「なかなか決断ができなくて、物事を上手に語れないというのは、我々日本人の嫌なところを体現している」と菅総
理を、佐藤優・作家・元外務省主任分析官が、池上彰・ジャーナリストとの対談(「菅総理の欠点は日本人の欠点」
『中央公論』)で評しています。
「官房長官として優れていても、首相として優れているとは限らない」との評(鈴木一人・政治学者「名選手、名
監督にあらず」『中央公論』)もあります。
橋下徹・元大阪府知事「菅総理よ、異論を聞く耳を持て」『文藝春秋』によりますと、「菅総理は『正解がある程
度わかる』状況における戦術を、『正解が全く分からない』状況にも適用してしまっている」のです。「政治家や専
門家など他の人たちを原告・被告のような形で二手に分けて、一つのテーマについてガンガン議論」してもらったう
えで判断・決定する「裁判方式」を推奨しています。
竹中治堅・政策研究大学院大学教授「菅政権、混乱の対応を読み解く」『中央公論』は、「これまでの経緯は、感
染拡大時に感染対策と経済活動を両立させる難しさを示している。現在の法制度のもとでは政権側と知事側の摩擦が
起きやすいことも改めてはっきりした」と指摘しています。今後は、「ワクチン接種体制の整備」とともに、「大規
模検査にも取り組むべき」と提唱しています。
「果たして菅は、春解散を決断するのか。この一〜二ヵ月のコロナ対策の成果がこの国の近未来を決めることにな
る」と赤坂太郎「『菅降ろし』へのカウントダウン」『文藝春秋』は見ています。
「新型コロナウイルス感染症対策分科会」のメンバーの小林慶一郎・東京財団政策研究所研究主幹が「コロナ
第三波『失敗の本質』」を『文藝春秋』に寄せ、「今後、日本が危機への対処能力を上げるためには、まず政治
家と官僚が無謬性の罠から脱却すること、そして最悪の事態を想定した政策をスピーディに打ち出し、『試行錯
誤』を柔軟に繰り返して、政策を進化させることが必要だと考えます」と述べています。
福田充・日本大学教授「特措法改正、私権制限の難問に向き合え」『Voice』は、「緊急事態においてど
のような私権の制限が認められるのか、新型コロナの危機事態が収束したのちに時間をかけて議論しなくてはな
らない。場当たり的な特措法の増築で、日本国憲法との整合性を検討されることなく、なし崩し的に私権が制限
されるべきではない」と主張しています。
『Voice』は、「米国よ、どこへゆく」を総力特集しています。
細谷雄一・慶應義塾大学教授「インド太平洋の地域秩序を主導せよ」は、「台湾や尖閣諸島をめぐり、想定外
のかたちで緊張が高まり、現状変更が行なわれる可能性も想定しなければならない」、「早期の日米首脳会談開
催の見通しを立てることと、相互の意向の調整を事務レベルで進めていくこと、さらにはバイデン新政権のアジ
ア政策関連の主要ポストが埋まるまでの半年から一年の間は、むしろ菅政権の日本が主導権をとって適切な関与
と対応の準備を進めなければならない」と説いています。
「日本はもう『経済大国』ではない。しかし東南アジアで高い信頼を得ている。東南アジア諸国は米中対立激
化のなか、それぞれにリスクをヘッジし、米中の意を迎え、対立の矢面に立つことを避け、漁夫の利を得ようと
している。そのためには使えるものはなんでも『てこ』として使いたい。日本に期待されるのはそういう『て
こ』の役割である」と、白石隆・熊本県立大学理事長「『自国ファースト』を貫くASEAN」は断じていま
す。
「『同盟国との連携』は、まず半導体分野での対中輸出管理が試金石となる。これは、日本にとって初めての
取り組みだ」と案じ、「バイデン政権をアジアにコミットさせることは、日本にとって最重要課題だ。戦略的に
優先すべきは『自由で開かれたインド太平洋構想(FOIP)』だろう」、「日本は世界のパワーゲームのなか
で、かつての調整外交に戻ることは許されない」と、細川昌彦・明星大学教授「米中対立の『新局面』が問う日
本の覚悟」は展開しています。
「バイデンは、アジアより欧州指向である」、「日本の生き残りの戦略は『ビスマルク外交』以外にはな
い」、「米国との同盟を強化し、英、オーストラリア、インドとのあいだのFOIPの枠組みを積極的に展開
し、中国を孤立化させることにある。同時にロシアとの関係を密にして中露接近を阻止することになる。英仏の
空母が常時アジア地域に展開できるように横須賀や佐世保を母港として提供すべきであろう」と、川上高司・拓
殖大学海外事情研究所所長「バイデン政権で手放される台湾と日本」は力説しています。
ジョージ・フリードマン・地政学アナリスト「日本は経済力に見合う軍事力確保を」の日本への注文は、「ア
メリカと同調しながらも決して全面的には依存せず、海上交通路を確保できる軍事力をもつこと」です。「日本
は世界三位の経済大国ですが、大きな問題は、原材料のほとんどを輸入に頼っている」からです。
「トランプの敗北は、アメリカが絶望的な状況にはないことを意味します」、「二十一世紀が中国の世紀にな
ることはない。なぜなら中国には民主主義がないから」、「五十の州があるということは、アメリカは国の運営
について五十の実験ができるということ」、「アメリカが世界で最もパワフルな国であり続ける」、「民主主義
の大きな強みは意見の不一致」が、ジャレド・ダイアモンド・UCLA教授「それでも中国の時代は来ない」
『文藝春秋』の見立てです。
久保田るり子・産経新聞編集委員「『慰安婦判決』韓国の破滅」『文藝春秋』は、「『反日こそが正義』と
なった韓国のアイデンティティが暴走している。反日を先導してきた文大統領は、反日賠償判決をさらに政治利
用するに違いない。この政権は、日韓の破滅的未来にいかなる痛痒も感じていないからだ」と予見しています。
『文藝春秋』で、小泉進次郎・環境大臣が古川元久・国民民主党国対委員長、古川禎久・自民党衆議院議員と
脱炭素について討論しています(「日本列島『再エネ』改造論」)。菅総理の所信表明演説での「二〇五〇年ま
でに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする」との宣言に、小泉は「日本の総力を結集すれば、絶対に実現できる
し、次世代につながる新産業、雇用を生み出していける」と太鼓判を捺しています。
小泉は、『中央公論』の特集「環境革命の虚実」でも、インタビューに応じいます(「再生可能エネルギーと
EV抜きに日本の将来は描けない」)。「今後世界中で投資が継続的に増える分野は脱炭素の市場以外にはな
い」、「気候変動外交は間違いなく日本が存在感を発揮することができる分野だ」と意気軒昂です。
上の特集内で、村上陽一郎・東京大学名誉教授「感染症戦線と『3・11』後の原子力」は、「すでに建設し
てしまった施設に関しては、温室ガス排出についての原子力の優位性は、認めざるを得ない以上、これを徒に休
ませておく、というのは不合理である」、「脱炭素社会の実現に、原子力を単に過去のものと捨ててしまうの
は、賢明でないように思われる」と論じています。
平沼光・東京財団政策研究所研究員「資源エネルギー覇権競争の大転換が始まった」は、日本には「天然資源
の純度を高めて作られた製品」が「廃棄物として地上に蓄積されている」ので、それら「“都市鉱山”」を活用
すれば、「日本は紛れもない資源国となるだろう」と言い切っています。
『中央公論』には「新書大賞2021発表(受賞作・斎藤幸平・大阪市立大学准教授『人新世の「資本
論」』)」があり、受賞者の斎藤が、特集内で藤原辰史・京都大学准教授と対談(「農に第三の道あり」)して
います。斎藤は「水や森林、文化、知識といった根源的な富」は「市民が自治管理するべきであるとマルクスは
考えていました」とし、かつ「大量生産・大量消費によって失われてきた自然の豊かさも含めて、何を取り戻す
べきなのか。気候変動という危機を前に、根深い経済成長神話、自然に対する人間の支配そのものを大転換する
時が来ています」と問題提起しています。
『文藝春秋』に、「第164回芥川賞発表(受賞作・宇佐見りん「推し、燃ゆ」)」がありました。
(文
中・敬称略、肩書・ 雑誌掲載時)