 化に規定されることがあり、米中対立は、日中関係に大きなチャンスを与える。安定した日中関係のもとで、中 国が極端な行動をとらないよう関与を強めるほうが、抑止力はより効果的になるのである」と結んでいます。
 「アメリカと中国という両超大国のどちらをも必要とする日本は、多国間主義にその活路を見出すしか方策は ない。菅政権の通商戦略の中核に、WTO(世界貿易機関)体制の維持強化を置いてもらいたい」と、渡邊頼 純・関西国際大学教授「多国間貿易体制の再興を主導せよ」は力説しています。
 待鳥聡史・京都大学教授「菅政権は『官邸の力』を何に使うのか」の見立ては、「菅政権が安倍政権以上の官 邸主導を志向しており、その際には官房長官・副長官・首相秘書官ら少人数の決定を好むスタイルが継続する可 能性が高い」、「自分の言葉で大きな構図を描きだすトップリーダーこそが、有権者に期待され、世界から尊敬 を集める存在になる。首相自身が官房長官モードから首相モードへと全面的に切り替えられるかどうかが、菅政 権の行方に大きく影響するはずである」です。

 『中央公論』の特集は「『女子供』のいない国―中高年男性社会は変われるか」です。世界経済フォーラムが 2019年12月に発表した「ジェンダー・ギャップ指数(男女平等指数)2020」で、日本は153ヵ国中 121位(前回は149ヵ国中110位)だったことから、「男性目線で見ると、日本の実態は『女子供』抜き で回る国だということか」と問題視し、「『女子供』という言葉から侮蔑的な意味を消すために、取り組むべき 課題を探る」とのことです。
 出口治明・立命館アジア太平洋大学学長×村木厚子・津田塾大学客員教授「『女性がつくった国・日本』をガ ラパゴス化から救え」、小島慶子・エッセイスト×林香里・東京大学教授「人気広がるフェミニズム、変われな いジャーナリズム」などがあります。

 「徹底検証2020米国大統領選挙」も、『中央公論』は編んでいます。 渡辺靖・慶應義塾大学教授「トライバリズムを民主主義は克服できるか」は、「(米国内は)もはや『二極化』 や『分極化』というより政治的な『トライバリズム(部族主義)』の状態に近い」と憂慮しています。
 「バイデン政権には日米関係について一定程度の安定性を期待できる」が、「日韓の間で問題になっている歴 史や従軍慰安婦の問題に対しては、トランプ政権はあまり興味がなかったと思うが、民主党内には敏感な人がい るので、日本側は気をつけて対応する必要がある」と、久保文明・東京大学教授「バイデンが進む茨の道とトラ ンプが残す影響力」は案じています。
 「共和党は過去二〇年間で非自由主義的な性質を顕著に表すようになり」、「権威主義国家の与党に近い」、 「(民主主義の危機は)連邦議会レベルでの民主党と共和党の対立と分断にとどまらない」と嘆きながらも、 「とはいえ、アメリカの民主主義への希望を失ってしまうのは早計だ。マイノリティや低所得者の投票権が脅か される一方で、彼らの権利を守るための運動も着実に進行し、成果を生み出しているからだ」と、三牧聖子・高 崎経済大学准教授「民主主義の危機と再生」は、明るい面をも紹介しています。
 「一億五〇〇〇万人もの歴史的な数の人々が、政治をわがことと捉え、期日前投票など様々な努力をして一票 を投じた」、「民主主義がまだ死んではおらず、人々がこの国を諦めていないということの証明のように思え る」と、渡邊裕子・コンサルタント・ライター「『振り子』を逆に動かしたZ世代とマイノリティ」も記してい ます。Z世代(97年以降生まれ)とミレニアル世代(81〜96年生まれ)の動向がバイデン勝利の一因のよ うです。

(文 中・敬称略、肩書・ 雑誌掲載時)