(記・2021年 1月 20日)

  「コロナのような非常時には“調整事項”があまりにも膨大に出てきて、とても一人では見切れません。無理にでも “すべて一人で見よう”とすれば平時ではあり得ないような“ボロ”が必ず出てきます」、「日本政治がずっと悲願 としてきたような“トップダウンの権力構造”が理想に近いかたちでようやく実現したのに“実際にそれを担えるだ けの力量の人間がいない」と、片山杜秀・政治学者「菅『敗戦処理内閣』の自爆」『文藝春秋』は、現状を見ていま す。
赤坂太郎「『支持率急落』二階、麻生、安倍の策謀」『文藝春秋』は、自民党内に不協和音があるとし、「『女系天 皇』についての議論が、間もなく始まる」、「コロナという直近の課題に加え、歴史観、天皇観が問われる国の長期 的課題を、菅は落着させることができるのだろうか」と心配しています。

松井孝治・慶應義塾大学教授「『七人の侍』に学ぶ公務員人事制度改革論」『中央公論』は、「(菅首相は)官 邸そのものの機能拡大よりも自身と精鋭で各府省をグリップする路線に転じようとしているようにも見える」と 分析し、かつ「今後の公務員制度のあり方」に取り組んでいます。「明治の高等文官試験に淵源を持つ公務員試 験」や「因習を色濃く残した現行の公務員制度」から脱し、官民、中央政府と地方政府の相互乗り入れなどを視 野に、見直しが必要としています。

『文藝春秋』では、「苦闘する分科会会長の告白 尾身茂『東京を抑えなければ感染は終わらない』」が、「今 回の流行の実像は、首都圏など大都市の十代〜五十代が無症状のままウイルスを地方に運ぶ。飲食が主要なドラ イビングフォースとなって、家庭や施設を経由して高齢者に伝播し、重症化していく¬」、「問題の核心は、東 京都の感染状況です」、にもかかわらず、「菅首相の方は経済への悪影響を考慮してリーダーシップを発揮しき れず、これに対して小池知事は『国が決めた』という形にこだわっていました」と嘆いています。
森田洋之・医師・医療経済ジャーナリスト「日本だけなぜ医療崩壊が起きる」『文藝春秋』によりますと、実 は、「日本は世界一の病床(人口あたり)保有国」です。しかし、「病床やスタッフを機敏に増減させられる 『縦の機動性』も欠如していれば、それらを充足地域から不足地域へと横に移動させる『横の機動性』も欠如し ている」のが、問題なのです。「診療報酬が低く抑えられているので、満床にして患者数を稼がないと経営が維 持できないシステムだから」なのです。「医療というものの公共性」を見直すべきと問題提起しています。

『文藝春秋』には「文在寅大統領の最大のブレーンの直言」と銘打って、文正仁・韓国大統領府統一外交安保特 別補佐官「徴用工問題に『癒しの基金』を」があります。「(徴用工問題に関し)韓国の文喜相・前国会議長が 提案した解決案(日韓の企業と個人の寄付金で日本企業の賠償金を肩代わりするプラン)」は「現実的代案の一 つになりうる」、ただ「三権分立の制度的制約と被害者の同意という現実的制約により、非常に困難」と述べ、 「戦略的協力と経済協力を強化していくことで韓日親善の幅が広がれば、自然に歴史問題の解決策が出てくるは ずです」と、歴史問題よりも経済協力が先と主張しています。
『文藝春秋』には、「日韓厳冬」と題した“徹底討論”もあります。舛添要一・国際政治学者の上の「文喜相 案」に似た「財団方式」での解決への提案に対し、城内実・衆議院議員は「慰安婦問題解決を反故にされた」、 武藤正敏・元駐韓国大使は「解決済み」と反対しています。加藤康子・内閣府産業遺産情報センター所長は 「(軍艦島関連での)一千人虐殺説や地獄島という荒唐無稽な風説」を問題視しています。奥薗秀樹・静岡県立 大学教授は「(文政権が掲げている)積弊清算」を前提に対処すべきと説いています。「歴代の保守政権の時代 に積み重なってきた害悪(積弊)を清算」しようというのです。「積弊の対象には、韓国国内の『親日派』が含 まれている」、「親日保守既得権勢力が韓国の社会と政治を支配してきたので、これを一掃しなければならな い」のです。
久保田るり子・産経新聞編集員「『ベルリン慰安婦像』日本外交の敗北」『文藝春秋』は、「(欧州で設置され る)慰安婦像は増え続ける。韓国の慰安婦運動が自らの存在証明をかけてくる。韓国政府は国の威信をかける。 水際などで防御できるわけがない。日本政府が外務省のホームページの『慰安婦問題についての我が国の取組』 をドイツ語にしたぐらいでは、何も変わらないのである」と警鐘を鳴らしています。

『Voice』の総力特集は「経済安全保障と日本の活路」です。
米中対立は、「冷戦下の米ソ対立」とは様相を異にし、「選択的」、「流動的」、「多元的」なので、「まだら 状」であると、川島真・東京大学教授「『まだら状』の米中対立に揺れる世界」は評し、日本は、「米中双方と たゆまず『取引』をしていくことになる」と予見しています。 
村山裕三・同志社大学教授「日本の『戦略的不可欠性』を活かせ」によりますと、「戦略的不可欠性」とは、 「決定的に重要な領域において代替困難なポジションを確保すべきとする考え方」です。その確立こそ「米中覇 権競争時代の日本の最重要課題」で、「日本が『戦略的不可欠性』をもつ技術は、防衛技術分野では積極的に活 かすべき」で、「(同盟国や有志国の間で防衛関連の)サプライチェーン構築に、得意とする技術を活かすこと で貢献できる」と力説しています。
小谷賢・日本大学教授「対中防諜と秘密保全体制の強化を」は、「個人のプライバシーを調査して、それにパス すれば機微情報へのアクセスを認めるという、いわゆるクリアランス制度」の導入の意義を説き、「日本と価値 観を共有するファイブ・アイズ諸国と連携、情報共有を行なうことで、中国の行動に対する状況認識が共有され るのではないだろうか」と結んでいます。

「これでいいのか? 日本の大学」を『中央公論』が特集しています。 巻頭の萩生田光一・文部科学大臣との対談(「逆境が生み出したポストコロナの大学像」)で、田中愛治・早稲 田大学総長はオンラインと対面を組み合わせた授業を評価し、産学連携・公的資金の必要性を強調しています。
苅谷剛彦・オックスフォード大学教授「抵抗の場たるべく、『広く浅い』学びから脱却せよ」は、講義形式の授 業を「広く浅く」履修させる日本の大学教育の改革を提唱しています。改革のネックは、兼務教員への依存、兼 務教員の高齢化、財政事情などと指摘し、さらにコロナ禍で受容された講義のデジタル化の進展が「広く浅い」 学びをより一層強化する可能性があると危惧しています。

上の『中央公論』の特集には「〈学術会議編〉」として3篇があり、そのうちの大西隆・元日本学術会議会長 「学術会議改革はどうあるべきか」は、「(会員については)法によって選考基準や任命手続きが定められてお り、任命権者である首相といえども法を無視した任命拒否は許されない」、「学術会議の基本的な枠組みを今変 更する理由はない」と明言しています。
一方、池内恵・東京大学教授「時代錯誤のレッドパージと学者集団の大いなる矛盾」は、「(今回の手法が)国 立大学法人の学長人事などに拡大適用されかねない」との危惧や首相が国民に説明すべきとする求めを正当とし つつも、「国家機構の一部に、反体制的な政治目標を掲げた集団が組合的に参画して支配し、その構成員が公務 員としての地位を得ているというのも、奇妙な状態である」、「日本学術会議が声明等によって各大学の、より 実質的な学問の自由を制約することを正当化し、推進していることには大きな矛盾がある」と論じています。
また、細川昌彦・明星大学教授「大学はなぜ経済安保を直視しないのか」は、「軍事と民間の区別を前提とした 旧来の議論が通用しなくなってきている」、「中国は今、軍民融合の戦略を進める上で、日本の大学へのアプ ローチを強めている」、「これを日本の大学はナイーブに歓迎し、無防備な光景が繰り広げられている」、 「(米国では)自主的な防衛手段も多くの大学が講じている」、「なぜ日本学術会議からこのような自主的な提 言が出てこないのか」と慨嘆しています。

『Voice』では、五神真・東京大学総長「大学が社会変革のトリガーになる」が、今後、大学が目指すべき は、「産学連携ではなく『産学協創』」であり、大学債による長期的活動を意図し、「日本独自の学問文化を高 度な水準でしっかり守る」などと述べています。

(文 中・敬称略、肩書・ 雑誌掲載時)